行政法T 第9回 「行政過程論と行政の法的仕組み、行政立法(1)」大橋p65〜70、p113〜123、p128〜130
正木宏長
1. 行政過程とは何か(塩野p54〜59)
1.1 古典的行政法学 
 
法律行為 :表示者の意思の欲するとおりの法律効果を生じる
事実行為 :単なる事実的作用、法律効果を持たない(行政法の用語法の場合。民法の場合はやや異なる)
 

 いわゆる三段階モデル
 
 法律 → 行政行為 → 強制執行

 
 
・古典的行政法学は、「行政行為」や「強制執行」といった行為形式の最終の法効果に着目し、それぞれの法効果が生じるプロセスには充分な関心を払ってこなかったのではないか?
 
行為形式 →  行政立法、行政行為、行政指導、行政契約といった行政主体、私人の双方の行為の形式。行政法の法関係になんらかの影響を与える行為のこと
  → 古典的行政法学は、「行政行為」中心であったが、戦後「行政立法」や「行政指導」といった行為形式が、着目されるようになっていった
 

ex. 例えばこのような三段階も想定可能
 
要綱(非法律)→ 行政指導(非命令) → 事実行為(違反事実の公表など、非強制)

 
1.2 行政過程論の登場 
 
・民法秩序に並ぶ公法秩序としての、行政行為中心の行政法学への批判から、行政過程論が登場した。
行政過程論 → 行政の法効果が発生するプロセスに着目する
※行政過程と対置されるもの →立法過程・司法過程
 
行政過程論の利点
 
@ 行政行為中心の行政法学では、行政主体と相手方との法律関係のみが、注目されがちであった
 → 行政が行われるプロセスを分析することで、建築確認の相手方の他に、近隣住民まで視野に入れて考察することができる
A 建築基準法や都市計画法に違反した建築を阻止するために、水道水の供給停止などをすることがある
 → 権限の融合のような現象を分析するためにも、行政過程の視座は必要
B 行政指導や、行政の相手方の信頼保護(工場誘致の約束など)、「法律」上の効果はないが、不当な、ひいては信義則のような「法」の一般原則から違法となる行為に対して着目することができる
C 行政行為が行われる全段階の行政手続に、注目することができる(利害関係者の聴聞など)
 
2 行政の行為形式と行政の法的仕組み(塩野p96〜101)
2.1 行政の行為形式(総論) 
 
行政の行為形式 → 行政や私人の行う行為。行政過程を構成する最小の単位。必ずしも権利変動を伴わない
ex. 行政契約・行政立法・行政行為・行政指導・事実行為・行政計画
 
行政の行為形式の選択(塩野『行政過程とその統制』p28〜p30)
 
・憲法や法律によって、特定の行為形式の選択が求められる場合がある。
・立法レベルでの行為形式の選択
 ex. 単年度の国の収入・支出の見積りは「予算」という形式で行う(日本国憲法86条)。
 ex. 公務員の懲戒は「処分(行政行為)」によっておこなう(懲戒「解雇」、つまり契約破棄ではない、国家公務員法82条)。
 →すくなくとも法律上、公務員関係は「契約」ではない選択がされていると判断するべき。ただし法改正で契約とするのは自由であろう。
 
・常に、立法レベルで、行為形式の選択がなされているというわけではない。むしろ、多くの場合、行為形式の選択は行政の裁量である
 ex. 許認可申請に対して、ただちに許可なり不許可なりという「行政行為」をするか、あるいは、いったん処分を保留して申請内容について「行政指導」をするかという行為形式の選択
→行政レベルのでの行為形式の選択への制限(ex. 行政指導の制限として行政手続法33条)
 
2.2 行政の法的仕組み 
 
・古典的行政法学では(とりわけ行政行為論において)、行為形式論と法的仕組み論が混在しており、そこで法的仕組みこそが重要であるとの指摘がなされていた
・また、政策法学の観点から、「行政の法システム全体に共通する原理と問題点を明らかにして解釈論、立法論に資することが行政法総論の課題」との指摘がなされていた。
  → 古典的行政法学は、行政訴訟に偏りすぎていた
  → 既存の法(規制)システムの問題点を探り、改善を提言していくことの必要性
  → 実践認識型・問題の発見解決型・立法政策用モデルへ
 
