行政法I 第3回 「行政法の観念」 大橋p6〜7、15〜18、113〜114の範囲
正木宏長
1 行政法とは 
 
・ 行政法 : 行政に関する法
 
※ 行政法という学問
 
穂積八束:「行政法はまた法令全書に非す。現行法令の暗記は刀筆の小吏に若くはなし、何そ大学の博士を待たん。学問の要求は成法の拘束の下に国家と私人との間に成立する法律関係の百般の態様を分析し総合し以て之を其原則に統一することに在り。」
 
藤田宙靖:「たくさんの法令の規定を夜空の星と考え、『行政法』をいわば『太陽系』と考えるならば、『万有引力の法則』にあたるものとしての『理論』があるはずだ、ということになるわけです。こういった意味での『理論(法理論)』が、つまり、これから説明することになる『行政法理論』だ、ということになります。」
 
2 行政法の成立(塩野p13〜p14)
 
・行政法が成立するための要件
・行政という活動が法に服すること
・行政が服するところとなる法が民事法とは異なること
 
3 日本の行政法(塩野p17〜p19) 
3.1 明治憲法下の制度と学説 
 
・伊藤博文によるプロイセン的行政制度の導入
 
・司法裁判所とは別系統の行政裁判所の設置
 
理由 → 行政権の独立(司法への隷属を防ぐ)、行政責任の担保(行政訴訟を裁定できないのでは憲法上の責任を果たせない)、行政の専門性の確保(司法は素人)
 
・日本の行政法学説  → ドイツの影響
 
・美濃部達吉によるO.マイヤー行政法の翻訳
・公法・私法二分論をベース
 
 
 
 
 
 
 
 

※戦前期、行政法の業績を残した代表的な法学者
 
 → 美濃部達吉、織田万、佐々木惣一
 → 美濃部門下の田中二郎、柳瀬良幹、鵜飼信成
 
3.2 伝統的行政法学の基本構造(藤田総論p13-p16)
 
※この説明は伝統的行政法学に関するもので現在の行政法にはからなずしも通用しない
 
・行政主体の概念
 
「行政主体」 → 国・地方公共団体
・国の行政機関と見なされる「特殊法人」、「独立行政法人」も行政主体に含まれる
 
・「行政主体」と私人は対置される関係に立つ
 
行政主体の内部の事柄 「行政内部関係」
行政主体と私人との関係 「行政外部関係」
 
行政内部関係に関する行政法 → 「行政組織法」
 
行政が私人に働きかけるさいの行政法(行政外部関係に関する法) →「行政作用法」
 
※「行政主体」という語感をきらって「行政体」と呼ぶ説(室井力)もある
 
・行政作用はどのように行われるか?
 

藤田宙靖の三段階構造モデル(藤田総論p20~p24)
 
 法律(国税通則法、所得税法、消費税法etc.)
 
 ↓
 
 行政行為(ex. 税務署長による国税通則法24条の更正処分、25条の決定 → 行政の一方的な意思によって債務が発生する)
 
 ↓
 
 強制(ex. 督促(国税通則法37条))しても私人が税を納めない時は、国税徴収法によって差押え(強制執行)できる。つまりは司法裁判所の執行手続を経ることなしに、行政が独自に強制徴収(自力救済)できる(国税通則法40条の滞納処分)

 
 
・三段階構造モデルは民事法のモデルに対応する形となっている
 

3.3 現在の日本の行政法 
 
◎制度
 
・戦後、日本国憲法76条と裁判所法3条によって「一切の法律上の争訟」が司法裁判所に属することになった
 → 行政裁判制度の廃止
 → ドイツ型行政国家体制から英米型司法国家体制の転換
 → 「法治主義」から「法の支配」への転換が言われたこともある
 
・学説では行政裁判制度の廃止によって公法・私法二分論が疑われた(第4回で詳述)
・近時、行政手続・情報公開とアメリカ的な法制度が導入されている
 
◎学説
 
・行政は「行政行為」だけでなく、様々な行為形式を用いることが明らかになった
 
・「行政指導」、「行政立法」、「行政調査」、「行政評価」、「情報公開」等々
→ 三段階構造モデルの「例外」への注目
→ むしろ三段階構造モデルこそが行政事務から見れば例外
 
・当時の若手による伝統的行政法学(田中二郎)批判 → 行政法の戦国時代?
 
※戦後期の行政法学者
 
(東京系)雄川一郎、高柳信一、今村成和、成田頼明、南博方、塩野宏、原田尚彦、兼子仁、藤田宙靖、阿部泰隆など
 
(京都系)渡辺宗太郎、杉村敏正、園部逸夫、室井力、田村悦一
 
4 比較法的に見た行政法の成立(塩野p14〜17、p20〜23)
4.1 大陸モデル 
 
・「法治主義」の原理 →国民の基本的人権(とりわけ「自由と財産」)の保障
   →議会の法律による行政統制
   →行政活動の法適合性を裁判所が審査
 
◎フランスの場合
 
 → コンセイユ・デタ(行政裁判所)が「行政法」を管轄する。
 司法裁判所が「私法」を管轄する
 
◎ドイツの場合
 
・ドイツ統一後
 行政裁判所 → 行政管轄(公法)に関する事項を審査
 司法裁判所 → 私法に関する事項を審査
 
◎大陸モデルの特徴
 
・公法と私法の区別の存在
・公法は行政裁判所、私法は司法裁判所の管轄
 
◎ドイツとフランスの違い
 
・フランスでは早くから行政裁判所が設けられたため、行政法学は行政裁判所の判例解釈が中心となっている
・ドイツは行政裁判制度の整備が遅れ、審査の範囲も狭かったので、行政法学が裁判実務を離れ、学説の一般法理の体系が中心となっている
 →(日本に影響)
 
4.2 英米モデル 
 
・「法の支配」の原理によっている
・行政事件も司法裁判所で審理される
・準立法的権能と準司法的権能を行使する行政委員会の設立を機に、委任立法の問題や行政救済の問題が、「行政法」の問題として論じられることとなった
 
「法治主義」と「法の支配」の違い
 
・「法の支配」でいうところの法とはコモン・ロー
  → コモン・ローとは司法裁判所によって運用される民事・刑事法
  → 英米では行政もコモン・ロー、そして、司法裁判所の裁判に服する
 
4.3  英米モデルと大陸モデルの違いのまとめ