平和問題ゼミナール1998年12月18日(土)
報告者:千知岩 正継(神戸大学大学院国際協力研究科 M1)
人道的介入とは何か
はじめに
今回の報告では、人道的介入(humanitarian intervention)に関する問題を主に
以下の三点に絞って検討します。
@複合的な人道的危機が生じている背景
A人道的介入が行われた事例とその問題点
B人道的介入の限界と人道的危機の解決に向けての包括的アプローチ
T.人道的援助と人道的介入
(1)人道的援助
・被害者の苦難を緩和することを目的とする
・被災国による同意の原則
・人道性、公平性、中立性の原則
・国家、国際機関、NGO等がアクターとなる
→強制の要素を含まないため、介入には該当しない
(2)人道的介入
@在外自国民保護のための人道的介入
A一方的人道的介入
B集団的人道的介入
「ある国の政府がその領土内に居住する人々に対し任意にかつ継続的に
非人道的、残忍な取り扱いをする場合に、当該国の合意なしに第三国が個別、
あるいは集団的にそのような状況下にある人々の保護のために武力行使、ま
たは武力による威嚇を行うこと」
→強制の要素を含む活動―当該国の意向に反する
―武力行使、または武力による威嚇
U.複合的な人道的危機の増加と
1 紛争パターンの変化―国家間紛争から国内紛争(内戦)へ
@内戦増大の背景
・国内統治体制の正統性の問題
―国内統治体制の正統性が低い→弱い国家(weak state)
―国内統治体制の崩壊→破綻国家(failed state)
A現在の内戦の特徴
・紛争当事者の多様化
・犠牲者の大部分が民間人
・大量の難民および国内避難民
・旧ソ連、東欧、アジア、アフリカ等で生じている
→こうした内戦が、従来からの低開発や貧困、旱魃や飢餓等の問題と絡み合う
ことで複合的な人道的危機が生じている
2 世界的な人権意識の高まり
@多数の人権諸条約
ex.世界人権宣言(1948年)
A地域的な人権保障制度の確立
ex.欧州審議会(Council of Europe)
B人権NGOの活躍
ex.アムネスティー・インターナショナル
C国際刑事裁判所設立の試み
V.人道的介入の事例
(1)イラク
(2)ソマリア
(3)ルワンダ
(4)ボスニア・ヘルツェゴヴィナ―旧ユーゴスラヴィア
(5)ハイチ
W.人道的介入の可能性と限界
1 人道的介入の限界と問題点
(1)国際法における人道的介入
・内政不干渉原則(2条7項)との抵触
・武力行使禁止原則(2条4項)との抵触
・個別的人道的介入か集団的人道的介入か
(2)介入国による国益の考慮
@大国による恣意的な介入
A選択的介入の問題
介入が行われる場合と、介入が行われない場合
ex.ハイチには積極的に介入したが、ボスニアにおける自国の地上軍の
展開を拒み続けた米国
B不介入の問題
大国の死活的利益が関わらない国家・地域における人道的危機が放置
される危険性
(3)モラル・ハザードの問題
人道的介入という短期的な措置を講じることで、根本的な複合的人道危機の
解決が回避される
(4)武力行使の問題
ex.ソマリアでの米軍及び平和維持軍の武力行使
(5)メディアの影響
・アジェンダ・セッターとしてのCNN
メディアが大々的に取り上げる国家・地域の方が、より介入が行われやすい
2 人道的介入の可能性と有効性
(1)人道的介入が行われる基準が明確にされること
(2)兵力の早期撤退を最優先にしないこと
(3)人道的介入を行う多国籍軍等への厳重なコントロールの必要性
X 人道的危機の解決に向けての包括的アプローチ
―人道的危機の予防・解決・再発防止に向けて―
(1)予防外交(preventive diplomacy)
・武力紛争の勃発、拡大を防ぐ
・人道的危機への早期の対処、
・早期警報、事実調査
・予防展開(preventive deployment)
(2)紛争後の平和構築(post-conflict peace-building)
@国家建設の支援
・民主化支援
・司法協力
・NGOによる現地住民の意識改革
A人権、環境を重視した援助
BHN(Basic Human Needs)への視点が重要
B文化交流等による敵対意識の解消
→平和的手段によって、内戦の早期解決を試み、複合的な人道的危機を防ぐこ
とが重要となる
→現地住民の主体性を尊重した国家建設・再建プロセスの推進
→どこまで内政不干渉の原則を不適用にできるか!
おわりに
・グローバル・ガヴァナンス(global governance)への視点
国家、国際機構、企業、自治体、個人等の諸アクター間の調整・調和による、
地球的問題群への対応
・人間の安全保障(human security)への視点
低開発、貧困、人権侵害
※大国間の平和・先進諸国間の平和という発想から脱却し、国家、国際機構、
企業、自治体、個人等の諸アクター間の調整・調和を通じて地球的問題群
を解決することが望まれる