2002・5・18(鹿児島大学・平和問題ゼミナール)

忍び寄るメディア規制

               杉原洋(南日本新聞「読者と報道」委員会事務局長)

 

 

 

個人情報保護法案と人権擁護法案が国会で審議入りした。「結構じゃないか」と勘違いしそうな名前の陰に、実は表現の自由・言論の自由を規制するたくらみが隠されている。

報道とは何か、過剰取材の過剰とは何かが、主務大臣や人権委員会という行政機関(およびそれと実質的に同じ組織)の判断にゆだねられる仕組みが出来上がる。もとより、一部マスメディアの非常識な取材報道が、市民のひんしゅくを買い、人権侵害だと批判されていることも事実だ。だが、「一切の表現の自由」を保障する憲法21条だが、この法律が成立すれば完全に骨抜きになってしまう。行政機関の定める範囲内での表現の自由という事態が出現することになる。明治憲法29条「法律ノ範囲内ニ於テ…言論…ノ自由ヲ有ス」の再現だ。あたかも有事法制制定の準備も進んでいる。日本よどこへ行く。

 

@3点セット

 個人情報保護法案        (01・3国会上程) 4月25日審議入り

 人権擁護法案          (02・3国会上程) 4月24日審議入り

 青少年有害社会環境対策基本法案                        今国会への上程見送り

 

 

 【個人情報保護法案】

 ・民間分野の個人情報が対象←→行政機関個人情報保護法(85年)

  ・生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日その他により特定の個人を識別できるもの

  ・5つの基本原則(目的の明確化、適正な取得、正確性の確保、安全性の確保、透明性の確保)

   本人同意の必要性、第三者への情報提供の禁止、第三者からの情報収集の禁止

  ・義務規定

 ・配慮義務(主務大臣は表現の自由、学問の自由、信教の自由、政治活動の自由を妨げることがないように配慮しなければならない)

 ・適用除外(放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関=報道の用に供する目的)

 

  ・本来、住民基本台帳法改正で11ケタの個人番号が付与され、行政に膨大な個人情報 が蓄積されることへの歯止めとして検討が始まった。

   名簿やデータベースを使った商業活動と表現活動を一括して規制する。

 

【人権擁護法案】

 ・差別、虐待、公権力による人権侵害、マスメディアによる人権侵害の4類型

 ・人権侵害救済のために「人権委員会」を法務省外局として設置

  ・メディアによる人権侵害は「特別救済」の対象

  調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助

 ・犯罪被害者、少年犯罪者、犯罪者や犯罪被害者の家族・兄弟姉妹が対象

  ・過剰取材 つきまとい、待ち伏せ、立ちふさがり、見張り、押し掛け

       電話をかける、ファクスを送りつける

 

  ・本来、国連人権委員会から日本政府が要請されたのは、入管、代用監獄などでの人権侵害への対応措置

 

【青少年有害環境対策基本法】略

 

 

A特徴・問題点

 ・規制が必要という美名の下に言論規制の仕組みを潜り込ませている。

  ・行政権による規制

  政府などがストレートに命令権、勧告権、公表権を行使し行政指導を行う

 ・憲法21条の解釈改憲/明治憲法29条(日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス)への逆戻り

  ・新聞は戦後初めて主務大臣の管轄下に置かれる。

 ・自由にものを言いにくい錘ミ会的委縮効果曹ェ生み出されるであろう。

 

B背景

 ・無秩序な報道への市民の嫌悪・批判

 ・90年代初めからの自民党のメディア対策