行政法T第7回 「行政組織法の一般理論(1)」大橋p391〜396、403〜425 正木宏長
1 行政組織と法(塩野Vp4〜p11)
 
・行政の担い手 → 行政主体(法人である)
・行政そのものへの法的着目の必要性
→ 行政組織そのものも法によって設立される
→ 組織規範
 
・大日本帝国憲法下 → 官制大権・任官大権
大日本帝国憲法10条、「天皇は行政各部の官制及び文武官の俸給を定め及文武官を任命す」
官制(官僚制度)は天皇が勅令(法律にあらず)で定める
・現在は、官制大権・任官大権の理論は採用されていない
 
行政組織法律主義
 
・日本国憲法は、国会の最高機関性に見られるように、国会中心主義をとっている。
 → このような憲法の民主主義的構造からして、法律の留保は、侵害留保のみならず行政組織の編成にも及ぼされるべき
 
 根拠: 公務員の選任の究極の根拠は、国民にある(日本国憲法15条)
   : 公務員制の基準は、法律によって定められる(日本国憲法73条4号)
 
・現状 → 国家行政組織については内閣法、内閣府設置法、国家行政組織法、(各省の設置法)、地方行政組織については地方自治法が基本的な定めを置いている
 
2 行政官庁法理と事務配分的機関概念(塩野Vp19〜p52)
 
・行政機関をどのように構成するか、その単位をどうするかについては、二つの種類の「把握法」がある
 
@作用法的機関概念(行政官庁法理) → 行政機関と私人との関係で捉える
A事務配分的機関概念 → 担当する事務を単位として把握する
 
(1) 作用法的機関概念(行政官庁法理)
 
・最終的に行政の意思を決定し、対外的に表明する「行政官庁(行政庁)」に、重点を置いた把握法
・個別行政作用法解釈から導かれる(行政官庁法理の一般法があるわけではない)
・ドイツ的
 

行政官庁法理による行政機関の分類(参照、田中中巻p29〜30)
 
@行政庁(行政官庁) → 国のために、その意思を決定し、これを外部に表示する権限を有する機関
ex. 各省大臣、各種委員会(公正取引委員会など)、都道府県知事、市町村長、税務署長
ex. 税務署長は更正・決定等を行う(国税通則法24条、25条)
ex. 火薬庫を設置・移転・設備変更する者は経済産業省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。(火薬類取締法12条)
 
※「行政官庁」という語は国家機関を指し、「行政庁」という語は、それに加えて地方公共団体の長その他執行機関を含むとされる(田中中巻p32)
 
A補助機関 → 行政官庁を補助することを任務とする機関
ex. 次官、局長、課長等の行政の一般職員
 
B諮問機関 → 行政官庁からの諮問に応じ又は自ら進んでこれに意見を陳述することを主な任務とする機関
  → 諮問機関の意見には拘束力は無いとされる
ex. 税制調査会、地方制度調査会、中央環境審議会
 
C参与機関 → 行政官庁が意思決定をするための前提要件として議決をし、これに基づいて国の意思が決定表示される意味において、国の意思決定に参与する機関
  → 議決に拘束力がある点で、参与機関は、諮問機関と異なる
ex. 電波監理審議会の議決には、総務大臣の決定を拘束する力が認められる(電波法94条)
 
D執行機関 → 行政官庁の命を受け、実力をもって執行することを任務とする機関
ex. 警察官、徴税職員、消防職員、自衛官、海上保安官、入国警備官
 
E企業機関又は営造物機関 → 国の企業の経営又は営造物の管理を任務とする機関
ex. 旧大蔵省造幣局、旧大蔵省印刷局、旧国立大学
 
F監査機関 → 行政機関の行う行政を検査し、その正否を監査することを任務とする機関
ex. 国の会計を検査する会計検査院、地方自治体の財務を監査する監査委員

 
 
独任制の機関と合議制の機関
 
・独任制の機関は、一人で活動する(ex. 厚生労働大臣)
・合議制の機関は、複数の人間で構成され、合議を通じて意思決定が行われる
ex. 合議制の行政庁もある → 公正取引委員会、国家公安委員会
 
権限の委任、代理と専決
 
権限の委任 : 権限は委任官庁から受任官庁に移る。法律の根拠が必要
ex. 道路運送法の一般旅客自動車運送事業(バス・タクシー事業)の許可権限(道路運送法4条1項)を、国土交通大臣から地方運輸局長(ex. 近畿運輸局長)に、委任する(道路運送法施行令1条1号)
 
