平和問題ゼミナール(97.11.22)

日本の国際平和協力の在り方

報告者 千知岩 正継

1.「国際平和協力」とは何か

確立した定義があるわけではなく、政治、軍事面での諸手段以外に、環境、貧困、難民、麻薬、テロリズムやエイズ等の非軍事面での人類への挑戦に対する様々な対抗手段を含むもの

 

2.「国際平和協力法」の成立に至る経緯

湾岸戦争以前

・国連が行う国際の平和と安定のための努力に対する限られた人的な協力

→外務省設置法や派遣法による人材派遣

ex)国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)への選挙監視要員の派遣

国連アフガニスタン・パキスタン仲介ミッション(UNGOMAP)、国連イラン・イラク軍事監視団(UNIIMOG)などへの政務次官1人の派遣

湾岸戦争

・「小切手外交」に対する批判

・「国際連合平和協力法案」が90年10月に国会に提出される

→90年11月に廃案

→自公民の三党合意=「国連平和協力に関する合意覚書」

・自衛隊法100条の5に基づく「特例政令」により自衛隊機を湾岸に派遣しようとする試み(91年1月29日)

→自衛隊機は一度も派遣されることなく政令は廃止(91年4月23日) 

・自衛隊の掃海艇をペルシャ湾に派遣することを決定(91年4月23日)

 

国際平和協力法の成立

・自公民の三党合意

・内閣提出法案として「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律案」が国会に提出される(91年9月19日)

※法案の主な内容

多国籍軍への協力を協力対象から外している

参加五原則

平和維持軍(PKF)本体への参加が認められている

・自公民の三党合意(92.5.29)

平和維持軍(PKF)本体への参加を凍結 

参加五原則の確認 

三年後に法律を見直す

・法案成立(92.6.15)

 

3.国際平和協力法の内容

国際平和協力方の構図

国際平和協力業務

PKOへの協力業務

→ただし、自衛隊の部隊等が平和維持軍(PKF)本体への参加を凍結

人道的な国際救助活動

物資協力

国際平和協力業務が従うべき基本原則

紛争当事者間の停戦の合意

当該PKOの実施とそれへの日本の参加に対する、紛争当事者と受け入れ国の同意

当該PKOの中立的な立場の厳守

上記の から のいずれかの原則が満たされない状況が生じた場合の業務の中断、要員・部隊の撤収

要員の生命等の防衛のための必要最小限度の武器の使用

誰が国際平和協力業務を行うのか

自衛隊員

 個々の隊員として派遣される場合

 「自衛隊の部隊等」に所属して派遣される場合

国家公務員・民間労働者

国際平和協力法の問題点

PKOを巡るズレ

法律の定義が不十分

…軍事要員を伴う活動であることが明記されていない

日本独自の参加原則

…「自衛のための武力行使」に関する要件

…指揮系統の問題

伝統的PKOをモデルとして作成されている

「救援活動」の不明瞭な内容と範囲

国会の関与が限られている

 実施計画・実施要綱の作成・変更に関与出来ない

   

4.国連平和維持活動(PKO)

PKOの誕生とその基本原則 

PKOの誕生

・東西冷戦下の米ソ対立の本格化

→国連内の組織で、世界の平和維持・安全保障に関して第一義的に責任を負う安保理が機能不全に陥る

・1950年11月に総会で「平和のための結集決議」が可決される

→国連緊急軍(UNEF)の派遣

PKOの性格と基本原則

・UNEF終了後の当時のハマーショルド事務総長の報告と,以後の経験から、

PKOの基本原則は

停戦合意の存在

紛争当事者のPKO受け入れ同意

指揮権の国際的性格

大国排除の原則

自衛の場合のみの武器使用

→これらの基本原則は、PKOの「中立・非強制的」性格を維持するうえで重要

・PKOの根拠

国連憲章には明文の規定がない

→PKOは「憲章第6章半」の活動と解するのが一般的

PKOの世代交代

冷戦期

・第一世代のPKO(伝統的PKO)

紛争の再発防止・拡大防止のための停戦監視・兵力引き離しなどの任務が基本原則に沿うかたちで遂行される。紛争の政治的解決に積極的に関与することは無く、紛争の一時的な敵対行為の停止(停戦)の監視という限定的な活動を行う。

