そんな他愛のない日常に

ある日の午後、思い立って駅前の印刷屋へ車を走らせた。去年、引っ越してからまだ名刺を作っていなかったので、頼むことにしたのだ。

外は天気がよく、冬としては空気も暖かかった。カーラジオから聞こえる、地元FM局のDJの他愛ないおしゃべりが耳に心地よかった。車を走らせるのが数日ぶりのせいなのか、フロントガラスを通してみる景色が新鮮に思えた。学校帰りの小学生、買い物へ向かう主婦、犬をつれた老人、アスファルトの道路、路肩のじゃり、小さな畑、生け垣…。

「あの、前に名刺を作ってもらったんですけど、引っ越したので住所を変えたいんですが」
「ああ、以前、いらした…。なんとなく覚えてるわ」そう言いながら印刷屋の女性は、以前作った名刺の控えを段ボール箱から探した。
「これね」
彼女が取り出してきたものを見ながら、変更個所を指定した。100枚で2400円。家内の分も作るので合計4800円を支払う。2、3日でできるという。版下ができたら、印刷の前にファックスで送ってくれるよう頼み、印刷屋を出た。

家に戻ると、長男は宿題を、次男はテレビゲームをしていた。玄関に迎えにくるのは、いつものように2匹の猫。玄関へやってくるのは、外へ飛び出すスキをねらっているだけなのだが。

部屋へ入り、仕事を再開する。こんな他愛のない日常の続くことを心のどこかで願いながら。

(1999.2.10)

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