テリー
ある秋の寒い朝のことです。
その日は天気が良く、朝日がまぶしかったので
ベランダ側のカーテンを閉めていました。
まだ意識がはっきりしない中、学校へ行く準備をしていると
何か、ベランダの方から”声”のようなものが・・・。
閉めてあったカーテンを開けてみると
そこには、日の光と一緒に全身真っ白なネコがいました。
そいつは、こっちを見て座っていたのです。
この部屋はアパートの二階。
ネコに関してあまり知識を持っていないので
まさか二階まで、自力で上ってこれるとは
その時は思いもしませんでした。
どうしたものかと思ったのですが
こっちを見ながら「ニャア、ニャア」鳴くので
とりあえず部屋に入れてみようと思い、窓を開けてみました。
最初は、こちらを警戒し、なかなか入って来なかったのですが
やがて、ゆっくりと入ってきました。
しばらく見つめ合う一人と一匹。
お腹を空かしているかと思って
部屋の中にある食べ物を探したのですが
あいにく、部屋にはレトルトカレーしか無かったのです。
後から友人に聞いたところ
「カレーは無理!」
とのことだったのですが、とりあえず
ネコにカレーを与えてしまってみました。やっぱ無理でした。
多少「ペロペロ」とはしても、すぐやめてしまいます。
お腹を空かしていると確信したので
「キャットフード」を買ってきてあげようと思ったのですが
なにぶん、一人暮らしなもので
部屋にネコだけ残すのにも不安がありました。
荒らされるたりはしないか、と・・・。
どうしたら良いか分からず、平日のこの時間(午前10時)で
連絡が取れそうな友人に電話をしました。
事のいきさつを話し、やはり「キャットフード」が必要だと再確認。
友達と世間話をしていると、部屋の中をウロウロしていたネコが
部屋の中の日なた(ベッドの上)に落ち着き、まどろみ始めたので
これは今しかないと思い、友達との電話を終え、外へ・・・。
もしかしたら、隣の人が飼っていたのかもと思い
一応確認のため、隣の部屋を訪ねたのですが
普通なら学校に行ってる時間(自分も)・・・。
チャイムを鳴らしても応答がないので
そっちは後回しにし、コンビニへダッシュ。
どんな物が良いか分からず、適当にネコカンを2つと
自分用に、牛乳とミルクティーをいそいそと購入。
お釣りを貰い忘れそうになる程に焦りながらも
帰り道を急ぎました。
部屋に着くと、ドアの音に反応したのか
ネコはベッドの上でこっちを見ていました。
飼ってきたネコカンを、コンビニの袋から出すやいなや
食料を察知したらしいネコは、こっちへ向かってきたのです。
興奮するネコをなんとかやり過ごしながら
中身を器にあけてあげ、ネコの前に出してやりました。
すると、待ってましたって感じでがっつくネコ・・・。
まさに「ネコまっしぐら」です(そのキャットフードとは違うけど)。
やっとありつけたらしい食事を堪能しているネコを見ながら
これからのことを考えました。
飼い主はいるのか、いるのならアパートの住人なのか
野良ネコなら飼うべきなのか(アパートはペット禁止・・・)。
「今日はサボった方が良いのかなぁ?」などと思いながら
すでに1つ授業は終わってる時間。
ぼぉ〜っと考えていると、餌を食べ終えたネコの視線が・・・。
ネコはもっとくれと言わんばかりに
器を隅から隅まで舐めまわしていました。
以前、犬には満腹感がないから
「食事の量には気を付けなければならない」
という話を聞いたことがあったので
とりあえず、餌はあげずに様子を見ることに・・・。
しばらく、空になった器を見つめたり
さっきのカレーを1,2度舐めたりしていたのですが
トコトコ歩きだしたと思ったら
また、ベッドの上でまどろみ始めました。
さっきミルクティーを買ってきてたのを思いだし、飲もうとすると
ネコがこっちを見ています。そうそう牛乳があった、と思い
牛乳を新しい器の中へ入れてやると
ネコは器へ直行し、おいしそうに舐め始めました。
牛乳も終了したネコは、ベッドの上で熟睡し始めました。マジ寝です。
午後の授業にはまだ間に合う時間だったので、支度をし
学校へ行くことにしました。
準備も整い、行こうとすると
足にすり寄るネコ・・・。起こしてしまった・・・。
それでも行く気になってしまったので、悩んでしまいました。
時間とネコを気にしながら、カバンを背負い
「まぁ、大丈夫だろう」
という根拠のない自信を自分に言い聞かせながら、学校へ急ぎました。
午前中は休んでしまったものの、午後の授業を難なくこなし
夕焼けがきれいな空を眺める余裕もなく、急いでアパートへ。
途中でコンビニに寄り、餌を補充した後、アパート到着。
中に入ると、日も沈みかけのせいで暗くなった部屋に
ネコが
「もう自分の居場所です」
と言ってるかの様にベッドの上に座っていました。
朝(まぁ、昼かな)以来何も口にしてないので、お腹を空かせてると思い
餌を出してやりました。
あっと言う間に食べてしまうと思いきや
ネコは餌に集中できない様子・・・。
少し食べてはウロウロ、とその繰り返し・・・。
「どうした?」と思い、周りを見回す。
そう言えば便をした様子がない。「それだなきっと」と思い
部屋の中でされるのは困るので、ベランダ側の窓を開けました。
(ベランダでされても困るんだけど・・・)
最初にも書きましたが、自分はネコに関して無知です。
ネコのトイレに、「砂」が必須ということは
まるで頭の中になかったのです。
ベランダに出たネコは、キョロキョロ見回した後
ベランダづたいにとなりの部屋へ移動を始めました。
飼い主の元へ戻るのかと思い様子をうかがっていると
隣の部屋の人がネコに気付き、窓を開ける音が聞こえました。
「あんたが主人か!?」と思い、ホッとしていると
またこっちのベランダにネコが帰ってきました・・・。
違うらしいです。ネコは部屋には入らず、ベランダの近くに立つ木へ。
木に飛び移ったかと思うと、スルスルと見事に下へ・・・。
近くに砂場があったので、どうやらそこで「いたしてる」ようでした。
こっちに戻ってくるかと思って見ていると
下の階の住人のベランダへ行き、何やら貰っているようでした。
以上のことから、そのネコは野良で
このアパートに数人主人がいるのではないか、と判断しました。
「帰ってこないかぁ」とちょっとショックを感じつつ、窓を閉めました。
残ったのは、少し餌の残った器とネコカンが2つ。
あと、ネコがじゃれついた時に出来た右手の傷と
久しぶりの「笑顔」でした。
ネコカンが残ったのは、まぁ良いんですが
さすがに器に残された餌の処分に困りました。
ベランダに出しておいたら食べるかと思い
ベランダの隅に置いておきました。
後日、その器を見て
また「笑顔」になっている自分がいたことは言うまでもありません。
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