6月平和問題ゼミナール
「国連改革をめぐって」
報告者:田中 竜児(鹿児島大学農学部生物環境学科卒)
はじめに
第二次世界大戦の終結、そして国際連合(以下国連)の発足から今年で56年を迎える。ナチズム、ファシズム、軍国主義の再侵略を防ぎ、国際平和の維持のために創られた国際連合(以下国連)は世界の平和の殿堂として、参加国の利害が対立する場として、今日まで国際情勢をよく反映しつづけてきた。
設立当時は戦勝国を安全保障理事会の常任理事国にすえ、集団的安全保障というシステムで敵国であった枢軸国を抑えこむといった構想があった。
だが、冷戦とともにその構想は崩れた。世界の平和を担うべき安保理がほとんど機能しなかったのである。常任理事国の拒否権行使により会は紛糾してしまったのだ。
これを補うべくつくられたのがPKOである。スエズに始まる一連の平和維持活動は、様々な試行錯誤を経て今日に至っている。
冷戦後、世界各地で紛争が頻発するようになった。平和維持のためのPKOの需要は急速に高まった。また、安保理は常任理事国の拒否権がほとんど行使されなくなり、その機能を回復した。世界各地で頻発する紛争に対応するためPKOは急増し、加盟国にとりその活動の負担は大きく増えた。
また、冷戦後加盟国が増えた。現在190近くの国や地域が加盟しており、現在の常任理事国5カ国は現在の世界の情勢を反映していないとして安保理改革の声が高まっている。改革を必要とする意見は加盟国間で一致しているが問題はどの程度変えるのかということである。
一方で、見逃せないのはその存在が次第に大きくなってきているNGOである。世界で起きている諸問題は主権国家だけでは解決に限界があるものが多い。活動の分野は多岐にわたり、いまや国際関係を論じる上でその存在は無視しえないほどに成長している。
世界情勢はめまぐるしく変化している。ことに冷戦以降その速度を高めている。国連の改革はこうした背景を考えると必然といえる。では、何をどう変えて行けばいいのか。
本稿では、近年叫ばれている、国連改革について以下に挙げる3つの点から考えたい。1.PKOの改革 2.安保理の改革 3.国連とNGO についてである。1つ目のPKOについてはその発生から冷戦期そして冷戦後までの略述とそれぞれの時期の特徴及びその可能性と限界について指摘する。2つ目の安保理改革については安保理のこれまでの経過の略述と議論のいくつかを概観し、日本のとるべき道とあわせて改革のありかたを指摘したい。3つ目のNGOについては、国連とならび国家を超えるもうひとつのアクターとして注目し、NGOの可能性について指摘してゆきたい。
1.PKOの改革
@)PKOとは
PKO(Peace Keeping Operation)国連平和維持活動は国連憲章には記されていない。冷戦により安全保障理事会がその機能を十分果たせないなかで、妥協的措置として生み出されたものである。
A)PKOの歴史
@ PKOの誕生:1956年、スエズ危機。国連緊急軍の創設を決議。
→初の平和維持軍。
APKOの発展:1960年、コンゴ動乱。コンゴ国連軍(ONUC)。
PKOの費用の解釈をめぐり米ソ対立激化。
1965年、国連の正常化のためPKO特別委員会を設置。
→冷戦下では明確な結論はだせず
B冷戦後のPKO(第2世代のPKO):1991年、湾岸戦争。
国連イラク・クウェート監視団(UNIKOM)。
→初の強制措置
→P5がこぞって参加(暗黙のルールの崩壊)
C変貌するPKO:1992年、旧ユーゴでの紛争。
→NATOなどを通じた「多国籍軍型」武力行使を想定。
1993年、第二次ソマリア活動(UNOSOMU)。
→初の平和実施部隊。
D行き詰まる第2世代のPKO
武力行使の限界
→指揮系統、武力行使の目的、範囲をめぐる解釈の混乱
→「中立性」「不偏不党性」の失墜
財政難の足枷
→急増するPKOに財政能力が追いつかない
V)PKOの弱点
@先進国が関与しない
A寄せ集めの混成部隊
B不十分な装備
C)PKOの改革
国連平和行動委員会最終報告書(2000年8月)
→PKOの武力行使権限の強化
→常備軍の設置
→国連暫定統治のための警察官や専門化グループの準備
