日本のあるべき安全保障のあり方を考える

−安保「再定義」と新ガイドラインの意味を問う−

木村 朗(鹿児島大学法文学部)

 

T 冷戦後の新しい世界秩序とアメリカの世界戦略

 1)冷戦後の世界の特徴

 @ 東西対立の緩和・解消と南北・南南対立の激化       

 A 米ソ二極構造から米・欧・日共同覇権構造への移行      「国民国家」の

B 統合(求心力)と分離(遠心力)の同時進行      →   揺らぎ・相対化

C 国家間・大国間戦争から地域紛争・内戦型紛争へ      

 D 地球的問題群の浮上とグロ−バル・ガバナンスの芽生え   

 

 2)湾岸危機・戦争とブッシュ流「新世界秩序」構想

 @ 主要な脅威の変化        A 同盟国の役割分担の重視

 B 国連の権威の活用        C 世界的覇権の維持

 

※ アメリカの世界・軍事戦略 ・・・・軍事力優先、抑止力重視、「力による平和」

  A 核抑止力戦略    B 柔軟反応戦略   C 前方展開戦略

(@核戦力の優位、A同盟関係の堅持、B前進基地の維持、C「ならず者国家」の排除)

 

U 安保「再定義」の意味と沖縄問題

 1)「ナイ・イニシアティヴ」の進展

 冷戦終了後の日米関係の不安定性・・・・・日米安保体制の動揺・危機

 (日米間の経済摩擦の激化→安保「ただ乗り」論(米)と自主防衛論(日)の台頭)

               ↓

  ジョセフ・ナイ国防次官補による「安保対話」(「ナイ・イニシアティヴ」)の開始

 @ 日米安保体制の再編・強化を日米関係の中心に置く

 A 米軍のプレゼンスと日米同盟の維持が「アジア太平洋の平和と安定」の要である

 2)安保「再定義」の意味・・・・・「冷戦なき冷戦体制」の継続

 @ 米国の二一世紀のアジア太平洋戦略への日本の組み入れ

  (a 日本の軍事的貢献の拡大、b 日本の軍事大国化の阻止)

 A 安保体制の「広域化」(「極東」→「周辺地域」→「アジア太平洋」→「世界」)

 B 「有事」での日米軍事協力の強化(五条「日本防衛」から六条「極東有事」へ)

 C 「本土の沖縄化」の進展(民間の施設・区域への軍事利用の拡大)

 D 抑止力の対象としての北朝鮮および中国の想定(「封じ込め」と「取り込み」)

                ↓

    「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しへ

  (その先取りとしての米軍機・艦船の民間空港・港湾の利用、日米(韓)共同軍事

   演習の強化・日常化)

 

 ※ 「対米武器技術供与」(1983年)=「武器輸出三原則」の適用外!?

 

※ 「物品役務相互提供協定」(ACSA)の締結=「集団的自衛権」の事実上の承認

   への一歩!!(訓練とPKO協力のみ→「非戦闘部隊なら戦時でも可能」!?)

 

 ※ 「戦域ミサイル防衛(TMD)」共同開発への日本の参加・協力の決定!!

 

 3)沖縄問題との連動

  a 沖縄の重荷と「沖縄の声」

  ・沖縄戦での犠牲と米軍による占領・分割統治の刻印

  ・復帰後も継続する過度の基地負担−「基地の中の沖縄」

  ・少女暴行事件の発生→大田知事の代理署名の拒否→沖縄「県民総決起集会」の開催

  b 沖縄「返還」の構図との類似性

  @ 国民不在・議会不関与の中での安保の実質的強化・改訂

  A 「返還」と引き替えの新たな負担の強制

  B 米国主導の交渉と米国の権益擁護の貫徹

 

  c 「基地のない(平和な)沖縄」の実現に向けて

  @ 「アクション・プログラム」と「国際都市形成構想」の提起

  A 「沖縄独立論」の波紋−「潜在的な民族問題」としての沖縄問題

 

  ※ 経済振興策と抱き合わせの基地の県内「たらい回し」強制と

             「沖縄の本土化」抜きの「本土の沖縄化」

 

  ※ 「駐留軍用地特別措置法(特措法)」の改悪−有事法制の先取り!!

