行政法T 第29回 「規制の法的仕組み」大橋p175〜178の範囲
正木宏長
1 許可制(宇賀概説Ip86〜98)
1.1 定義 
 
・「ある種の国民の活動を一般的に禁止したうえで、国民からの申請に基づき審査を行い、一定の要件に合致する場合、禁止を個別具体的に解除する法的仕組み」

・立法実務では行政庁の裁量の度合によってある程度言葉が使い分けられている
 
「免許」→「許可」→ 「確認」「登録」「認定」「認証」
(右に行くほど裁量が限定され、覊束的になる。ただし自動車の「運転免許」のような例外もあるので、あくまで目安である)

 
警察「許可」と公企業の「特許」
・伝統的行政法学の定義
 →社会公共の安全・秩序の維持という消極目的(警察目的)の「許可」:覊束
 →電気・ガス事業のような公益事業についての積極目的の「特許」:裁量
 
 毒物及び劇物取締法4条1項に規定する毒物又は劇物の輸入業の登録の申請があつた場合には、毒物及び劇物取締法所定の欠格事由に該当しない場合、登録をしなければならない。このような規制を「登録制」と呼ぶことがある。裁量の余地が少ない許可制の一種と解して差し支えない
 判例によると、護身用器具「ストロングライフがその用途に従つて使用されることにより人体に対する危害が生ずるおそれがあることをもつてその輸入業の登録の拒否事由とすることは、毒物及び劇物の輸入業等の登録の許否を専ら設備に関する基準に適合するか否かにかからしめている同法の趣旨に反し、許されない」(最高裁昭和56年2月26日第1小法廷判決、民集35巻1号117頁、行政判例百選60事件)
 
1.2 許可制の態様 
 
需給調整
 
・製造たばこ小売販売業の許可では、過当競争防止のため既存店舗から一定の距離を保つように距離制限が設けている(たばこ事業法23条3号、たばこ事業法施行規則20条2号)
 →たばこ小売販売業免許の距離制限規定については、合憲判決がある(最高裁平成5年6月25日第2小法廷判決、判時1475号59頁)
 
先願制
判例 最高裁昭和47年5月19日第2小法廷判決(民集26巻4号698頁、行政判例百選64事件)
 
 XとAは公衆浴場の営業許可をY(広島県知事)に対して同時期に申請したため争いになった距離制限のため一地域には一業者しか営業できない
 
 「公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し...ている。」「そして...右許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解されるから、本件のように、右許可をめぐつて競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであつて、そのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。」
 
1.3  許可の要件 
 
・許可の、欠格事由として、以前に許可を取り消された者や犯罪歴のある者を不許可にする法律は多い(ex. 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風俗営業法)4条1項2号、5号)
・消極目的の裁量が少ない許可制でも、事業規制の場合、構造・設備要件を設けていることが多い(ex. 風俗営業法4条2項1号)
・法律によっては、さらに厳しい要件が法律で課せられることがある
 
 ex. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律7条5項では一般廃棄物処理業の事業許可について、当該市町村による一般廃棄物の収集または運搬が困難であること(1号)、申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること(2号)、事業者の設備能力が環境省令で定めた基準に合致していること(3号)、といった要件を課している
 
 旧清掃法では、汚物取扱業の許可について、法律で許可要件が定められていなかったが、最高裁は、「市町村長が前記許可を与えるかどうかは、...市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である」と判示した。(最高裁昭和47年10月12日第一小法廷判決、民集26巻8号1410頁、行政判例百選74事件)一般廃棄物収集運搬業への参入規制については、参照、最高裁平成16年1月15日第1小法廷判決(判例時報1849号30頁)
 
「環境規制の積極性」:田中二郎は、経済統制や環境規制や原子炉規制のような「規制法」は、警察法とは異なり、消極目的ではなく、積極目的であるとしていた(田中、下巻p84)
 美濃部的な公企業特許と警察許可の二分法は、相対化している
 
1.4 許可の対象 
 
・対人許可 → 人的要素に着目 :医師免許、弁護士登録など → 一身専属的、地位を承継不可能
・対物許可 → 物的要素に注目 :車検(自動車検査、道路運送車両法58条1項) → 地位を承継可能
・人的要素と物的要素の双方に着目 :風俗営業の免許 → 地位の承継には承認が必要(風俗営業法7〜9条)
 
2  規制の内容(宇賀p86〜89、146〜148)
 
(1)警察許可型
 
・消極目的の警察許可を受けても、営業をするにあたり各種規制が課せられることがある
 
ex. 風俗営業法の風俗営業への規制(の一部)
 

・風俗営業の定義(2条1項1号〜5号)
「一  キャバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
二  喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)
三  喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて営むもの
四  まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
五  スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。) 」
 
※平成27年改正によりダンスホールは規制対象から外れた(参考、旧法下でダンスについて限定解釈をし、無許可営業のクラブについて無罪判決がなされた事案。大阪高裁平成27年1月21日判決、LEX/DB25505605、平成26年重要判例解説憲法8事件)。

 
 
