「テロと報復の連鎖を断つために−鹿児島での九州・沖縄平和研究集会を終えて−」

去る9月22日及び23日に鹿児島(会場:鹿児島大学教育学部)において、第14回九州・沖縄地区平和研究集会が開催されました。現地事務局担当として参加した立場から、今回の平和研究集会の概要をご報告します。

 九州・沖縄地区平和研究集会が鹿児島で開催されるのは8年ぶり2回目のことで、日本平和学会九州沖縄地区研究集会実行委員会/九州平和学会が主催、九州平和教育研究協議会/長崎総合科学大学長崎平和文化研究所/日本社会文学会九州沖縄地区ブロックが協賛ということで行われました。開会に先立って、主催者代表として鎌田定夫氏(長崎平和研究所所長、日本平和学会理事)、会場校代表として平井一臣氏のご挨拶があり、第一日目(第一部)は、「地域から問う平和・安全保障」、第二日目(第2部)は「日本国憲法と教育・人権問題を考える」をそれぞれ共通論題として、約60名の参加者が熱心に討論を行って幕を閉じました。また、第1日目の夜には懇親会がホテル吹上荘にて行われ、冒頭にご挨拶をいただいた荒川譲先生(「憲法を守る会」会長)をはじめ20数名の参加者があり賑やかで楽しいひとときを持つことが出来ました。

ここで特筆すべきことは、今回の平和研究集会が9月11日に起こった「米国同時多発テロ」事件の衝撃からさめやらぬ時期に開催されることになったため、第一日目の冒頭報告を行った石川捷治先生(九州大学)をはじめ、多くの報告者の方がこの事件に触れられたばかりでなく、第一日目の最後に事務局から緊急大会声明「テロと報復の連鎖を断つために」(下記参照)が提案され、その質疑・討論のなかで出された問題点を修正のうえ第二日目の研究発表終了の後、再提案して最終的に参加者の全員一致で採択されました。

以上のように、今回の鹿児島での平和研究集会は、テロ事件後のきわめてタイムリな時期・内容で行われ、きわめて有意義な報告・討論が行われました。現地事務局担当としては、平和研究集会が無事に終わってホッとしているところです。
 さて、「9・11(米国同時多発)テロ」からすでに2ヶ月以上がすぎ、10・8から始まった米英によるアフガニスタンへの「報復戦争」が1ヶ月をたった現在も続いています。そこで、この問題についてのわたしの考えを少し述べさせていただきます。

まず、9・11に起きた対米テロとの戦いをはたして「戦争」と呼べるのでしょうか。ブッシュ米大統領は、このテロとそれへの戦いを「新しい戦争」であると宣言し、「米国の敵」を「世界の敵」と見なして米国と同じ戦列に加わることを「国際社会」に強要しています。10・8から始まった米英によるアフガニスタンへの「報復戦争」も、個別的および集団的な自衛権の発動として正当化しています。しかし、この無差別テロ自体は国際的な「凶悪犯罪」であり、いかなる理由があっても決して許すことの出来ない非人道的な行為ですが、「戦争行為」そのものと見なすには無理があります。テロの実行グル−プは明白な容疑が固まった段階で国際的な警察・司法協力のもとで厳しく処罰することは当然です(国際刑事裁判所が設立されていない現在の時点では国連主導の国際法廷設置が妥当と思われます)。とはゆえ、状況証拠のみで明白な証拠開示もしないで犯行グル−プをビンラディン率いる「アルカイダ」と決めつけて、「アルカイダ」の壊滅ばかりでなく、それを支援したという理由でアフガニスタンのタリバン政権の打倒をも目的とした「報復戦争」を行うのは明かに過剰防衛です。そして、このテロとの戦いという「正義」を掲げた「報復戦争」では、クラスタ−爆弾や劣化ウラン弾などの非人道的兵器が大量に使用されているばかりでなく、度重なる「誤爆」(実際には「誤爆」かどうか疑わしい事例も含まれている)で多くの民間人が犠牲となっている現状をみれば、この「報復戦争」が目的ばかりか手段においても正当性をもたないものであることは明かです。

また、そもそも「9・11(米国同時多発)テロ」を引き起こした背景と原因は何であったのでしょうか。一番大事なことは、9・11に起きた対米テロは、(ブッシュ米政権が主張しているような)すべての始まりではなく、それまでのアメリカの行動・政策がもたらした結果であるということです。「なぜアメリカが狙われたのか(あるいはアメリカはなぜこれほど憎まれるのか)」という根本問題を考えて、その本当の原因をなくすことこそが最大のテロ対策であるということです。ここで、そのすべての原因に言及することはできませんが、背景・遠因としての貧困・飢餓・差別・抑圧といったグロ−バリズム(アメリカ流資本主義の世界化)の矛盾と、直接の原因としてのブッシュ政権になってより顕著となった米国のユニラテラリズム(単独行動主義)、とくにあまりにも偏ったイスラエル寄りの中東政策を指摘しなければなりません。