 

V 新ガイドラインの特徴と問題点

 <新ガイドラインの特徴−危険性>

 @「防衛型安保」(「五条安保」)から「攻撃型安保」(「六条安保」)へ

  (基地提供から後方支援へ、消極的対応から積極的対応へ、自衛隊の海外派遣へ)

 A「地域限定安保」から「地域無限定安保」へ

  (「極東」−「アジア太平洋」−「日本周辺地域」・「周辺事態」)

 B「自衛隊安保」から「総動員安保」へ

  (民間の施設・区域の軍事利用、有事法制の確立、米国による日本の軍事力・経済力   ・技術力の全面的活用)

 C「日本有事」と「周辺有事」との連動・一体化

 ※「日米共同作戦計画」と「日米相互協力計画」の区別の意味は?

 

 <新ガイドライン策定の意味と問題点>

 @ 国民不在・議会不関与の形での現行安保の実質的改訂

  (手続き的正義を欠いたもの、議会制民主主義の形骸化と文民統制の揺らぎ)

 A 日米安保のNATO化と集団的自衛権の事実上の行使

   (米国の軍事介入・武力行使と一体化した後方支援の積極的実施)

 B 有事法制による基本的人権・地方自治・議会制民主主義への制限・侵害

  (自衛隊法改正をはじめとする一連の有事立法によって、国家総動員体制を構築!!)

 C 自衛隊の海外出動による日本の軍事的役割の拡大             

  (専守防衛を越える自衛隊の行動範囲の拡大、アジア諸国の警戒と反発)

※D 事前協議制の形骸化→「自動参戦体制」への移行!?「調整メカニズム」とは何か?

 

 W 新しい安全保障体制の模索と日本の選択

 1)日米安保体制の本質・・・・・「自発的かつ従属的な(植民地型)同盟」

 「日本は半独立国か?」    (敗戦、占領、冷戦)!? 

 ※日米安保体制の根本的矛盾としての「変則的かつ非対称的な双務性」      

 (米側が集団的自衛権、日本側が個別的自衛権に基づいて条約を締結)

                 ↓

 a 日本の主体性なき米国への過度の「従属性」・「依存性」を生む原因

 b 日本の再軍備を可能にし、経済大国から軍事大国への道を開く要因

   (「複雑なコンプレックス」と「歪んだナショナリズム」の温床)

※「事前協議制」の形式と内実−「指揮・決定権」と「選択権」のあり方をめぐって

・旧安保条約の不平等性(米軍駐留の権利を認めながら、米側に日本防衛義務なし)の解消をはかるものとして「現安保条約第六条の実施に関する交換公文」で合意

 (@配備の変更 A装備の変更 B日本防衛以外での在日米軍基地からの直接出撃)

                 ↓

  日本の国益や日本国民の意思に反した在日米軍の軍事行動の「歯止め」にならず

 ・米側のみの「発議権」、協議対象の限定、日本側に「拒否権」なし

 ・有事の際の核持ち込みを認めた核密約の存在の暴露(1987年)

 ・朝鮮半島有事に事前協議抜きで在日米軍の出動を認める密約の存在(1974年)

・新ガイドラインでの事前協議の事実上の形骸化(「周辺事態」「調整メカニズム」)

  米軍の軍事介入への積極的協力・主体的参加、あるいは主体性なき受動的承認!?

 ※日米の「共通利益」と「個別利益」の関係について−米国の「正義」は普遍的か?

 <個別利益>

 A米国側

 (前方展開基地とその自由使用の維持、「受け入れ国支援」という名の防衛分担金(思いやり予算)の継続的獲得、平時からの日本の民間施設(空港・港湾等)の積極的利用、「物品・役務相互提供協定」(ACSA)を通じた日本からの積極的な後方支援の取りつけ、「戦域ミサイル防衛」(TMD)共同開発への日本の参加、米国製兵器の輸出の拡大、「後方地域支援」としての自衛隊の機雷除去・掃海活動および経済封鎖への協力としての船舶の「臨検」実施など)

 B日本側

 (日本有事の際の日米防衛協力の強化、自衛隊の海外出動による日本の軍事的役割の拡大の既成事実化と国際的承認の獲得、安保理常任理事国への昇格に対する米国の積極的支持の取りつけなど)

 <共通の利益>

 (「共通の敵(あるいは脅威)」に対する日米共同行動・軍事協力の強化による日米両国の安全保障の強化、「共通の価値観」に基づく既存の国際・国内秩序の維持など)

 2)日米安保体制と国連との関わり−朝鮮戦争と湾岸戦争の強い影響

 ※ 日本外交の「国連中心主義」は本物か?→「国連協力」という名の「対米協力」!!

