TLS + Isobarik 2way 「タービュランスXS」
まったく同じデザインの双子の兄とは生き別れ
はじめに
箱の製作については、「TLS + Isobarik + AST「タービュランス」…の迷走先」のところで大体書いてしまった
ので、ここでは省略します。まあ、いろいろとあって、こんなのが出来ちゃったわけですが、納品先(本業の
関係者)の要望みたいなのを簡単にまとめておきますと……
★「デザインは、ただの真四角の箱。多角形や傾斜バッフルもNG」製作費用は相手から
なにしろムンドユーザーですからね。でも結構、厳しい縛りです。音だけ勝負というか。
見てくれのハッタリが利きません。ただ、スピーカー=四角い箱信者は意外と多い。
★「外寸で高さ20cm・幅15cm。奥行は多少深くてもいいが最大でも25cmまで」
3〜5リッターの小型サイズでしょう? 作る前からどんな音か想像できるでしょうに。
サイズの問題から、高級ドライバがほとんど使えません。まさか四十七研みたいに、
フルレンジ一発にするわけにもいかんだろうしなあ。
★「再生レンジは50Hz〜20kHz程度は確保。低能率すぎるのはダメ」
小さいスピーカーから低音をひねり出す愛と官能のファシズムをどう伝えたものか……
★「バスレフは不可。密閉か、それに準じたもの」
先生、ムンドもバスレフなんですが! 群遅延がどうたら〜とか、変な入れ知恵をした
奴でもいるんですか? 勘弁して下さい。マジで。
ボッタクりいただいているので、コスト制限とかは別にないんですけど、かなり遠慮
のないことを言って下さる。てか、跳ぶ前から見上げるような高さにハードルを設定するとか、もうね……、
ありえんでしょう? 無茶を言わんで下さい、無茶を。……え? あ、はい。給料は欲しいです。え? あ、
休日もたまには下さい。サービス残業とかは文句言いませんから。ええっ? ああ、奥さんはいりません。
持って帰って下さい。お断りします。(゚д゚ )……結局やるしかないのか。明日のご飯のために。
せまい箱の中で四苦八苦するということ
悩んで、苦しんで、のたうち回った挙句、まとめたプランは(↓)こんな感じになりました。
TLs + Isobarik 2way turbulenceXS Box size 20cm (H) x 14cm (W) x 24cm (D) Tweeter Morel MDT40 (remodeling) outer Woofer Driver Vifa TG9FD-10-08 inner Woofer Driver AuraSound NS3-193-8A1 Crossover 2.9kHz (Hi-pass) Transitional Elliptic filter (4th) (Low-pass) Butterworth filter (1st)
【注】 このデータは私 (七休) の独自調査によるものです。製品スペックを保証するものではありません。
使用したドライバの実測T/Sパラメータ Driver Name TG9FD-10-08 NS3-193-8A1 Sensitivity 2.83V/1m 85dB 80dB Free air resonance Fs 95Hz 75Hz DC resistance 3.3Ω 7.0Ω V.C.inductance 1kHz 0.13mH 0.90mH Effective cone area 38cm2 31cm2 V.C.diameter 20mm 19mm Moving mass incl. air 2.4g 4.2g Vas 2.4 ltrs 1.46 ltrs Qms 3.0 3.9 Qes 0.79 0.68 Qts 0.62 0.58
音質に定評がある中級ドライバに、複雑なネットワークを組み合わせるのはメーカー的手法で、 高級な
ドライバを単純なネットワークで料理する方がアマチュアとしては楽なんですが、今回はそうもいかない
わけでして。だって内容積4リッターですぜ? その上、ツィータをつけるスペースもないという。ネットワー
クのパーツもまたしかり。まあ、コンデンサやらコイルのたぐいは、タンデム駆動するドライバ2本の隙間
に押し込むとして、ツィータは本当に弱りました。バックチャンバーが大きなタイプは、どれもこれも内側
のドライバの磁石につっかえてしまう。素性の怪しい安物のツィータなら、マウントできないこともないが、
それじゃフルレンジから2way化するメリットが薄い。B&Wのノーチラス805みたいなデザイン(チョンマゲ)
は嫌だって言うし……。どうすんだ、これ? 解決できるのか?
