行政法I 第8回「行政組織法の一般理論(2)」 大橋p397〜403、426〜436
正木宏長
1 特別行政主体(塩野p89〜121)
1.1 特別行政主体の意義 
 
・あるサービスを国が提供すべきものか、地方公共団体がすべきものか、私企業が提供するかというのは当然には決まってこない
・サービスの提供主体について、官、公、私の区別を法律上概念的に導き出すのは困難である
・サービスの提供主体を何人にするかは、立法者に幅広い選択の余地がある
・行政改革により、国の行政組織の一部門が切り離されて、民法・商法のそれとは異なった法人として事業が行わしめられる
 
特別行政主体 : 憲法上行政主体たる地位を有している法人以外で、制定法上、行政を担当するものとして、位置づけられているもの
 → 国、地方公共団体のような普通の行政主体としての地位とは異なり、制定法上、特に行政主体としての地位を与えられ、特別の規律に服している
 → 社会的に有用な業務の存在を前提として、それが国家事務とされたうえで、その業務を遂行するために国家により設立された法人
 
・制定法上、特別行政主体性を有するもの: 独立行政法人、国立大学法人、政府関係特殊法人、公共組合、地方独立行政法人
 
1.2 独立行政法人 
 
・独立行政法人: 独立行政法人通則法に基づき設立された法人及び個別法により独立行政法人として設立された法人(ex. 独立行政法人国民生活センター法の中期目標管理法人である独立行政法人国民生活センター)
・独立行政法人通則法は、1999年、行政の減量、企画と実施の分離という政策課題の手段として定められた
 
・「この法律において『独立行政法人』とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの(以下この条において『公共上の事務等』という。)を効果的かつ効率的に行わせるため、中期目標管理法人、国立研究開発法人又は行政執行法人として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。」(独立行政法人通則法2条1項)
 
・2014年改正で、中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人の3類型が設けられた。
・行政執行法人の役員及び職員は、国家公務員とする(独立行政法人通則法51条)
  → 中期目標管理法人、国立研究開発法人は非公務員型
・独立行政法人通則法で、独立行政法人に対する国の、組織、人事、財務、業務について関与が定められている
・国は独立行政法人の業務運営の自主性に配慮しなければならない(独立行政法人通則法3条3項)
 → 関与制度として2014年改正により、主務大臣による命令の制度が設けられた。(独立行政法人通則法35条の3、35条の8、35条の12)
 
※独立行政法人の情報公開・個人情報保護について、独立行政法人情報公開法、独立行政法人個人情報保護法が定められている
 
※地方公共団体は地方独立行政法人法により、地方独立行政法人を設立することができる
 
1.3 国立大学法人 
 
・従来、わが国の国立大学は国家行政組織法上の行政機関(施設等機関)として位置づけられていたが、2003年に制定された国立大学法人法により、国立大学法人とされた
・国立大学法人法と独立行政法人通則法は一般法と特別法の関係に立つのではない
・国は、「国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」(国立大学法人法3条)
 → 大学の自治への配慮
 
・国立大学法人の職員は非公務員であり、通常の雇用契約法関係に立つ
・国立大学法人と学生との関係は、一般の在学契約関係に立つとされる(公法関係ないし、特別権力関係の否定。もっとも判例では特殊な部分社会であるとされる)
・国立大学法人の教育作用に起因する損害賠償請求は民法の不法行為請求によって行うとされる(国家賠償法1条ではない、ただし設置管理の瑕疵については国家賠償法2条が適用される)
 
 最高裁平成25年12月19日第1小法廷決定(民集67巻9号1938頁)は、民訴法の文書提出命令の適用について、「国立大学法人は,民訴法220条4号ニの『国又は地方公共団体』に準ずるものと解される。」とした。
 
・国立大学法人の最終的意思決定は学長の権限に収斂されているが、学長の任命権は文部科学大臣が有している(ただし、任命は当該国立大学法人の学長選考会議の申し出に基づくとされる)。
 
※国立大学法人の情報公開・個人情報保護には、独立行政法人情報公開法、独立行政法人個人情報保護法が適用される
※公立大学法人については地方独立行政法人法が適用される
 
1.4 特殊法人 
 
・特殊法人の語はいろいろに用いられているが、かつての総務庁の審査・監視の対象となる法人を対象とするとしてきた行政実務上の用語が、実務・学説に定着しつつある
→ 「法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人」から独立行政法人を除いたもの(総務省設置法4条15号)
ex. 日本中央競馬会、日本放送協会、日本私立学校振興・共済事業団
 
→法人の公益性に基づく概念ではない(日本銀行は上で言う特殊法人ではない)
 
