「NATO空爆とコソボ難民問題を考える」
木村 朗(鹿児島大学法文学部)
T コソボ紛争の背景と対立の構図
(1) 歴史的背景
・東西の十字路、「支配―被支配」関係の入れ替わり
・第二次大戦中の「兄弟殺し」、チトー時代における諸民族の平和的共存
(2) 民族対立の構図
・「複合的危機」から「民族・宗教対立」への転換
・「コソボの中のセルビア人」⇔「セルビアの中のアルバニア人」
・「上からの煽動」と「下からの突き上げ」の結合による民族主義の高揚(権力によるメディア支配と教育支配の恐ろしさ!)
・自治権の獲得か、独立の実現か?、平和交渉か武力闘争か?
・コソボ解放軍の「テロ」とセルビアの「民族浄化」の評価?
U 国際社会の対応とその特徴および問題点
(1) 平和的交渉から空爆開始へ
・なぜ交渉は決裂したのか?
・なぜNATOは空爆に踏み切ったのか?
(2) 「人道的介入」の正当性をめぐって
・「人道的介入権」は国際法上の権利としては未確立!
・国連決議なしの軍事介入は違法(「国連憲章」への違反)?
・「主権」と「人権」の衝突、どちらを優先するか?
・軍事介入の「恣意的適用」=「二重の基準」?
(3) NATO新戦略と「周辺事態」
・コソボ紛争は「ヨーロッパの周辺事態」⇒独・伊と日の比較
・NATOの(冷戦後の)生き残り戦略=国連決議を欠いた域外の地域・民族紛争への軍事介入を正当化
(4) 「正義の戦争」の特徴と問題点
@ 国連の不在、NATOの戦争
A メディア戦争
B 新兵器の実験
C 莫大な戦費
D 目的と効果の不対応=「(出口)戦略無しの戦争」、アルバニア系難民の大量流出、セルビア側の徹底抗戦(ミロシェビッチ政権の政治基盤の強化)
E 目的と手段のエスカレート→「アルバニア系住民の保護・救済」から「ミロシェビッチ政権の打倒」へ
V コソボ難民問題の現状と周辺諸国への影響
@アルバニア、 A マケドニア、 B モンテネグロ、 C ボスニア、
D ギリシャ、E ハンガりー、F ブルがリア、G ロシア、H 中国
W 日本政府の対応と課題
(1)資金援助(難民救済、隣接諸国支援)
(2)人的貢献(自衛隊医療部隊派遣の検討、国連PKOへの参加?)
(3) 政治的立場(「理解」表明⇒第三者として和解の仲介を!)
X コソボ問題の今後の展望
・NATOの「完全な勝利」もセルビアの「民族浄化の完成」も不可能!
↓
「勝者無き戦争」=政治交渉による解決が残された唯一の選択肢!