「盗聴(通信傍受)法問題を考える市民の集い」
−かごしま平和ネットワーク主催−

 現在開催中の国会では、わたしたち国民生活に直接関わる重要な法案が政党間の利害打算や政治的駆け引きの中で本質的な議論もなく次々と成立しようとしています。そうした中で、その内容から見て基本的人権の侵害などにもつながりかねない重大な問題が含まれている組織的犯罪対策三法案が、すでに公聴会も開かれないまま衆議院をいつの間にか通過し、参議院での審議が行われています。そこで、わたしたち「かごしま平和ネットワーク」は、この組織的犯罪対策三法案の柱である「盗聴(通信傍受)法問題を考える市民の集い」を下記の要領で開催することになりました。いうまでもなく、この法案は、最近の周辺事態法制定やオウムへの破防法の復活適用、住民基本台帳法の改正、君が代・日の丸の法制化、憲法調査会の設置といった一連の政治的動向と密接な関連があり、「危機管理」型の強権的国家の構築という危険な性格をもったものであります。今回の市民の集いでは、この法案の背景とその危険な性格について、複数の専門家を交えて広く市民とともに考える機会にできればと考えています。一人でも多くの市民の方々にご参加・協力していただくようここにお願い申し上げます。
期日:7月3日(土曜日)午後2時開始(午後1時半会場)
場所:鹿児島県文化センター3階会議室(天文館中央公園横)

テーマ:「盗聴(通信傍受)法問題を考える」

講師:指宿 信氏(鹿児島大学法文学部助教授、刑事訴訟法専門)
コメンテーター:亀田徳一郎氏(弁護士)、北元静也氏(南日本新聞)

協賛:南日本新聞労働組合、JSA(日本科学者会議)鹿児島支部

[ なお、当日は、資料代カンパとして500円をお願いします。]

<問い合わせ先=「かごしま平和ネットワーク」事務局担当; 木村 朗(рO99−285−7654)、続 博治(рO995―63―1700)>
「かごしま平和ネットワーク」は、地域にあって一人ひとりの平和への思いを集めて活動するグループです。


「盗聴(通信傍受)法問題を考える」(1999.07.03)
指宿 信氏(鹿児島大学法文学部)

<アウトライン>
  1. はじめに
  2. 「盗聴」とは
  3. 通信の秘密の保護
  4. 盗聴法案の問題点
  5. おわりに
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

1. はじめに

2. 「盗聴」とは
大辞林(1988)「他人の会話をぬすみ聞きすること。こっそり聞くこと。」
1) 我が国における「盗聴」の歴史
□隣室盗聴 東京高判1953.7.17
 A方の2階に住むBが共産党員であり、同人方に党員が出入りしていることを知った警察官Pが署長Qより交付されていた密行用増幅器とマイクロホンをAに渡し、Bの居室の模様が探知できるよう設置を依頼し、会話を聴取した。のちに第三者CがQを職権乱用罪で告訴するが、公訴の提起がなされなかったので、付審判請求がなされ、東京地裁はこの請求を棄却し、東京高裁は同棄却決定に対する抗告を棄却した。
□秘密録音 千葉地判1991.3.29
 成田空港建設につきAに脅迫電話をかけてこれが録音された。捜査官Pは、被告人Xが属する団体の事務所を家宅捜索する際に、秘密に立ち会っていたXの音声を録音した。その後、Xは脅迫罪につき起訴され、脅迫電話と家宅捜索に際してのXの音声が声紋鑑定・言語鑑定に付された結果、同一と判定された。裁判所は、秘密録音は秘密性がなくプライバシーの権利は放棄されていると判断した。
□電話検証 甲府地判 1991.9.3
 電話による覚醒剤の密売取引につき、A電話(山梨県甲府市)にかけられた電話は転送サービスを用い、B、C電話を経由して、東京都新宿区にあるD電話にかかる仕組みになっていた。警察は、検証許可状の発布を請求し、NTT甲府支店内において、A電話の通話内容の傍受を検証することを求めた。裁判所は、NTT職員の立ち会いの下で、かつ捜査の対象外の通話はただちにNTT職員がスイッチを切断することを条件としてこれを許可した(実際にはNTT職員が拒否したため、消防署職員が立ち会った)。裁判所は同許可状によって得られた通信を有罪の証拠とすることに違法はないと判断した。
□電話盗聴(共産党幹部宅盗聴事件)東京地判1994.9.6
 1980年6月から翌年の11月にかけて、警察庁幹部および神奈川県警幹部による違法な指示・共謀の下に、同県警本部警備部公安第一課に所属する警察官P1ないしP2らは、日本共産党中央委員会幹部委員・国際部長であるX宅の電話を盗聴した。これにつき判決は、国家賠償法1条1項に基づき、公権力の行使にあたる公務員が職務をおこなうについて故意によって違法に他人に損害を与えたと認定し、損害賠償を命じた。

