行政法T 第30回 「給付、調達、誘導の法的仕組み」大橋p291~297の範囲
正木宏長
1 給付行政の法的仕組み(宇賀概説Ip113〜120)
1.1 給付行政と対価 
 
給付行政 → 「人民に対し財貨・役務または便益を給付する活動」(小早川p223)
 ex.  社会保障(年金、保険)、公企業(水道、公営地下鉄、公営バス事業)、公物使用(庁舎、道路、河川の利用、詳細は行政組織法にて)
 
・給付行政は、対価を得て有償で行われる場合と、無償で行われる場合がある
→有償のもの ex. 公営バス事業(地方公営企業法2条1項4号、21条)
→無償のもの ex. 図書館
 
拠出制
・拠出制 : 受給者の事前の金銭の拠出を要件として給付を行うもの
・給付行政では、特に社会保障の分野で拠出制をとるものがある
 ex. 国民健康保険、厚生年金
・社会保障分野でも拠出制をとらないものがある
 ex. 生活保護、児童扶養手当
 
1.2 官民の役割分担 
 
ex. 市営バスと民間バスetc.
 
(1)補完性の原則
 
・「補完性の原則」 → 民間に出来るものは民間に任せ、行政は市場原理と自己責任原則にのっとった民間活動の補完に徹する(中央省庁等改革基本法4条)
・ただし民間が行わないもの、行えないもの、が何かについての合意はない
 
(2)公的独占
 
・たばこの製造 : 日本たばこ産業株式会社しか製造してはならない(たばこ事業法3条、8条)
・公営競馬 :「日本中央競馬会又は都道府県は、この法律により、競馬を行うことができる。」(競馬法1条の2第1項)
 
※公的事業が原則で、民間事業が補足的位置づけとなっているもの
 →水道事業、一般廃棄物の収集・運搬・処分
 
1.3 給付行政の法的仕組み  
 
(1)給付行政と法律
 
・侵害留保説に立つ限り給付行政に法律の根拠(根拠規範)は必要ない
 ex. 自治体の「生活困窮者に対する法外扶助金給付要綱」 : 公立高等学校入学準備金、葬祭扶助を支給
・法律による給付が行われる例もある 
・給付行政の法的仕組みは、受給資格のある者に、一定の場合は、給付がなされるという仕組みである
 
※給付決定を行政行為で行うか契約で行うかは立法裁量に属する
・給付決定が行政行為で行われる例 → 生活保護
・給付決定が契約で行われる例 → 水道水給水契約
 
(2)受給資格の取得
 
・受給資格の取得喪失について行政庁による「確認」の仕組みを設ける場合が多い
 ex. 厚生年金の被保険者資格の取得喪失は厚生労働大臣の確認によって効力を生ずる(厚生年金保険法18条1項)
 
・資格の取得喪失について行政庁の「確認」を経ないものもある
 ex. 国民健康保険組合の被保険者は、組合への加入により保険の被保険者の資格を取得し、組合からの脱退で被保険者の資格を失う(国民健康保険法20、21条)
 
(3)給付決定と請求権
 
・行政決定が必要になる場合
 ex. 厚生年金保険の保険給付(ex. 老齢厚生年金)の給付を受ける権利は、権利を有する者の請求に基づいて、厚生労働大臣が裁定する(厚生年金保険法33条)
 
・行政決定が不要な場合
 ex. 地方公務員災害補償基金は、補償の事由が生じた場合に、補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、補償を行う。(地方公務員災害補償法24条1項)
 
2 調達行政の法的仕組み(宇賀概説Ip123〜130)
2.1 租税 
 
・国民の納税義務は、法律で定められた課税要件の充足によって成立する
  → 成立時期については国税通則法15条2項の定め 
・納税義務が成立しても、具体的内容(金額)は確定しないため内容確定手続が必要となる
 

 申告納税方式 :納税額を申告者の申告により決定する(国税通則法16条1項1号)
 賦課課税方式 :税額を税務署長又は税関長が処分により決定する(国税通則法16条1項2号)

 
・納税者が税金を納めない場合、滞納処分が課せられ、強制執行される
 
2.2 租税以外の金銭の取得 
 
(1)負担金
 
@原因者負担金 : 当該事業を必要とさせる原因となる行為を行った者に課せられる負担金
 ex. 自動車が国道で事故を起こしガードレールを損傷した場合、道路管理者である国は、原因者負担金納付命令を一方的に課することが出来る(道路法58条)
 
A受益者負担金 : 当該事業により特別の利益を受ける者に課される
 ex. 下水道がひかれると住民は利益を受けるので、下水道がひかれる際には住民に負担金の納付を求めるという事が行われている(都市計画法75条の受益者負担による)
 
(2)公営競技
 
・特殊法人や地方公共団体が公営競技等を実施して、勝馬投票券、車券等を発売している
 
(3)当選金つき証票(宝くじ)
 
地方財政法32条、当せん金付証票法に基づいて地方公共団体は当せん金付証票(宝くじ)を発売する
 
財政専売
→ 国が財政収入を得ることを目的として特定の所品の販売を独占すること
 ex. かつての製造たばこの専売
 
2.3 土地の取得 
 
(1)公用収用
 
・公用収用 → 任意買収によらず、強制的に土地を取得する仕組み
・土地収用法が公用収用の手続を定めている
・土地を収用することが出来る事業 → 土地収用法3条に列挙
 ex. 道路、ダム、飛行場、図書館、官公署の建設 etc.
 