そして最後に、「暴力(テロと報復)と憎しみの悪循環」という現在の状況のなかで日本は一体何をなすべきなのでしょうか。日本政府は、米国の「報復戦争」をテロへの戦いと同一視してこれを全面的に支持し、戦時における米軍への後方支援という形で「米国の戦争」に積極的に協力・加担しようとしています。詳述は省きますが、テロ特措法や自衛隊法の「改正」が日本国憲法ばかりでなく現行の日米安保条約の枠からも大きくはみ出す内容(「戦時」に、「地域無限定」で、「国連決議」や「国会の事前承認」の歯止めもないなど)のものであることは明かです。今の日本政府の対応は、「湾岸戦争のトラウマ」から抜け出すために「(対米軍事貢献のために)自衛隊派遣」を何がなんでもはたさなくてはならないという脅迫観念にとりつかれているようにしか見えません。しかし、従来の専守防衛の基本原則を放棄し、日本国憲法で禁止されている(と政府も言っている)集団的自衛権を事実上行使することになる重大な決定を満足な審議もせずに(わずか3週間!)で行うことが果たして許されていいのでしょうか。

私たちは、このような戦争協力への道を断固として拒否し、それに変わる代案、すなわち軍事協力ではなく「和平への仲介と難民支援」という、日本にしかできないような国際協力を今こそ全力で(国家レベルばかりでなく、市民レベルでも)行うことが求められていると思います。幸い、現在はインタ−ネットを通じて市民が国境の壁を越えて自由に世界の人々と連帯・協力することができるようになっています。現在の状況はわたしたちにとって、ピンチであると同時にチャンスでもあることを自覚して、一人ひとりができることからまずはじめることが最も大切ではないでしょうか。

                                                                                   木村 朗・鹿児島大学法文学部(『かごしま自治研』に掲載)

 

第14回九州・沖縄地区平和研究集会ご案内


 21世紀とともに登場した日米両新政権の動向は、アジア太平洋と日本の平和・安全保障にとって、きわめて憂慮すべき様相を見せています。それはまた、対外的な国際関係だけでなく、日本国憲法と教育・人権問題とも深く関わっています。
 日本平和学会・九州平和学会は、例年九州・沖縄地区の平和研究者・平和活動家の参加を得て、各県持ち回りの研究集会を開催してきましたが、今回は鹿児島大学を会場に、下掲のような共通論題および日程で開催することになりました。
 平和学会会員だけでなく、九州・沖縄各県および地元各方面の平和団体、市民団体の方々の積極的ご参加を期待し、ご案内申し上げます。
   2001年6月20日
                   (日本平和学会担当理事)鎌田 定夫
                   (鹿児島大学法文学部) 木村 朗

第14回九州・沖縄地区平和研究集会

〔日時〕2001年9月22日(土)13:00〜17:30, 23日(日)9:30〜12:30
〔会場〕鹿児島大学教育学部(鹿児島市郡元1-24-14, 代表TEL:099-285-7111)
〔主催〕日本平和学会九州沖縄地区研究集会実行委員会/九州平和学会
〔協賛〕九州平和教育研究協議会/長崎平和文化研究所
     鹿児島大学経済学会
  参加費(資料代) 500円
    ※『九州の平和研究』鹿児島集会特集号発行予定 予価1,000円(当日予約受付)

<研究集会プログラム>
 ■第1日目 9月22日(土)13:00開会 12:30受付開始
    開会あいさつ (主催者代表)鎌田定夫 (会場校代表)平井 一臣
  〔第1部〕 共通論題「地域から問う平和・安全保障」 13:30〜17:30
                      <司会> 木村朗(鹿児島大学)
   1.「アジア太平洋地域の安全保障と九州・沖縄」 石川捷治(九州大学)
   2.「周辺事態法と地方自治体」 続 博治(鹿児島・姶良ユニオン事務局長)
   3.「沖縄戦と鹿児島」 安仁屋政昭(沖縄国際大学)
   4.「軍事化の現段階と佐世保」 川原紀美雄(長崎県立大学)
         <討論者> 菅 英輝(九州大学)


■懇親交流会 9月22日(土)18:30〜  (会場)ホテル吹上荘(〒892鹿児島市照国町18−15、Tel 099-224-3500)
    <参加費> 4,000円  (参加希望者は当日、受付にて申し込むこと)

 ■第2日目 9月23日(日)9:30〜12:30
  〔第2部〕 「日本国憲法と教育・人権問題を考える」
                  <司会> 木永勝也(長崎総合科学大学)
   1.「憲法調査会および教育改革国民会議の最近の動向をめぐって」
                      小栗 実(鹿児島大学)
   2.「教科書問題の新しい特徴と問題点」
              小浜健児(鹿児島県歴史教育者協議会)
   3.「"女性国際戦犯法廷"の提起したもの」 疋田京子(鹿児島県立短期大学)
   4.「"平和の塔"発掘10年」 追立敏弘(宮崎・平和の塔の史実を考える会)
          <討論者> 出原政雄(志学館大学)

 ■宿泊・会場案内
   宿泊の件は、鹿児島事務局へご連絡下さい。ホテル吹上荘を予約しています。
   会場(研究集会・懇親交流会)は別紙地図をご参照下さい。

  <連絡先>
    九州沖縄地区平和研究集会事務局
     〒890-0085 鹿児島市郡元1-21-24 鹿児島大学法文学部 木村朗
              (TEL)099-285-7654 (FAX)099-285-7615
    九州平和学会事務局
     〒851-0123 長崎市網場町536 長崎総合科学大学内 
     長崎平和文化研究所 芝野由和 (TEL&FAX)095-838-4866