20031018

イスラーム原理主義と国際政治

 

                                報告:森田 豊子

                             (鹿児島大学非常勤講師)

     内容

有名なハンチントンの『文明間の衝突』論は、その議論のあまりの素朴さにもかか わらず、多くの人々の心をとらえた。冷戦構造が終わりを迎えた現在、人々が世界を説明する新しい対立軸を必要としたとき、そのとらえどころのない文化とも宗教ともつかない曖昧な『文明』の対立を、ハンチントンは提示した。そこで示された「西欧 世界vs.イスラーム世界」という図式は、喉に刺さった魚の骨のように、何かひっかかるものを人々に感じさせる議論である。
 世界的にその現象がみられる「イスラーム主義」は、「イスラーム原理主義」や「イスラーム復興」などとも呼ばれる。1970年頃から世界の各地で起こっているこの 現象の中でも最も世界に衝撃を与えたのは、1979年のイラン・イスラーム革命であった。右でも左でもない、「イスラーム共和国」を目指したこの「革命」を、世界は驚きの目で見つめた。この革命に端を発したイラン・イラク戦争で、イランは国際的な 孤立を深め、イラクには世界中から武器が集まった。このような中東の軍事バランスの崩れは、その後のアフガニスタン、ペルシャ湾岸諸国だけではなく、イラクそのものの運命をも変えていくことになる。
 今回の発表では、このイラン・イスラーム革命から現在までの国際政治の流れを、中東諸国の視点から見ていこうとするものである。そこには、「イスラーム原理主義とは何か」という基本的な問いから始める必要があるだろう。「イスラーム共和国」 樹立を達成したイランの現状は、さらに現在、各国のイスラーム過激派は、いったい何を求めてテロ活動を行うのかなど、「イスラーム」をキーワードに、現代世界を読み解いていこうと思う。

 

はじめに

 今回の発表の目的:イスラーム原理主義の諸現象についての整理

イラクの次はイランなのか?

 

1.「原理主義」という用語

*イスラーム原理主義

   *イスラーム復興

   *イスラーム主義

 

 

 (1)1920年代のアメリカにおけるキリスト教原理主義

    ・聖書批判学、ダーウィンの進化論への反発から

     「反近代性」「過激な活動」というレッテル−「原理主義」

 

 (2)1970年代以降のイスラーム主義・イスラーム復興・イスラーム原理主義の諸現象

    ・近代化=西洋化=世俗化=脱宗教化への揺さぶりから

    ・政治・経済秩序の構造的な変化と呼応

 

     @グローバルなレベルにおける日常の「宗教回帰」現象

シャリーア(イスラーム法)に従った生き方(個人の行動の変化)

 

     A武力行使を伴う宗教=政治活動

        シャリーアを実現する社会体制および国際秩序を求める

ジハード(聖戦?):ジャハド(努力する)より

         「神の道のための努力、『平和の家』拡大への努力」

 

     Bイスラーム政権樹立後のイスラーム化政策

        アフガニスタンのタリバン政権

        イランのイスラーム政権

 

 

2.イラクの次はイランなのか?

(1)   「悪の枢軸」:イラク・イラン・北朝鮮

   湾岸戦争以後の「二重封じ込め」政策

   イスラエルとの関連

 

(2)イランの「イスラーム政権」は脅威なのか?

     反体制の宗教=政治活動の目指す理想の体制?

*「ヴェラーヤテ・ファギーフ(法学者による統治)」

イランの民主主義とは?

 イランの二つの社会

国家主導のイスラーム化は人権侵害か?

      

 

おわりに

   シーリーン・エバーディーが「ノーベル平和賞」を受賞した意味

参考文献

 

井上 順孝・大塚 和夫編 『ファンダメンタリズムとは何か』新曜社,1994

大塚 和夫 「ファンダメンタリズムの問題−イスラームの事例を中心に−」

      『岩波講座 宗教と科学3 科学時代の神々』岩波書店,1992

板垣 雄三 『イスラーム誤認』岩波書店,2003

臼杵 陽 『原理主義』岩波書店,1999

小杉 泰 『イスラームとは何か』講談社現代新書,1994

小杉 泰 『現代中東とイスラーム政治』昭和堂,1994

小杉 泰編『イスラームに何が起きているか』平凡社,1996