<第五回平和問題ゼミナール>

 

民族問題のメカニズムとユーゴスラビア

 

T 民族問題について

1 民族の時代

 ・20世紀:「民族の世紀」・・・20世紀の戦争のほとんどが民族抗争を根底に持つ

       ex:イラン・イラク戦争(アーリア人・セム族アラビア人)               :ユーゴスラヴィア紛争(スロヴェニア,クロアチア他)     

2 民族問題の発生過程                   

 ・近代の国民国家群は国際競争を行なう関係にあり強固な国家(国内に安定した秩序

  と民族統一がある国家)を作る必要があった。

 ・しかし、先住民族や少数民族が存在する。

 ・支配民族がそれらの中小民族を抑圧した国家(中央集権国家)を形成する。

 ・「民族の力学」が働く。・・・支配に対する中小民族の抵抗

 ・「民族問題」へと発展する。

3 民族問題の原因

 ・後天的に作られた民族意識                

 →“民族に生まれるのではない。民族になるのである。”

              ↓

   「民族」は国民国家の形成による社会変動(近代化)によって生まれる。

   「民族」の名によって重層的で複合的な社会の矛盾構造が言語,宗教,領土に一元的に“特定化”されていく。

4 民族問題のパターン

 @自治や独立を達成して主権国家をつくろうとする「民族自決・分離独立問題」

 ex:チベット(中国),暫定自治のパレスチナ人等

 A境界区分の見直しを求める「国境・帰属変更問題」

 ex:ナゴルノカラバフ自治州も帰属をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの戦争

 B主権国家の中で「国民」としての権利を無視された民族の不満

                   「少数民族・先住民問題」           

 ex:アボリジニー(オーストラリア),アイヌ民族

 

 

 C部族対立,多数の集団が公権力の掌握をめぐって争う「国民形成・国民統合問題」

 ex:ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(ムスリム人,クロアチア人,セルビア人の対立

 D「移民・難民問題」(→関連して外国人労働者問題)

 ex:在住外国人,不法滞在外国人

          ↓

    ・民族の顔をした労働者が引き起こす社会問題

    ・日本では,不完全雇用の解決,国政・地方選挙への参加権,

    社会・医療保障や教育への権利に対する摩擦の懸念等がある。

5 民族問題の発生

 ・民族:同じ文化を共有し,生活様態を一にする人間集団

    起源,文化的伝統,歴史を共にすると信ずることから強い連帯感をもつ。

         ↓ 

    シンボルとして共通化→自己同一性(アイデンティティ)意識

 ・民族の強固な自己同一性意識は,強い排他意識となる。

 →多民族との差異が,差別に変わる。

 →「排除の力学」:民族が民族を生み出していく。

                ↓

          民族の連鎖反応による拡散。

          差異単位を小さくしながらモザイク状の形態になって分布する。

6 民族問題解決への壁

 @多元的民族性を保ちながら,異質な共同体が同一の場所で共存することは難しい。

 A多数決原理は適応できない。

 B自己(民族)を定立しつつ,自己を不定立な両義性に持ち込む矛盾がある。

7 解決に向けての提言

 ・民族問題には,自己意識の変革の必要性が含み込まれているので合理的なテクノロ

  ジーでは解決し得ないのである。これからさらに長い時間と苦難の道が必要となる。

  簡単に解決できる方法など存在しないはずである。

 

U 境界民族〜カフカス地方とバルカン半島〜

1 境界民族

 ・流動化している境界線上の民族

 ・大文明勢力圏の周辺で引き裂かれる民族

 ・両義的にならざるを得ない民族ス自己同一性が定立しないため,

     ↓            強い民族主義になりやすい。

 ※不安定な存在である。

 ※その存在地域がゆえに境界民族が民族紛争の当事者となる。

 ex:@ユーゴスラヴィア

     ・ギリシア正教圏とヨーロッパ・カトリック圏の境界

     ・アジア文明とヨーロッパ文明の境界

      (オスマン帝国とハプスブルク帝国による長い支配)

    Aカフカス地方

     ・ギリシア正教圏とイスラム教圏の境界

     ・スラブ・ヨーロッパ文明とアジア,トルコ遊牧民文明の境界

2 カフカス地方の民族問題

 ・イラン系,アラブ系,トルコ系,モンゴル系などの諸民族が興亡を繰り返す。

 ・三つの母語がある:カフカス諸語系,インド・ヨーロッパ語系,アルタイ語系。

 →典型的な境界民族である。

 ex:チェチェン共和国独立紛争       

         ↓

    ロシアからの独立を要求するチェチェン人と,

    ロシア残留を希望するイングーシ人とが対立。

         ↓

    ロシアは連邦内に留まるように説得する。

         ↓

    '94年4月 ロシア軍・内務省軍が侵攻。

    本格的な軍事介入が始まる。

         ↓

    '96年8月 停戦合意文書に調印。

 