権限の代理 : 代理者の行為が被代理官庁の行為としての法効果を持つ。法定代理と任意代理があり、実務では、任意代理は法律の根拠不要と扱われている
ex. 法定代理として、内閣総理大臣の事故の際の国務大臣による臨時代理(内閣法9条)
 
専決・代決 : 代理権の授与をすることなく、事実上、当該行政官庁の行為を補助機関が当該行政官庁の名前で行う。
ex. 市役所の課長が、市長に代わってハンコを押す
 
行政官庁の上下関係
 
・大臣以外の行政機関が行政官庁たる地位を法律上与えられた場合、行政官庁間で上下関係が生じることになる → 上級官庁(上級庁)、下級官庁(下級庁)
 ex. 西成税務署長は行政官庁であるが、大阪国税局長や国税庁長官との関係では下級官庁である
 
(2)事務配分的機関概念
 
・国家行政組織法による機関概念
・アメリカ的
・当該機関の対外的な行為ではなく、行政主体の行う公行政全体を視野の中にいれて、これをどのように系統だてて、それぞれの行政機関に割り振るか、ということに問題関心がある
ex. 環境問題は環境省、教育問題は文部科学省、といった具合
 
・現在、1府11省で、国の行政機関が組織されている(国家行政組織法別表第一)
 
 

 省(外局として、委員会、庁) → 最大の単位(国家行政組織法3条の行政機関)
 ↓
 局(官房)→ 局以下は国家行政組織法上、内部部局とされる、国家行政組織法7条
 ↓
 課
 ↓
 室

 
 
3 国家行政組織法(塩野Vp53〜p80) 
3.1 内閣 
 
・行政権は内閣に属する(日本国憲法65条)
・内閣の権限は、法律の執行、国務の総理、外交の処理、条約の締結、官吏に関する事務の掌理、予算の提出、政令の制定、恩赦(日本国憲法73条)
 
・内閣に関しては、憲法の他に内閣法に定めがある
・内閣は、内閣総理大臣と、14人以内(特別の必要ある時は17人以内とすることができる)の国務大臣から成る合議体である(内閣法2条)
・職務遂行を補助するために、内閣官房が置かれる(内閣法12条)
 

内閣総理大臣の権限
 
(1)日本国憲法
 
・国務大臣の任命(68条)
・内閣を代表して、議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係については国会に報告し、行政各部を指揮監督する(72条)
・法律及び政令への国務大臣の署名、内閣総理大臣の連署(74条)
・国務大臣の訴追への同意(75条)
 
(2)内閣法
 
・閣議を主宰する(4条)
・内閣の法律案や予算案を内閣を代表して国会に提出する(5条)
・閣議で決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する(6条)
・主任の大臣間の権限についての疑義の裁定(7条)
・行政各部の命令や処分を中止することができる(8条)

 
・内閣の意思は閣議を通じて全員一致で決定することが慣習
・内閣に、内閣府が置かれる(内閣府設置法2条)
・内閣府の長は、内閣総理大臣とする(内閣府設置法6条)
 
3.2 省 
 
・各省庁の長は各省大臣であり、内閣法の主任の大臣(国家行政組織法5条)。
・省庁については、国家行政組織法別表第一に列挙されている。
・総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
・所掌事務等は各省設置法で規定される。官房、部、局の内部部局については、政令で定められる
 
3.3 外局 
 
・内閣府及び省の外局として、庁と委員会が置かれる(内閣府設置法64条、国家行政組織法3条3項)
 
@ → 専門的な事務を本省から独立して、独自の名と責任で所掌事務を遂行する
ex. 金融庁、消防庁、公安調査庁、国税庁、文化庁、気象庁など
 
A委員会 → 通常の行政機関は独任制だが、委員会は合議制
ex. 中央労働委員会、公害等調整委員会、公安審査委員会、運輸安全委員会
 
※ 公正取引委員会のように、独立行政委員会の性質を持つものは、主任の大臣や内閣から独立して職務を行う。
 → 「公正取引委員会の委員長及び委員は独立してその職務を行う」(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律[独禁法]28条)
 →人事で内閣総理大臣の統制が及ぶので、完全に独立ではない(独占禁止法29、30、32条)