2) 盗聴と通信傍受
  通信傍受 ⊂ 盗聴

●犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(案)
(定義)
第二条 この法律において「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。

3. 通信の秘密の保護
1) 憲法における通信の秘密
○憲法21条
□検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
2) 法律における通信の秘密
○郵便法 (昭和二十二年十二月十二日)(法律第百六十五号)
第九条 郵政省の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。
□郵便の業務に従事する者は、在職中郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。
○電波法 (昭和二十五年五月二日)(法律第百三十一号)
第百九条 無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 無線通信の業務に従事する者がその業務に関し知り得た前項の秘密を漏らし、又は窃用したときは、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
○有線電気通信法 (昭和二十八年七月三十一日)(法律第九十六号)
第七条
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。
○電波法 (昭和二十五年五月二日)(法律第百三十一号)
第五十九条 何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第四条第一項又は第九十条第二項の通信たるものを除く。第百九条において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
●公衆電気通信法 (昭和二十八年七月三十一日)(法律第九十七号)
第百十二条 公社又は会社の取扱中に係る通信の秘密を侵した者は、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 公衆電気通信業務に従事する者が前項の行為をしたときは、二年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

3) 条約における通信の秘密
○国際電気通信連合憲章(平成七年一月十八日)(条約第二号)
第三十七条 電気通信の秘密
1 連合員は、国際通信の秘密を確保するため、使用される電気通信のシステムに適合するすべての可能な措要をとることを約束する。

4. 盗聴法案の問題点
――衆議院法務委員会可決案を読む――
1) 法案の沿革と概要
 別紙参照
2) 傍受のための手続
別紙手続参照
いつ・誰が・なぜ・どこで・どうやって?
3)問題点
○ 組織犯罪の定義(1条)
○ 犯罪発生前の「捜査」(1条)
○ 傍受対象(3条)
○ 令状請求とその審査(4条)
○ 傍受の中止判断(無関係通話について)(13条)
○ 立会人による抑止効果(12条)
○ 通信事業者の協力義務(11条)
○ 傍受後の告知(23条)
○ 相手方のプライバシー(16条、23条)
○ 電子メールの傍受(3条)
○ 違法盗聴の抑制(26条)
○ 侵害回復措置(26条)

● 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(案)

第一章 総則 (目的) 第一条
 この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく 害していることにかんがみ,数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ、これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう、その要件、手続その他必要な事項を定めることを目的とする。
(該当性判断のための傍受) 第十三条
 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信であって、傍受令状に記載された傍受すべき通信(以下単に「傍受すべき通信」という。)に該当するかどうか明らかでないものについては、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、当該通信の傍受をすることができる。
(相手方の電話番号等の探知) 第十六条
 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信について、これが傍受すべき通信若しくは第十四条の規定により傍受をすることができる通信に該当するものであるとき、又は第十三条の規定による傍受すべき通信に該当するかどうかの判断に資すると認めるときは、傍受の実施の場所において、当該通信の相手方の電話番号等の探知をすることができる。この場合においては、別に令状を必要としない。
(不服申立て) 第二十六条
3 裁判所は、前項の請求により傍受の処分を取り消す場合において、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、検察官又は司法警察員に対し、その保管する傍受記録(前条第六項の規定により傍受記録とみなされたものを除く。以下この項において同じ。)及びその複製等のうち当該傍受の処分に係る通信及びこれと同一の通話の機会に行われた通信の記録の消去を命じなければならない。ただし、第三号に該当すると認める場合において、当該記録の消去を命ずることが相当でないと認めるときは、この限りでない。
 一 当該傍受に係る通信が、第二十二条第二項各号に掲げる通信のいずれにも当たらないとき。
 二 当該傍受において、通信の当事者の利益を保護するための手続に重大な違法があるとき。
 三 前二号に該当する場合を除き、当該傍受の手続に違法があるとき。

5. おわりに
1) 通信の秘密の例外について
○ 刑事訴訟法
第100条
裁判所は、被告人から発し、又は被告人に対して発した郵便物又は電信に関する書類で通信事務を取り扱う官署その他の者が保管し、又は所持するものを差し押さえ、又は提出させることができる。
□前項の規定に該当しない郵便物又は電信に関する書類で通信事務を取り扱う官署その他の者が保管し、又は所持するものは、被告事件に関係があると認めるに足りる状況のあるものに限り、これを差し押え、又は提出させることができる。
□前二項の規定による処分をしたときは、その旨を発信人又は受信人に通知しなければならない。但し、通知によって審理が妨げられる虞がある場合は、この限りでない。

2) 組織犯罪と国際的協調について

3) 「盗聴罪」について
●犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(案)
 法案:通信の秘密を侵す行為の処罰等 第三十条
 捜査又は調査の権限を有する公務員が、その捜査又は調査の職務に関し、電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百四条第一項又は有線電気通信法(昭和二十八年法律第九十六号)第十四条第一項の罪を犯したときは、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前二項の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、刑事訴訟法第二百六十二条第一項の請求をすることができる。