SELF LINER NOTES 2011

過去と現在を結ぶイメージの点線 村松 健


アーティストの望むただひとつのことは、やはり今の自分が遥かなる道程の途上にあるということに他ならない。こうしてかつての自分の作品に触れるとき、その時点で何を表現したくてどこへ行きたかったのかを、かつての自分と対話するように音越しに感じ取ることができる。幸いにもアナログマスターの残っていた今作のリマスターを手がけるにあたり、思いがけず甦ってきた熱い想い。ここに四半世紀振りのセルフライナーノーツを記してみたいと思う。


1. SUNRISE / 10. SUNSET

オープニングとエンディングを飾るこの2つは同曲である。特筆すべきは、この得も言われぬベーストーンのこと。実はこれシンセベースなのだが、手の込んだことに、ウッドベース特有の押すような箱鳴りが欲しくて、本物のウッドベースに向けて小さなスピーカーを鳴らしその共鳴音をマイクで拾い実現したもの。「SUNSET」の方に加わる、今は僕のサウンドに不可欠なストリングスのスコアが何と初々しいことか...。

* Steinway piano Fender Rhodes Mini-moog(シンセベース)
2. PASTEL COLOR

これは、その先僕が進んで行く自然派志向(ナチュラル志向)の皮切りのようなナンバーで、この朝もやのような爽やかさ、淡いカラーは、当時の僕の等身大を思わせる。間を取りながらのインプロヴィゼーションは、後のピアノソロでのアプローチを彷彿とさせるし、ラテンフィーリングは、近作「My Spiritual Home」で言えば、「翼のサンバ」に直結する僕一流の好み。Bernard Purdieをイメージさせる渡嘉敷祐一のグルーヴに強くインスパイアされた。

* Steinway piano Yamaha GS-1 Roland Jupiter-8
3. SUMMER LAMENT -Early Morning Avenue

もうお分かりだろうが、このアルバムは1日の時の流れに沿って曲順を設定している。僕のアルバムにおいて唯一のアナログフォーマット、A面は夜明けから正午まで、B面は昼下がりから闇に包まれるまで ─── そんな意図を思い出す。この曲は、メジャー系のメロディが多い今作中数少ない哀愁を帯びたもの。去り行く夏の終わりに感じ取る“刹那”がモティーフになっている。ここではフェンダーローズが活躍しているが、曲の展開、繰り返しながら大きなエンベロープを描くようなホリゾンタルなプレイは、当時から僕が好んでいたスタイル。EMULATORのドラムスと、当時刺激的だったSIMONSのオブリガート、ソリッドなリズム隊の上でエモーショナルなプレイを心がけた。

* Steinway piano Fender Rhodes Prophet-5 Roland SH-09
4. & bonus track(11). 5 A.M. -BLUE

夜更かしをすると美しい朝焼けが見たくなって、つい明けゆく空を眺めてしまうけれど、そんな僕のくせはすでにこの頃始まっていたのだと思うと、ちょっとくすぐったかったりする曲。サウンドは心地よいのだが、導入部のピアノなどを聴いていると実現したかったイメージには少しばかり届かなかった、アレンジに溺れた感がある。アルバムの再発売に臨み、かなわなかったその世界を実現すべく奏でたのが、トラック11のニューバージョン。さて今度は、僕の行きたかった場所にあなたをお連れ出来るだろうか。

* Steinway piano Roland Jupiter-8 Hammond organ B-3
5. MY HEART, MY HEAVEN

音楽が”祈り”であったり自らを”浄化”するものであってほしいという思いは、幼き日に口ずさんだ賛美歌に始まり、思春期に熱中したゴスペルミュージックに結びついた。そんな憧れの結晶がこの曲であり、今でも時々プレイするナンバー。ギタリストのAuthur Adamsへのオマージュから生まれたこの曲では、ベンソン張りの天野清継のプレイが眩しかった。

