Mid high TLS + DVC woofer 2way 「ラクロ」




歴代スピーカーの中でも、仕上げは一番綺麗だったかも…



はじめに

   2004年度ステレオ誌主催のコンテストに参戦した作品です。審査結果は準グランプリと、なかなかに善戦。
   これ以降、仕事が忙しくなってしまい、コンテストと名のつくイベントには参加してません(〜2011年に至る)
   コンテスト参加作品というのは、一種の「お祭スピーカー」みたいな部分があるのですが、どちらかと言えば、
   本作は実験機みたいな位置付けです。コンテスト向けに、仕上げだけはキッチリやってますけど。
 
   当時、私が興味を持っていたのは……「低域(ウーハ)のTLSはいろいろ聞いた。では、中域・高域のTLS
   はどんな音になるのだろう?」ということでした。これってTLSを作った人なら、誰でも思いつく話だと思うんで
   すよ。本来、TLSって言うのは、放射インピーダンスのマッチングをはかり、インピーダンス特性を平らにして
   (あるいはダイナミック型ドライバの慣性制御を抵抗制御に変換して)、低域の再生帯域を伸ばそうってのが
   正攻法ですが、そんな小難しいこと以前に、TLSみたいに大型で細長いエンクロージャーを使えば、ドライバ
   からの背面音を消して、直接音だけを聞くことができるんじゃないだろうか? それってすごくイイ音かもよ?
   って話でして。まあ、シロウト考えの他愛のない動機です。
 
   本編に入る前に、少々脱線します……




消音器としてのTLS

   私がはじめて本格的なTLSを製作したのは、2001年の春に作った「B.J.'s TLS 3way」なので、ずい分と昔
   の話です。TLSではなく、単純な逆ホーンのシステムを試作したのはオリジナル・ノーチラスが日本に登場
   した1994年頃ですから、そこから換算すれば十数年前。当時のTLSは、国内の自作スピーカービルダーの
   中では、かなりマイナージャンルだったように思います。インターネットの黎明期でもありました……


   今では国内でも立派な作例をみかけますし、「かつの部屋 〜オーディオ&SF&博物館〜のかつ氏が高度で
   詳細なコンテンツを公開されており、その影響を受けた方も多いようです。私は……と言えば、10年以上
   もTLSをいじり倒してきたくせに、ほとんど成長してないのが、かなり恥ずかしい……。よそ様のページを
   開いて、自分の名前が出てきたりすると赤面ものです。('A` )
 
   ま、それはさておき。現状、TLSの設計は、大きく2つに分類できます。
 [1]  共振を利用しないもの。TLSをドライバ背面音の消音器として用いるもの。

 [2]  共振を積極的に利用するもの。ダンプ量でそれをコントロールするタイプ。
   ぶっちゃけ、ポイントとなるのは、背面からの音を使うか、使わないか、ってとこ。実にシンプルですね。
   [1]は、海外のハイエンド機に採用例(過去)多数。その極地がB&Wのノーチラス・シリーズ。あまり知られ
   ていませんが、他にAvalonの「Osiris」、Goldmundの「Aporogue」、Egglestonworksの「Andra」などなど。

 ネットワーク・ボックスのデカさが正気の沙汰ではない。閉管TLSを密閉と言い張っていたのはパテントの関係?

   なぜ、ハイエンド機に採用例が多いのか? スピーカーとしての理想型を突き詰めていくと、この形状に
   行き着くのか、単純にコーン背面の音が前に漏れてくるのが気に入らないのか。おそらく後者でしょう。
   いくら箱の剛性を高めたって、コーン紙は死ぬほど薄っぺらいわけですから。そりゃあ、漏れますわな。
   ちなみに30年くらい前、日本のPioneerがプロトモデル(PE-101?)を販売したのが元祖らしい。
 
   [2]の急先鋒(?)がPMC。かつてFocalも、「DAL(デカップルド・アンチレゾナント・ライン)方式」と名付け
   た独自のTLSを作っていたことがある。海外の自作派のあいだでも、大体こっちが主流っぽい。ここで
   疑問に思うのは、古くから存在する「音響管(共鳴管)」との違いです。管の一端にドライバを取りつける
   オーソドックスなもの(要するに長岡式の「ネッシー」のようなキャビ)をはじめとして、1/4波長パイプ共振
   を利用した「QWT」(クオーター・ウエーブ・チューブ)は、1920年代から存在し、テーパー管の「TQWT
   (テーパード・クオーター・ウエーブ・チューブ)は、P.ボイトによって1930年に発表されています。