・人民に対する行政の作用は、しばしば、予め定められた仕組みの沿った法律関係の展開という形式の下で進行する。これを行政作用の法的仕組みということができる
・行政の法的仕組みを定めること →「行政機関ないし関係者の、当該行政作用をめぐる法律関係の成立・変動・消滅をもたらすべき法行為又はその他の事実行為と、その手順を、あらかじめ定めておくこと(小早川、上p187)」
 

 ex.  情報公開の仕組み(情報公開法)
 
 私人による開示請求(4条)
 行政庁による開示決定(5条) → 開示実施(14条)
 不開示であれば、申請者は不服申立てができる(18条、他に行政不服審査法)

 
・「行為形式」は「法的仕組み」と併存する。
・法的仕組みは、規制法規の数だけ無数に存在する
・「法的仕組み」に、どのようなものがあるかについて、学界に定説はない
 

宇賀行政法概説の章立て
 
行政活動における法的仕組み
規制行政における主要な法的仕組み
給付行政における主要な法的仕組み
行政資源取得行政における主要な法的仕組み
誘導行政における主要な法的仕組み
行政情報の収集・管理・利用
行政上の義務の実効性確保

 
※ 行政手続をどう解するかは、一つの問題である。行政手続の展開を「行政の過程」のうちの「行政手続過程」として分類する立場もあるが(小早川、下Ip33~p67)、本講義では、行政手続は手続法的な法的仕組み、届出制や許可制は実体法的な法的仕組みと位置づける。
 
3 法律の解釈(大橋p62〜63) 
3.1 目的規定 
 
・行政にかかる法律では1条に目的規定が置かれている。
ex. 「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」(建築基準法1条)
 
目的規定の機能
@政策意図を明示する、A解釈の指針を示す、B立法理由を示す
 
3.2 基本法 
 
・基本法は重要施策の全貌を提示する機能や重要施策を総合化する機能を持つ
  → 領域横断的な性格を持つものや議員立法により制定されるものは少なくない
 ex. 教育基本法、原子力基本法
・1990年代以降基本法の制定が増加している
 ex. 環境基本法(1993)、男女共同参画社会基本法(1999)、食品安全基本法(2003)
 
・基本法は形式的には法律であるから、他の法律に対して優位に立つとまでは言えないが、解釈問題で指針となる余地がある
 
3.3 実験法律 
 
・実験の要素を持つ法律が増えている
 → 法律が時間や場所を限定して施行されることも少なくない
ex. 場所の限定 : 構造改革特区
 
3.4 立法過程 
 
・立法 → 議会の仕事
・現実には行政官僚が立法作業に携わっている → 中央省庁の主要な仕事
→ 内閣提出法案が現実の立法の9割程度だと言われる
→ 立法活動における公務員の活動に注目することも重要
 
※ 内閣提出法案議員提出法案
 

現在の内閣提出法案作成手続の問題
 
@法律案は、産業界・与党・各省庁との折衝によって作成されるが、その過程が不透明
→ 審議会改革の問題、パブリックコメント制度の導入
A内閣法制局の審査は固定的ではないか?過度の先例踏襲主義ではないか
B中央省庁の職員は、(第一線の)現場に精通していないのではないか?

 
※立法のグローバル化への配慮。先進国間の立法技術の標準化の必要
 ex. 輸出国が実施した家電製品・医薬品などの安全・規格基準検査結果を輸入国でも同様に実施したとみなす「相互承認協定」
 
4 行政立法(塩野p102〜103) 
4.1 意義 
 
・日本国憲法41条「国会は、...国の唯一の立法機関である」
・実際には国会が、法律で全てを決定することは、できない。また行政国家化によって、行政が決定を行う事柄が増加。政党から距離を置いた決定を行う必要性が生じた
 
・日本国憲法73条6号(内閣の事務)「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」
 
 立法権が酒税法施行規則のような規則を制定する権限を行政機関に賦与するがごときは憲法上差支ないことは、憲法73条6号本文および但書の規定に徴し明白である。(最高裁昭和33年7月9日大法廷判決、刑集12巻11号2407頁、行政判例百選50事件)
 
※「行政立法」ではなく「行政基準」と呼ぶ立場もある
 
4.2 行政立法の種類 
 
法規命令
→ 当該定めが外部効果を持つもの。私人と行政機関との関係を規律し、紛争(裁判の際に裁判所がこれを適用するもの
 
行政規則
→ 行政機関(相互)を拘束するが、私人に対する関係では規律する効果を持たないもの