* Steinway piano Fender Rhodes Hammond organ B-3
6. NEW YORK, CLOUD 9

このアルバムを知らなくても、この曲を耳にしたことは必ずあると言ってもいいくらい、TV番組のジングルなどで使われたナンバー。聞き直してみて、この曲の存在感の圧倒的なこと、他に類を見ないユニークさに少しショックを受けた。確かに僕のピアノは決してピアニスティックなものではなく、メロディを奏でるとき、そこにはむしろヴォーカルは勿論、エレクトリックギターや三味線といった弦楽器の歌いっぷりをイメージしながら奏でていることが多い。右手の歌心と言ったらいいだろうか、それが存分に発揮されズドンとフィーチャーされている。このスタイルの延長上で、また音楽を作ってみたくなった。ぜひ聞き耳を立ててほしいのは、この曲のベースプレイ。軽やかなチョッパーベースに目を見張らせる渡辺直樹のプレイに向こうを張って、実は僕がシンセベースをダビングしている。曲の最後の方で、彼と僕が違うラインを通る、そんな箇所を聴くと、若き日の主張が受け取れて、何とも健気である。

* Steinway piano Fender Rhodes Roland VP330(Vocoder) Prophet-5 Mini-moog
7. MOONLIGHT LADY

フュージョンブームの後半には、ヨーロッパ発のいくつかのバンドのサウンドが世の中を席巻したが、この曲などはブリティッシュ・フュージョンのテイストを持ったナンバーと言えよう。ピアノとフェンダーローズのユニゾンで奏でられるメロディは当時流行ったサウンドだが、メロディのフレージングだけで自分であろうとする覇気が、後半のインプロヴァイズを導き出している。ここでも直樹さんのベースは比類なき冴えを見せている。それから僕のたってのリクエストで実現した山口真文のモーダルなプレイは、今も愛おしい。

* Steinway piano Fender Rhodes Prophet-5
8. RHAPSODY

もともとポップスであったこのナンバーをアルバムに収めようというアイデアは、この後の僕の音楽の在り方─つまり器楽的で早いパッセージや、テンション感のあるハーモニーを伴わなくても、ピアノは声となり得る─そんな冒険への入り口だったかもしれない。こういった音価の大きな譜割りの旋律をありったけの歌心で奏でること自体が新しいアプローチであったと、当時は気づかずにトライしていた。そういった意味ではトラック2「PASTEL COLOR」やトラック9「NIGHT FLIGHT」とともに、後のアルバムに繋がっていく予感をおぼえるトラック。

* Steinway piano Fender Rhodes Prophet-5
9. NIGHT FLIGHT

フュージョンというのは、音楽のジャンルというよりむしろルーツを持ったミュージシャンの”ステージ”であると僕は考えている。そういった意味では僕のルーツが、ジャズサンバを起点としたラテンピアノとともに、スティービーやマーヴィンを夢見たブラックフィーリングであることは言うまでもない。今耳にすれば、稚拙に感じるシンプルなフレーズの中で、ひたすらファンキーにプレイしたいと願っていた結果生まれたこのサウンドは、やはり若気の至りでも青春の輝きでもある。エフェクトしたピアノで、全盛を極めた北島健二のギターとバトルするイメージは、トラック6とともにお茶の間を賑わわせたナンバー。ブラスセクションの切れと相まって、カットアウトするエンディングが潔くて好きだ。

* Steinway piano YAMAHA CP-80 Roland Jupiter-8

書き出してみて気づかされることは、アレンジスタイルが限定されたこの時期のアルバムであるにも拘らず、そこには今の僕に繋がるモティーフがしっかりと蓄えられていたということ。例えばトラック5に始まる聖地への憧れは、僕が暮らしている奄美大島の聖地を訪ねて毎夏行っている野外公演「うとぅぬうしゃぎむん」を遠く目指すものだったと...。音楽の肝は云うまでもなく"スタイル"ではなく"精神性=ソウル"である。このアルバムの頃の僕しか知らない方、後のアルバムを知ってこのアルバムを初めて耳にされた方、多くの方が、スタイルを超えて過去と現在をイメージの点線で結んでくださることを願ってやまない。