   バスレフがH.L.ツーラスによって開発されたのが同じ1930年ですから、とにかく大昔です。この辺のことは、
   スピーカーの歴史の本にみんな書いてあります。一方、前にコンタクトを取っていた海外の自作ビルダー
   によれば、「TLSの基本概念は1930年代に確立された」らしい(残念ながらソース元は不明)  はたして、
   すでにその当時から、管に吸音材を満たし、振動系の機械インピーダンスを慣性制御から抵抗制御

                 【 慣性制御 】                     【 抵抗制御 】
  

  このグラフを見れば、どうして密閉よりTLSの方が低音が伸びるのか、一目瞭然。

   変換・ダンプする考え方が広く知られていたのか、そのあたりはよく分かりません(て言うか、私の英語力に
   問題がありすぎる。自慢じゃないが、アメリカ人とチャットしてる時、「Pardon me?」と書いて爆笑されたこと
   さえあるんだぜ?)  先述のアメリカ人に根掘り葉掘り聞くと、「細けぇーことはどうでもいいんだよっ!」
   と、どこぞの巨大掲示板のような返事をいただきました(´・ω・`)  ま、そりゃそうなんだけどさ……、やっぱ
   ルーツとか知りてーじゃん。なんで君らはそんなに大ざっぱなんよ? あと、バーベキューをすると、なんで
   そんなに肉がデカいんよ? どうしてそう、デカさをいちいち誇るわけ? どうしてそう、テンションが成層圏
   を突き抜けてるわけ? デカいっつーか、肉のカタマリつーか、それ、もはや脂身じゃね? ボクら繊細な
   日本人には、USAの偉大さは分からないよ……
 
   ……余談と言うか、さらに話がそれるんですが、TQWTを作ったことがある人なら分かると思うんですけど、
   いわゆるホーンの共振エネルギーってのは尋常じゃないんですよ。なんつーか、ラオウの剛掌波も消し飛
   ぶレベル? もう無理。マジで無理。その勢いは、北斗百裂拳なんかじゃ止められない。「楽器の音響学」
   (安藤由典・著)によれば、トランペットやホルンのような管楽器の音は、共鳴によって生まれる管内の定在
   波の数パーセントが外界に漏れて放射され、その音を我々は聞いているんだそうです(確かに管の開口
   端反射による減衰率をdB換算するとそんなものか……)  で、TQWTを作ってみたのはいいが、管共鳴が
   ボーボーと激しすぎる。箱鳴りもひどい。思わず吸音材を詰めたくなる。詰めてみる。……お? これなら
   音楽も聴けるじゃん? んじゃ、測定してみますか。お? これって、慣性制御より抵抗制御の方が支配的
   なんじゃね? もしかして、新・発・見? ワシ、すごくね? これ、論文とか書いたら認められるんじゃね?
   ……ってな経緯が、当時のエライ学者さんやエンジニアにあったんではないかなァ〜と思ったりするのです。
   要は「試しに作ったQWTを調べてみたら、いつのまにやらTLSになっていたようです」みたいな。そんな風に
   私は想像してるんですが。いっそ「オルソン博士の死滅遊技」ってな小説を書いて既成事実にしちまうか。
   ネットの風説は恐ろしいからなァ〜。うひひひひ。
 
   誰かにブン殴られる前に、話を戻します。
   さて、問題は、どうやって消音型のTLSを設計するかです。 ちょっと考えると分かりますが、消音器としての
   成り立ちを考えると、普通のドライバは使えそうにありません。うまく動作しそうにない。なにより、そんな簡
   単な話なら、わざわざノーチラスがあんな特殊なドライバを使うはずはありません。アマチュアの自己満足
   じゃないんですから。あれは音響理論に基づいた工業製品。見た目重視で、あんなお正月の伊達巻みたい
   なオメデタイ姿をしているわけではないのです。ネックとなるのは、やはり再生帯域でしょう。周波数が上が
   れば上がるほど、消音型TLSを製作するための技術的なハードルは高くなります。逆に言えば、ウーハで
   低域の消音型TLSをやる場合は、ほとんど問題は表面化しないということです。はたして、中高音域で使え
   そうな市販ドライバはあるか? ……うーむ、軒並み全滅ですね。どれも使えません。
 