・「起業者」が土地を収用する(土地収用法8条)
・道路や官公署の建設のような場合には、国や地方公共団体が起業者となる
・私人も起業者になることが出来る
  ex. 許可を受けてガス事業を営むガス業者は、ガス工作物に関する事業のために土地を収用することが出来る(土地収用法3条17号の2)
 

土地収用の手続
 
事業認定(土地収用法16条) →→ 土地物件調書の作成(土地収用法36条) →→ 収用裁決の申請(土地収用法39条)→→ 収用裁決(土地収用法47条の2)→→ 損失補償(土地収用法68条)

 
・事業認定は国土交通大臣又は都道府県知事が行う(土地収用法17条)
・事業認定をうけることで、起業者は収用裁決の申請を出来るようになる(土地収用法39条)
 
・収用裁決は収用委員会が第三者としての地位で行う(47条の2)
・収用裁決には、権利取得裁決と明渡裁決がある。権利取得裁決によって、取得する土地の区域や権利取得時期決定がなされ(土地収用法48条)、明渡裁決によって、所有権への損失補償額や物件の移転の期限が裁決される(土地収用法49条)。
 
(2)公用使用
 
・土地の公的な使用権を強制的に設定する方法
・土地収用法では、収用の場合と同じく、事業認定→使用裁決の手続によって行われる
・個別法で簡易な手続での公用使用が規定されることがある
 ex. 自衛隊の防衛出動時の土地・家屋・物資の強制使用(自衛隊法103条)
 
2.4 物品の取得 
 
・個別法で、物品の強制収用が規定されることがある
 ex. 自衛隊の防衛出動時の物資の強制収用(自衛隊法103条)
 
3 誘導行政の法的仕組み(宇賀概説Ip133〜142)
3.1 金銭による誘導 
 
(1)金銭によるインセンティブ
 
・政策に協力したものに補助金をあたえる
ex. クリーンエネルギー普及のためにソーラーパネルを設置する国民に補助金を支給する
ex. 退去強制事由に該当する外国人を通報した者に、法務大臣が報奨金を支払う(出入国管理及び難民認定法66条)
 
・政策に協力したものに租税優遇措置をとる
ex. 低公害車への自動車取得税の軽減
ex. 青色申告制度(納税義務者が帳簿の備付け、記録、保存を完備していると可能、更正処分の制限や青色申告特別控除制度がある)
 
(2)金銭によるディスインセンティブ
 
・政策に協力しない者に税や課徴金を課す
ex. シンガポール、ソウル、ロンドンで導入された、通行量の多い道路を通行するときに課される課徴金(通行を禁止する趣旨ではなく、交通を抑制する措置)
ex. 障害者の雇用の促進等に関する法律では、障害者を法定雇用率に至るまで雇用することが出来なかった事業者は障害者雇用納付金を支払わなければならない
 
・無料だったサービスを有料化することも一種の金銭的ディスインセンティブである
ex. 家庭の粗大ゴミ収集の有料化
 
3.2 情報による誘導 
 
(1)情報によるインセンティブ
 
・財団法人日本環境協会のエコマーク
・JISマーク(工業標準化法19条)
・品質表示義務 ex. 食品添加物の表示義務(食品衛生法19条)
 
(2)情報によるディスインセンティブ
 
ex. 法律の根拠はないが、災害危険地域をハザードマップとして公表する
ex. 自治体の消費者保護条例で、危険な製品の危害情報や詐欺的商法等の不適正事業情報についての行政指導を公表することを規定する(東京都消費生活条例50条)
 
3.3 規制緩和による誘導 
 
ex. 一定以上の敷地面積を有し、一定規模以上の公共的空き地が確保された建築物について、容積率の規制を緩和することを認める「総合設計制度」(建築基準法59条の2)
ex. 優良運転者の免許の有効期間を違反運転者よりも長くする優良運転者制度(道路交通法92条の2第1項)
 
3.4 市場介入 
 
ex. 政府が米の不作の時には備蓄米の放出をしたり、豊作の時には米を買い上げることで、米の需要・価格の安定を図る(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律29条)