→PKOの自己防衛能力の強化
→緊急展開部隊の創設
→事務局の改革
→事務総長の権限の拡大
2.安保理改革
@)安全保障理事会(安保理)とは
安全保障に関しての最高意思決定機関。国連憲章のなかで「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任」を負うと定められている。
A)これまでの安保理改革
1963年安全保障理事会の非常任理事国を4カ国増やす決議が総会で採択。
このときの改正の背景
@ 加盟国の増加
A 民主化の要求
B南北問題の顕在化、強まる新興国の結束
B)90年代の改革のうごき
・改革要求の背景
@冷戦後重要性を増した安全保障理事会
A安全保障理事会活性化による国連財政の逼迫
1994年安保理改革の作業部会が設けられる。
・改革をめぐる各国の意見:
米国:改革には悲観的、理事国の増加は最小限に
ロシア:拒否権は世界の安定に重要、現状維持
P 5:常任理事国の議席を増大し、財政の負担を軽減。拒否権は見直さず
途上国:常任に加え、非常任を増やすことで民主化を図る。
2000年7月国連ミレニアムサミットの報告書
→安全保障理事会常任理事国の拡大は盛り込まれず、継続審議へ。
C)日本の対応
・常任理事国入りの前提
@軍事行動を厳しく自制
A軍縮に向けて努力
B非軍事面での貢献
→安保理の構成は世界の実情を反映したものであるべき、また日本は常任国になっても武力行使に積極的であってはならない。
TNGO
@)NGOとは:英語のNon‐Governmental Organizationの頭文字をとった略語。「非政府組織」とか「民間団体」と訳される。
A)NGOの活動分野:人権一般、女性、子供、障害者、高齢者、軍縮、経済、開発、環境、文化、科学等
B)NGOの活動の形態・機能:啓発、交流、政策提言、モニター、開発援助の実施等
C)NGOの活動範囲による分類:国際的、地域的、国内的、ローカル
D)NGOの法的地位:世界的レベルで活躍しても現在の国際法上では認められていない。
→人権、環境など国連の取り組みや成果のかげでNGOは、しばしば政府以上に活躍。
U 経済社会理事会NGO協議制度
@)協議制度とは:国連創設当初からあり、経済社会問題にNGOの能力を活用し、かつ国際世論を反映させるために政府間協議にNGOが参加できる制度。
@)国連の歩み
市民参加の歩みとしても捉えられる
A)オブザーバーからパートナーへ
主権国家の力の相対的低下。市民がグローバルの政治に直接的な発言を要求。NGOは政府のパートナーとして受け止められるようになった。
W世界会議
@)経済社会理事会の苦悩
@権限の弱さ・不明瞭性、途上国の総会優先政策。
A国連に持ちこまれるグローバル問題に、経済社会理事会や他機関では対応は不十分。
B国連はNGOにより多く依存。だが、NGO協議制度の枠では、限界がある。
A)世界会議
@国連の行き詰まりを打開する策として導入。
A頻繁に開催されるにつれ、経済社会問題を扱う主要なフォーラムとしての地位を築き、常設機関に代わって重要な役割を担うようになった。
主権国家からなる国連の任務は主権国家の枠組みを越えており、狭義の国益という点では対応が困難。このため、国家や国益という枠組みに縛られないNGOが力をつけ、活躍の場を広げ、新たなアクターとして注目されるようになってきている。
→NGOを政府のパートナーとして認め、政策決定過程に参加してもらう。NGOの総会
への参加を実現すべき。
(1993年事務総長に提出された意見書から)
@米国:常任理事国のみの拡大。日本、ドイツの加入。
Aベルギ−:常任を2カ国増やし、非常任の枠も拡大。
Bコスタリカ:日、独以外から地域大国を加え、常任を10に、非常任を15に。
Cインド:地理的配分を原則。常任を10から11、非常任を12から14カ国に。
Dイタリア:準常任という新たなカテゴリの創設。選挙を経ず交代で安保理に。
Eスペインなど:拒否権のない常任に限り増加を認める。
Fキューバなど:現在の常任国についても構成を見直し、拒否権は制限すべし。
コロンビアなど:安保理の運営、手続きに関し改革を主張。(民主性、公開性)