   そもそも、ドライバの背面音が、どうして反射して戻ってきてしまうのか?
   エンクロージャの壁に反射する? いや、そういうことじゃなくてですね、もっと根本的な、空気の物理現象
   としての振る舞いを考えた時の話です。こんなマニアックなページを読んでいる人なら、釈迦に説法の気も
   しますけど、コンテンツとしての資料性を高めるために、簡単に整理して書いておきます。
 [1]  音響管を伝わる音波は平面波として進行する(ドライバの直接音は、普通は球面波)

 [2]  基本的に平面波は、進行距離によって減衰したりしない(昔の船の伝声管の原理)

    逆に、管の途中で音波が大きく減衰する場合は、反射が起きているとみて間違いない。

 [3]  管に折り曲げ部分があると、周波数・折り曲げの形状に応じて音波は減衰する。ただし、

    美しいカーブ形状の折り曲げでは、ほとんど減衰は起こらない(実際、500〜600Hz以下

    では、ほぼゼロ。4k〜5kHzあたりでも -3dB以下と、極めて減衰量は小さい)



 [4]  管の途中に急拡大する部分(不連続面)があると、形状に応じて反射し、音波は減衰する。



 [5]  反射による管の共振峰は、テーパなしの直管なら奇数倍(1・3・5・7…)、バックロードのような

    末広がりのエクスポネンシャル形状なら、おおむね整数倍(0.7〜0.8・1.8〜1.9・3・4…)といった

    具合にインピーダンスの山が並ぶ。TLSで使うような逆エクスポネンシャルの場合、ちょっと形容

    しづらいが、とにかく直管よりは山の間隔が広がる。ただし、中域以上の山はほとんど動かない。

    管の実効長の変化は、低い周波数ほど影響が出る。また、管にドライバを取り付けることで、

    fsに応じて山の形状は変化する。
   ここで問題としているのは[4]の話です。つまり、音波というのは、ある特定の観測点を見た時に、インピー
   ダンスの整合が取れていないと反射が起きる。これはバックロードでも共鳴管でも同じで、管の出口のフ
   リーエアー部分で反射する。直管のつなぎ合わせで、急に管が広がって
   いる部分があると、当然そこでも反射する。極端なことを言えば、ドライ
   バの背面のフレーム(バスケット)の穴から横へ抜ける時ですら反射して
   しまう。とにかく反射、反射、反射で、気に入らない部分があると、すぐに
   進行方向とは逆向きに戻ってしまう。「前に出るだけっス」のお相撲さん
   を見習えとは言わんが、お前、もうちょい頑張れよと思っても、物理現象
   は非情です。これじゃ理想の消音器にはほど遠い。まあ、そんなわけで、
   普通の構造のドライバは使えないんですね。ノーチラスの下位モデルの800系で、中音域を担当するミッド
   ・ドライバの背面フレームが、あんなスカスカの形状になっているのも、一応、理由があったわけです。(でも
   正直、あの涙滴型のキャビに大きな消音効果があるとは思えない……)  単体売りのドライバでは、これと
   似たような形状のものも他社のベンダーから販売されてますが、今回は可能な限り理想の消音器を作って
   みたいので、できればオリジナル・ノーチラスのドライバに近いものを使いたい。……で、ネット上をさんざん
   探し回って、ようやくそれっぽいものを見つけました。AuraSound NSW2-326-8Aです。

   

   製作当時(2004)はSolenぐらいしか扱ってなくて、マイナーもいいところだったんですが、今じゃPartsExpress
   でも売ってますし、国内の販売店でもちょくちょく見かけますので、珍しいものではなくなりました。構造が特殊
   なため、よほど変わった音でも出るのかと思いきや、ごく普通の2inchフルレンジの音でした。Xmaxが大きい
   (±3mm)ので、大音量の時に威力を発揮しそうですが、やっぱりパワーを入れるとダメですね。ある程度の
   音量で聴くなら、コンデンサ一発でいいので、ローカットは必須だと思います(フィルムコンだと、100uFくらい
   になると、安くても$20はするのでもったいないが)
 