・風俗営業を営もうとする者は、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(風俗営業法3条、許可要件については4条
 → 無許可営業には刑罰(2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)が科せられる(風俗営業法49条1号)
 → 4条2項2号に営業制限地域を都道府県条例で定める旨の規定がある
 
@構造・設備の維持(風俗営業法12条)
 → 構造・設備については国家公安委員会規則で定められる(風俗営業法4条2項1号、講学上の行政立法)
A営業時間の制限(風俗営業法13条)
B照度の規制(風俗営業法14条)
C騒音・振動の規制(風俗営業法15条)
D広告・宣伝の規制(風俗営業法16条)
E料金の表示(風俗営業法17条)
F行政罰が科せられる禁止行為の定め(ex. 18歳未満の者に客を接待させる、未成年者への酒類提供など、風俗営業法22条)
 → 風俗営業法22条への違反には直罰制により刑罰が科せられる(風俗営業法50条、52条)
 
・違反者への都道府県公安委員会の指示(風俗営業法25条ex. 広告の撤去など)
 → 指示違反に罰則はないが、この場合は風俗営業法26条による処分が可能である
 
・違反者への都道府県公安委員会による許可の取消し、又は6月を超えない範囲内での期間の当該風俗営業の全部若しくは一部の停止命令(風俗営業法26条、許可の取消は講学上の行政行為の撤回)
 → 違反には刑罰(風俗営業法49条、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)
 → 風俗営業法41条では、26条により公安員会が営業停止命令をする場合も聴聞を行わなければならないとしている(行政手続法の例外)
 
・都道府県公安委員会による風俗営業者への報告・資料の提出の要求、警察職員による営業所への立入(風俗営業法37条、行政調査)
 → 調査拒否には刑罰(風俗営業法53条、100万円以下の罰金)
 
(2)公企業の特許型
 
義務
@事業の開始義務(電気事業法7条)A廃業の許可制(電気事業法14条)B需用者への供給義務(電気事業法17条)C約款・料金等についての認可制(電気事業法18条)
 
特権
@土地収用が可能になる(土地収用法3条)A道路の占用が認められる(道路法36条)B行政財産に例外的に地上権が認められる(国有財産法18条)
 

業者による自己統制(阿部、法システム上p116〜118)
 
@責任者の設置  ex. 食品衛生管理者(食品衛生法48条)、技術管理者(廃棄物の処理及び清掃に関する法律21条)
 
A記帳義務 : ex. 古物取引(古物営業法16条)、質物契約(質屋営業法14条)、排出水の汚染状態の測定記録(水質汚濁防止法14条)
 
 記帳義務は、時として憲法38条の黙秘権の保障との抵触が問題となる
 最高裁は、不正に麻薬を用いた者が、麻薬取締法違反のほかに、麻薬取扱者としての記帳義務違反でも訴追されたことにつき、最高裁は、「旧麻薬取締法14条1項が、麻薬取扱者に対しその取り扱った麻薬の品名及び数量、取扱年月日等を所定の帳簿に記入することを命ずる理由は、麻薬取扱者による麻薬処理の実情を明確にしようとするにあるのであるから、いやしくも麻薬取扱者として麻薬を取扱った以上は、...、右記入の義務を免れないものと解するのが相当である」とした(最高裁昭和29年7月16日第2小法廷判決、刑集8巻7号1151頁、憲法判例百選123事件)

 
3 届出制(宇賀p102〜103)
 
届出制:「国民がある行動をとる前または後に、行政機関への届出を義務付ける仕組み」
 ex. 店舗型性風俗特殊営業(ソープランド)の営業には公安委員会への届出が必要(27条1項)
 
・無届け営業には罰則がある → (風俗営業法49条5号)
・届出制だからといってかならずしも許可制よりも規制が緩やかとは限らない
 → 店舗型性風俗特殊営業については風俗営業以上の厳しい立地規制や広告規制がある。違反した場合、指示や営業停止処分を受ける(風俗営業法28〜31条)
 
 形式的要件の不備を理由に、届出を却下することはあり得る。また届出制のように見える規制も、実質的要件の判断の余地がある許可制であると言える場合がある
 最高裁は、アレフ信者の住民基本台帳法上の転入届に対する不受理「処分」につき、市町村は法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を受理しないことは許されず、住民票を作成しなければならないと判決した(最高裁平成15年6月26日第1小法廷判決、判例時報1831号49頁)。
 
4 下命・禁止制(宇賀p103〜105)
 
(1)下命制
 法律による下命 : 給与等の支払いをする者に対する源泉徴収義務(所得税法183条1項)
 行政行為による下命 : 違法建築物の除却命令(建築基準法9条1項)
 
(2)禁止制
 法律による直接の禁止 : ex. 売春防止法の各種禁止(3条〜13条)、不法投棄の禁止(廃棄物処理及び清掃に関する法律16条)
 行政行為による禁止 : ex. 危険防止のための道路の通行禁止(道路交通法6条4項)
 
直罰制
・売春防止法や不法投棄の禁止のように違反に際し直ちに刑罰で臨む場合を直罰制と呼ぶ
・これに対し、行政行為で義務を設定して、違反した者には行政罰が科せられる場合、行政行為介在制と呼ぶ