3 ユーゴスラヴィア危機

  →スロベニア・クロアチアの独立宣言をEUが支持したために,ユーゴ継承戦争が

   勃発したと言われる。

※北のスロベニアから南のクロアチア,ボスニア・ヘルツェゴヴィナへ拡大していった。

 ・スロベニア戦争:駐屯していた連邦軍とスロベニア軍との小競り合い(「10日戦争」)

 ・クロアチア内戦,ボスニア内戦:両国内に住む「セルビア人問題」

 ・「セルビア人問題」:クロアチアでは、セルビア人が多数を占めるクライナ地方で

          「クライナ・セルビア人自治区」の創設が宣言され,その後セル

          ビア共和国への編入を主張し始めた。

                   ↓   

          クロアチア共和国軍とセルビア人勢力の衝突

          クロアチア駐留の連邦軍の介入

                   ↓

              内戦が一挙に本格化した。

          :ボスニアでは,セルビア人勢力が「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・ 

          セルビア人共和国」を創設。その後,「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

          共和国」の独立の賛否を問う国民投票が行なわれる。

                   ↓

          独立に反対のセルビア人と賛成のムスリム人,クロアチア人が衝突          セルビア人保護の立場から連邦軍が介入

                   ↓

               ボスニア内戦の激化

 

4 チェチェンとユーゴの比較

 ・どちらも境界民族の特徴を有しており歴史的にも文化的にも類似する点がある。

 ・連邦制国家の崩壊による民族自決の強まりと連邦の中心国(支配国)の軍事介入に

  対する評価に違いがある。

  →ユーゴ問題ではセルビアが悪者にされているが,

  チェチェン問題ではロシアが悪者にされていない。

             ↓

 ソビエト連邦解体後のロシアは,連邦を形成していた国々が独立していき国家の安定

 した秩序が失われつつあった。それは,国際社会の認める所でもありロシアのチェチ

 ェンに対する軍事介入を批判・制裁する国はほとんどなかったのである。また,ロシ

 アの政治・経済力は今だに国際社会に影響を与え得る力を持っている。広大な国土に

 は豊富な天然資源があり,特にカスピ海沿岸の地域では,良質の原油が採掘されるた

 めに先進諸国をはじめロシアや近隣諸国の利害が複雑に絡み合っているのである。こ

 うした観点からみてもロシアを批判するのは,難しかったようである。

 

 

 

 

 ユーゴスラヴィアの崩壊

    第四章 トワイライト・ゾーン

 

・ブリオニ協定に調印ス連邦軍とユーゴスラヴィアがスロベニアから

           実質的に手を引く。(連邦軍の完全撤退)

          スECの介入による。

・ユーゴスラヴィアの根本問題は,数の上でも政治的にもセルビア人がクロアチア人の優 位に立っていることであり,クロアチアの根本問題は,数の上でも政治的にもクロアチ ア人がセルビア人の優位に立っていることである。

・バルカン半島に平和をもたらすためには,この問題をボスニア・ヘルツェゴヴィナの政 体と,セルビアのサンヂャック,コソヴォ,ヴォイヴォディナの各地に住むムスリム人 ,アルバニア人,ハンガリー人少数民族の政治的立場とともに解決する必要がある。

・少数民族の問題は,政治的に大きな不安定状態が続いているときには,極めて敏感な起 爆剤となる。少数民族の問題が解決されていない(地域の統一が不完全)ということが各 地で展開される紛争の原因となっている。

・東欧や旧ソ連の民族問題を根本的に解決するためには,規範となる方法を見いだし,こ れらの地域に適用する必要がある。

・現在の国際社会には,その方法も資金も欠けているが,意欲に欠けるというわけではな い。これらの地域紛争が全面闘争へと発展するにつれ,こうした問題への組織的対応が 必要となってくる。

・ECは,ユーゴスラヴィアの戦争を互いに有機的なつながりをもつ複合体とみなすこと なく,バルカンにおける局地的解決をめざす方向で処理しようとしたわけだが,それでは紛争の阻止にも,紛争の原因解消にもつながらない。

・セルビア=クロアチア間の経済戦争:クロアチアにとってセルビアの弱体化を図る手段                  は経済しかなかった。

                  ↓

        ・リエカ港から続く石油パイプラインを遮断した。

        ・クロアチア政府支配地域の工場から出される戦車

         その他の兵器類の部品供給をストップした。

・セルビアとクロアチアの市場は,相互依存の度合いがきわめて強い。

・ECや国連の制裁措置を受けているにもかかわらず武器が輸入(密輸)されていた。

 →ユーゴスラヴィアの地形と近隣諸国の腐敗のためにヨーロッパ一風通しのいい国境で

 あったから。

 

 

 

 

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