這う人

それはどこの街だったろうか。確か北京よりも北の地方都市だったと思う。駅前の広場に僕はいた。北のほうとはいえ夏の日差しは強く、しかもその広場には日差しをさえぎるものがほとんどなかった。あるのは直径10センチあるかないか程度の木がいくつか。それでもその細い影を頼って、人々は木のそばに荷物を置いて休んでいた。ある木が空いたのを見逃さず、僕はそこへ移動し、地べたに腰を下ろした。木の影はほとんど効果がなかった。

真上から日が差して目がくらみそうなほどに輝く広場のコンクリートの上を、ゆっくりと動くものがあった。四つん這いになって歩く、それは人間だった。5、60代と思われるその男には膝から下がなかった。

男は広場を囲むように点在している木の一つへ向かってゆっくりと這っていった。そして木にたどりつくと、その木の根元に固まっている人たちへと片手を伸ばした。数秒間そうしていたが、 何も起こらなかった。男は無表情のまま手を戻し、別の木の方向へと進み始めた。

いずれその男が僕のほうへ向かってくることは明らかだった。彼の体がそのようになった原因は、僕の国と関係があるかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。いずれにしても、彼がゆっくりとまっすぐと僕のほうへ向かってくることの緊張感に自分は耐え切れそうになかった。

僕は敗北感めいた感情をいだきながら、リュックを背負って広場を後にした。(2000.3.25)

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