 <朝鮮戦争の影響>

 ・「吉田・アチソン交換公文」(1951年)→日本が極東における「国連軍」への日本の全面的な支援・協力を約束、在日米軍は「日米安保条約の下で配備された部隊」と「国連統一司令部の指揮下の部隊」という二つの顔をもつ!!(1960年再確認)・「国連軍地位協定」(1954年)→朝鮮「国連軍」が在日米軍基地を自由使用できる権利をもつとする内容で今日でも有効!!

 ・「旧安保条約と国連憲章との関係に関する交換公文」(1957年)→国連統一司令部の指揮下に置かれる在日米軍を「日米安全保障委員会」の対象から除外する内容で現行安保条約第7条にそのままの形で規定され、今日でも有効!!

 

 <湾岸戦争の影響>

 ・「国連平和協力法」(91年)→多国籍軍への自衛隊の参加を画策するが、挫折!!

 ・「国際平和協力法(PKO協力法)」(92年)→国連平和維持活動および人道的な国際救援活動への自衛隊の参加を可能とする内容!!

 ・「新防衛計画大綱」(95年11月)→「国際平和協力業務」は防衛力の役割の一つであると規定!!

 ・「日米安保共同宣言」(96年4月)→PKO支援は「地球的規模での協力」で冷戦後の日米安保協力の一つであることを確認!!

 

※ 国連憲章と平和憲法および安保条約との関係をめぐって

・「積極的平和主義」→国連憲章と平和憲法の共通点

 ・「集団的自衛権」→国連憲章と安保条約の共通点

  ☆最大の問題点は、「集団的自衛権」と「集団安全保障」の意図的混同!!

 

 ※ PKO協力法と新ガイドラインの共通点→自衛隊の海外出動を通じた「軍事的な国際貢献」の実現をめざすもので、「地球規模での国連協力」と「日米安保のグロ−バル化」が一体化!!

 

 3)日本のあるべき安全保障へ向けて

 <「冷戦型思考」からの脱却をめざす発想の転換>

 A 「軍事的安全保障」から「非軍事的安全保障」へ

 B 「国家的安全保障」から「人間の安全保障」へ

※ 地域から脱国家、脱軍事の動きを作り出していくことの重要性!           

何よりも国内政治の民主化と平和憲法の徹底化が必要!

             ↓

  日米安保体制の段階的解消と新たな安全保障体制の構築へ

 (日米安保条約の最終的廃棄とそれに代わる日米友好平和条約の締結への道の選択!!)(過渡期における日米安保の脱軍事化、「常時駐留」から「有事駐留」への転換!!)(在沖米海兵隊の撤退を手始めとする、在日米軍の全面的撤退プロセスの開始!!)

 (自衛隊の整理・縮小と分割・再編の実施→「軽武装」から「非武装」へ!?)

 

@近隣諸国との真の善隣友好関係の構築(歴史認識の転換と戦後補償の完全実施が前提)

A日本のイニシアティヴによるアジアでの核戦力を含む全般的軍縮の追求

B新しい地域的集団安全保障システムの構築(二国間および多国間の対話推進による透明 性の向上=情報交流の活性化と信頼醸成の促進、「共通の利益」の形成、「ASEAN 地域フォ−ラム」(ARF)の強化・拡大、北東アジア地域での集団安保機構の構築、 東南アジア非核地帯の具体化と東アジア非核地帯の実現など)

C国連の集団的安全保障システムの強化(「予防外交」・「平和創造」の重視、自衛隊と は別組織の非軍事・民生の「国際平和協力隊」の創設および「国際緊急援助隊」の拡充 ・強化、NPT体制の強化と核廃絶への道の探求)

」・「平和創造」の重視、自衛隊と は別組織の非軍事・民生の「国際平和協力隊」の創設および「国際緊急援助隊」の拡充 ・強化、NPT体制の強化と核廃絶への道の探求)