・特殊法人は国及び地方公共団体と、社会における団体との、中間の存在である。
・特殊法人も行政主体性を持っている
 
・特殊法人については、2001年、特殊法人等改革基本法が制定され、事業の廃止・整理縮小・統廃合や、民営化、独立行政法人への移行が進められている。
 
※国の特殊法人に対応するものとして、地方公共団体の地方公社がある(ex. 地方住宅供給公社、地方道路公社)
 
1.5 認可法人、指定法人 
 
(1)認可法人
 
・認可法人:「業務の公共性などの理由によって、設立について、特別の法律に基づき主務大臣の認可が要件となっているもの」
ex. 日本赤十字社、日本商工会議所、預金保険機構
 
→認可法人の中には特殊法人の設立が制限されていることから、その制約から免れるために設立されているものもある。政府の関与が法定されているものは、実質的には特殊法人と同じなので問題視されている
 
・認可法人については、単に設立に認可が必要だというだけでは、行政主体とは言えないが、独立行政法人情報公開法が適用されるような認可法人については行政主体性が認められたと見ることができる
 
(2)指定法人
 
・指定法人:「特別の法律に基づき、特定の業務を行うものとして行政庁より指定された民法上の法人」(指定から自然人が排除されるわけではない)
ex. 建築確認を行う指定確認検査機関、民間活動の助成を行う放送番組センター
 
・指定法人は行政主体ではない
・行政庁の「指定」により、民法上の法人に公権力の行使が授権されたり、助成活動が委ねられる
 → 公権力の行使が委任された場合について下の「委任行政」の記述も参照
 
2 委任行政(塩野p121〜125) 
 
・委任の技術は行政機関相互のみならず、行政主体以外の、法人や個人にも用いることができる
ex. 弁護士連合会の弁護士登録、企業が納税義務者の支払うべき税を徴収して、国に納付する、国家試験を民間の公益法人が行う
 
・委任行政においては、受任者のした行為や受任者に対してなした私人の行為が、委任者である国家のした行為あるいは国家に対してなした行為になる
・委任行政の法理は民法の委任ではなく、行政官庁法理における委任として理解されるべきである
・公権力の行使の委任には権限が移動するので法律の根拠が必要であるとされる。この場合、委任は法律で直接又は、行政庁の「指定」によりなされる
 → 公権力の行使が委ねられた場合(ex. 建築基準法の建築確認が指定確認検査機関に委任される)は受任者は行政庁としての地位を得る
 
3 地方公共団体(塩野Vp133〜134、142〜155、194〜204)
3.1 地方公共団体の意義 
 
・「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」(地方自治法1条の2第1項)
 
・「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」(日本国憲法92条)
 →法律として地方自治法が定められている
・地方公共団体の構成要素:「区域」「住民」「法人格」
 
3.2 地方公共団体の種類 
 
・普通地方公共団体:都道府県、市町村(地方自治法1条の3第2項)
・特別地方公共団体:特別区、地方公共団体の組合、財産区、合併特例区(地方自治法1条の3第3項、市町村合併特例法27条)
 
・市町村は基礎的な地方公共団体であり、都道府県は広域の地方公共団体である
※都道府県の権限を市に移譲する制度として「政令市」「中核市」の制度がある
 
・「都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第2項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。」(地方自治法2条5項)
 → 「広域的事務」「連絡調整事務」「補完事務」
 
※「都」は、県としての機能と市としての機能の二つをあわせ有している
 
・都道府県も市町村も地方自治法上、完全な自治体として取り扱われている
・都道府県を広域地方公共団体(自治体)、市町村を基礎的地方公共団体(自治体)と位置づけることがある
 
・都道府県と市町村は、対等・協力の関係にある
 → 都道府県の条例に反した市町村の行為は無効となる(地方自治法2条16項、17項)
 → 都道府県の市町村への関与制度がある(地方自治法245条〜250条の6)
 
※都道府県と市町村の二層制を憲法上の要請とすることは、実証性に乏しい
 → 道州制の導入?
 
3.3 地方公共団体の機関 
 
・地方公共団体の議事機関 :議会
・地方公共団体の執行機関 :長(都道府県知事、市町村長)、委員会(地方自治法138条の4)
 
・議事機関とは議決機関の意味
・執行機関というのは行政官庁理論で言うところの「行政庁」の意味
 
・長に対する補助機関
 → 副知事(副市町村長)、会計管理者、職員
 
※地方公共団体には長以外の執行機関として、「委員会又は委員」が置かれる(地方自治法138条の4第1項)
 → 長から独立して職務を行う
ex. 公安委員会、選挙管理委員会、教育委員会、農業委員会
 
次回は「行政過程論と行政の法的仕組み」「行政立法」大橋p36、p62〜63、113〜120、128〜138、143〜147