   さて、ドライバの選定ができましたので、これを使って図(↓)のように料理することに。


   消音型TLSのチューブは、(試作品も)低粘度のエポキシ注型樹脂です。シリコンゴムで型枠を作りました。
   一体成型の方が楽なんですが、できれば内壁に多孔質素材(コルクなど)を張り込みたいので、全体を11の
   パーツに分け、あとから接着して組み立てました。なんと言うか……美少女フィギュアのガレキ造りに近い?
   ここまで前置きが長かったくせに、やけにあっさりプランが定まってますが、無論、そこに至るまでには長い
   長〜い試行錯誤があったわけでして……、結論から言えば、どうしてこの寸法になってしまうのか、よく分か
   らないのです。作っては測定し、作っては測定し、一番綺麗な特性になったのがこのプランだったというだけ。
   fs付近のインピーダンス特性はまっ平らになります。それはもう、見事なまでに。NSW2-326-8Aのfsが実測
   で180〜200Hzくらいなので、まあ、それを基準に考えればいいのかもしれません(fsから波長を計算すれば、
   1.7〜1.9m程度。吸音材を入れる前から、管の実効長が伸びてる?)  理屈の上では、こんな短いところに
   特性が綺麗になるポイントはないはずなんですが……。消音型TLSの場合、ドライバのfsはあまり関係ない
   のかもしれません。シミュレータを走らせる意味はなさそうだなあ……。当サイトは測定至上主義ではありま
   せんが、やはりTLSは、なんらかの測定系がないと難しいでしょうね。勘と経験だけじゃ、正直、なにを作って
   いるのか分からなくなると思います。あまり大きな声では言えませんけど、
  結局、定評ある海外の作例をパクるのが賢いかも? 
   無駄な投資をしないためにも、情報は有効活用すべきでありましょう。世の中、エコ志向の時代ですから。 
   ……もっとも、本格的な消音器タイプのTLSの作例なんて、見たことないですけど。




ステレオ誌の応募原稿に同封した写真と実測の周波数特性図


       TLS本体

       チューブ全体にダンプ材を塗布

       TLS接写

       粒鉛を充填

       下地はプラサフ5層コーティング

       治具上で塗装

       ようやく完成しましたよ、と

      TLSの入口

       鏡面仕上げ

       2ショット
      


Mic : Behringer ECM8000    Pinknoise & 1/24octave PC RTA (1m)



   毎度恒例となりました、野外測定のPCスペアナデータです。小さいスピーカーは運ぶのが楽でいい……
   ハイ落ちと言うよりは、低音たっぷりモリモリと言うべきか。外寸は、35cm(H) x 16cm(W) x 21cm(D)で、
   内容積は6リッターほど。箱の中のかなりのスペースがTLSで占められるので、あまり容積が取れなかっ
   たのです。バスレフのチューニングは55Hzぐらい。使っているのが8cmのダブルボイスコイル・ウーハで、
   それをオーソドックスにワトキンス式の共振回路で持ち上げているだけですから、やろうと思えばもっと
   フラットにもできます。そういう音作りなので、特にコメントもないです。ハイ。
 
   では、肝心の消音型TLSの実力はいかに?
   う〜ん。どうなんでしょう? 同じドライバを使った普通の密閉箱と並べて鳴らすと、確かに違いがあるのは
   分かります。「あれっ?」っと思うほど細かい音が出る。安物のフルレンジでこういう高域が聞けるってのは、
   ある意味、すごく面白い。同じように逆エクスポネンシャル型の空気室を持ったギガホーンより、さらに繊細
   な中高域が聞こえます。その点は認めてあげたい。多分、背面音がほとんど聞こえない、っていう状態は、
   こんな音になるんでしょうね。ふむふむ……
 
   では、イコール最高の音か? と言えば、世の中そんなにハッピーにはできてません。ぶっちゃけ、フルレ
   ンジの中高域です。それを超えるものではない。Accutonのセラミックとか、Scan-Speakのレベレータとか
   を持ち出すまでもなく、まともな音のツィータとは勝負になりません。ただ、ミッドドームとかを使った3way
   になると、話は微妙になってきます。つまりこれにツィータを足すことになりますから。それなら勝負できる
   かも? ただ、NSW2-326-8Aは能率が低いんですよね……。多数個使いにしてまで頑張りたいか、と聞
   かれれば、答えはNOです。そこまで思い入れのあるドライバじゃない。むしろ、今回のケースでは、ダブ
   ルボイスコイル・ウーハを使った小型スピーカーの可能性について考えさせられました。やっぱり、この方
   式は面白いぞ。いずれ勉強して、もっとレベルの高い作品を作ってみよう。

(2004. 7. 20)      
加筆修正(2007. 12. 31)