ポスト冷戦期

・第二世代のPKO

第一世代のPKOの任務に加えて、人権状況の監視、選挙監視、さらには国造りと呼ぶにふさわしい、行政監視、選挙管理、人権監視、復興援助を含む包括的なPKO。このPKOでは、基本原則に沿ったかたちで任務が遂行され、紛争の政治的解決が積極的に指向されている。

例:国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)

国連カンボジア暫定機構(UNTAC)

・第三世代のPKO(拡大PKO)

武装解除の実施、安全な環境の確保等のために、自衛のための武器使用の範囲を越えて、国連憲章第7章の下で武力行使をなす権限を安保理から付与されたPKO。

例:第二次国連ソマリア活動(UNOSOM )

国連保護軍(UNPROFOR)の活動の一部

 

5.日本の参加実績〜カンボジア暫定統治機構(UNTAC)を事例として〜

1.カンボジア暫定統治機構(UNTAC)への参加 

UNTACの主要活動

期間 1992年3月〜1993年9月

活動内容

カンボジア各派の停戦・武装解除の監視、

選挙の準備・実施

行政の管理

難民帰還の支援

復旧の支援

UNTACにおける日本のPKO業務

停戦監視要員

選挙要員

文民警察要員

施設部隊

物資協力

UNTACへの参加における問題点

なし崩し・既成事実化

新任務の追加と拡大

→選挙監視員の護衛、投票箱の護衛

指揮権の曖昧さ

「五原則の空洞化」→停戦違反日常化の無視

 

6.日米安保とPKO

日米安保と国連

国連憲章第51条と日米安保

日米安保条約第1条と国連

「新ガイドライン」に盛り込まれた国連への日米協力

PKOおよび人道的な国際救援活動における密接な協力

※問題点

「人道的な国際救援活動」の内容及び範囲の曖昧さ

経済制裁の実効性を確保するために国連安保理決議に基づいて行われる船舶の臨検

※問題点

経済制裁の実効性を確保するために何らかの軍事圧力が欠かせない

 

PKOにおける二国間協力の三つの形態と制約条件

米国が日本の任務を後方支援する場合

・米軍がその遠隔地投入能力を日本に提供する

日本が米国の任務を後方支援する場合

・米国の任務の性格は何なのか、どこで行われるか

→米国の任務の性格

国連憲章第7章の支持を得ているが国連の指揮下にはない平和強制任務

国連憲章第7章下での国連の指揮官の率いる平和強制任務

「第6章半」の下に組織された平和維持任務

日本は、  のカテゴリーの任務を支援することには関われないが、のカテゴリーの任務については、軍事活動を伴わない限り参加することができる 

日本政府がなしうる最善は、日本の民間部門の持つ大型の空輸、海上輸送能力を米軍のために調達すること

→有事立法整備の必要性

 

現場での共同任務

非軍事的ないしは民生活動

伝統的な平和維持活動

平和強制活動

… の活動→日米両国は法的、政治的な制約をほとんど受けることはない

… 、 の活動→両国は程度の差はあるが法的、政治的な阻害要因を抱えている

 両部隊が共同で作業し得る唯一の分野は、平和維持活動の非軍事的分野

 

7.今後の日本の国際平和協力の在り方

非軍事的な協力か、軍事的な協力か

憲法9条の範囲内でも十分に行える国際平和協力

日本独自の協力の仕方

 ex)ODA、経済復興への援助、技術移転、医療援助、etc

二国間枠組みに基づく協力か、多国間主義に基づく協力か

日米安保といった狭い二国間枠組みに基づいた協力の模索ではなく、多国間  主義に基づいた協力の模索

国連

アジア・太平洋地域における多国間安保体制の構築とそれに基づいた国際平和協力   

「人の派遣=自衛隊員の派遣」でなければならないか

・人的な協力の必要性

→「人の派遣=自衛隊員の派遣」という短絡的な議論

→文民スタッフの派遣

・「別組織論」の有効性

→PKOに熟知し、PKOのために訓練された要員の派遣

何に対する協力か

「人間の安全保障」

「地球の安全保障」

 

※軍事に偏った協力ではなく、PKOに偏った協力でもなく、非軍事面を中心に「紛争の予防」、「平和創造」および「平和再建」を指向した総合的な国際平和協力政策が必要

タ全保障」

 

※軍事に偏った協力ではなく、PKOに偏った協力でもなく、非軍事面を中心に「紛争の予防」、「平和創造」および「平和再建」を指向した総合的な国際平和協力政策が必要

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