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結局、苦肉の策として、MorelのMDT40とMDT12をバラバラに分解し(よい子はマネをしてはいけない)、
魔改造により、嫌がる二人を一つにしました(悪魔合体)
寸法図はこんな(↓)感じ。イスラエルの工場のおばちゃんが見たら怒るかもしれんなあ……
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早い話が、ベースになっているMDT40からバックチャンバーの容積を減らした状態です。とりあえずは、
これでOK。OKよね? うん、OKということにしておく。……ところが、ここで新たな(しかし分かりきった)
問題が発生! チャンバーが大きいMDT40はfsが800Hz前後ですから、バッフルマウントしてやれば2kHz
あたりからフラットに使えます。-6dB/octのバタワースだと、安全をみて3kHzぐらいが使用下限です。一方、
MDT12のfsは実測で1200Hzぐらい。改造合体品はチャンバーの容積減少により、fsが1300Hzあたりまで
上がってしまいました。これじゃ使用下限は、せいぜい5kHzがいいところでしょう。そんな高いクロスでは、
1inchのソフトドームを使う「うまみ」がありません。うーむ。弱った……
Transitional filterについて
なんだか、どんどんドツボにはまっていく感じがしますが、今回は強引に高次フィルタを使うことで解決し
ました。「Transitional Elliptic filter」と表記した回路図がそれです。Π型アッテネータにΠ型フィルタが
入れ子になってる感じでしょうか。実測で-40dB/octくらいあります。
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これはあくまで個人的な見解なんですけど、4次・5次・6次といった高次フィルタ同士の組み合わせは、
クロス付近で音がドライバからドライバへ一気に飛ぶ印象が強すぎて、そういうスピーカーは、あまり
好きじゃありません(デジタル・フィルタでも同じ)。伝達関数が〜とか、合成位相が〜という難しい話で
はなく、要するにウーハだけ、ツィータだけが鳴っている……と感じる違和感が好きになれないのです。
結局、クロスポイントでは、-3dB/oct程度のゆるやかなカーブで馴染むのが一番しっくりきます。しかし、
ツィータの耐入力を考えると、ある程度音圧が下がった周波数でスパッと切れていて欲しい。そういう都
合のよいフィルタはないものか……といろいろ勉強していたら、ありました。 ほほう、「Transitional filter」
とな? ふむふむ……す、素晴らしいではないですか。理論めいたところはチンプンカンプンでも、数式
さえ分かれば、あとはパソコンがあればなんとかなりそうだわい。……で、なんとかなりましたとさ(・∀・)
PSpice様、大活躍でございます。定数計算は、自前でソース書いてDelphiでやっちゃいましたが。
ぶっちゃけ、これさえあればネットワーク設計で困ることはなにもない。作った人にチューしてあげたい。
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一般に「Transitional filter」というと、ベッセルとバタワース特性の混成フィルタをさすようで、今回はクロ
ス付近をベッセル、切り替え点以下は連立チェビシェフ近似にしたものを設計しました。ハイ、出ました
楕円関数! ふふふ、そんなものが理解できると思っているのか? 俺様の弱っちい頭をナメるなよ!
有極フィルタの場合、複素インピーダンスのマッチングをちゃんと考えなきゃいけないんだけど、なーに、
どうせ計算するのは俺じゃない、検算もPSpiceがあれば問題なし。……え〜、なんと申しますか、ホント
よい時代になったもんだと思います。上で「Transitional Elliptic filter」と表記したのはそういう理由でして、
そんな名前のフィルタがあるわけではないです。まあ、Transitional filterの一種であるのは間違いない
でしょう。実装も回路図の定数通りでやりました。アライメントを取ってない一枚バッフルの逆相前提。
ウーハ(て言うかフルレンジ)のインピーダンス補正はしてません。この辺は聴感で決めちゃってます。
現物(↓)は3分割したユニレートのボードに、エポキシで部品を全部くっつけて手配線です。基盤3枚は
「Π」字型の立体配置になるため、無駄な引き回しはやめて、見た目はブサイクでも(どうせ中は見えん)
クモの巣配線を心がけました。音にはいいんだか悪いんだか???
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ことさら高級パーツ志向ではないんですが、今回は奮発しました。ツィータのコンデンサは、Ampohmの
ポリカーボネイト(廃品種)とMundorf Supremeの4パラ。275uFの大容量も、バイポーラ電解コンで妥協
することなく、AVXの積層フィルムを投入。抵抗はMillsの無誘導巻線。とりわけインダクタが高額です。
磁束干渉とサイズの制限から、すべて有芯のトロイダル・コイルで(従って、こんな対向配置にする意味
はまったくない)、ハイパス用は「アモルファス積層コア」、ローパス用は「バルク金属ガラスコア」を選択。
両者ともにバルクハウゼン・ノイズが発生せず、アモルファスの方は、空芯コイルに匹敵する低歪 (と
いうデータがある)な磁性材という理由で、バルク金属ガラス(要するに日立の「ファインメット」みたいな
もの)の方は、ただハイテク素材を使ってみたかったという(・∀・)理由で採用してます。ちなみに空芯
コイルを使ったら(線径φ3mmくらいのデカい奴でも)、パーツ代は1/3以下ですみます。空芯コイルや
銅箔コイルより高額な鉄芯コイルってのも、なんだかなあというお話。しかし、いずれにせよ……
そんな馬鹿デカいコイルは箱に入らないわけだが。
バッフルはジリコーテの単板。すました外見からは、ちょっと想像がつかないほどの……
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悪夢のような部品実装密度。これはダメだろう。でも、こうするしか手がなかったんだ……
さて、例によって力技の野外測定で取ったデータが下(↓)のもの。
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Mic : Behringer ECM8000 Pinknoise & 1/24octave PC RTA (1m)
公称能率「83dB」・公称インピーダンス「6Ω」ってところですか。パワーも結構入ります。800Hzあたりの
大きな谷間は、Isobarikのドライバの距離差に起因する乱れ(これはどうしても出る)、300〜500Hzあたり
の中だるみは、吸音材で取りきれなかった背面音の干渉による乱れです。フィルタの特性は以下の通り。
測定しない方の出力端子に、ドライバ等価回路のダミーロードを噛ませて測定しました。
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正確に動作していて、ホッと一安心。fs付近では-30dB以下になるので、普通の2次3次よりずっと安全です。
ちなみに、このままツィータを正相接続にすると……
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このあたりが「Transitional filter」ならではですね。ツィータの正相・逆相で大きく特性が変化するところは、
コンデンサ・コイル一発の-6dB/octの1次フィルタと変わらないわけです。通常、高次のフィルタでは、ドラ
イバの位相差による乱れはほとんど出ないのですが、一枚バッフルにマウントしてしまうと(つまりツィータ
がウーハより前に出ていると)、Transitional filterはこのくらい乱れます。サイン・スイープで信号の描く軌跡
を追っていくと、さらにものすごいディップが観測できて面白い。高次フィルタの欠点である群遅延特性の
悪化のピークも、クロスポイントからは離れたウーハの帯域にあるので、あんまり耳につかないようです。
なかなか使い勝手のよいフィルタなので、スピーカーのネットワークにはオススメですよ。
(2009. 3. 31)
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