自らの手で歴史のページをめくる

ユーゴ情勢。独裁政権のもと行われた大統領選挙は、独裁者ミロシェビッチの思惑を打ち壊すかのように野党のコシュトニツァ氏の勝利に終わった。独裁政権は投票結果をミロシェビッチに有利になるように捏造しようとしたがかなわなかった。裁判所は選挙の無効を宣言したが、ユーゴの人々は首都ベオグラードに集結し、コシュトニツァ氏支持を強烈にアピールした。警察は当初、人々を取り締まる側に立っていたが、やがて人々の側へと歩み寄った。軍は人々に銃を向けることはしなかった。極端な独裁政権寄りの報道しかしなかった国営放送は、コシュトニツァ氏を新大統領として報じた。ロシアのプーチン大統領はコシュトニツァ氏に対して大統領選挙勝利を祝福するメッセージを伝えた。こうして独裁政権は倒れ、新しい政権が誕生した。

この出来事から感じるのは、歴史というのは人間によって作られていくということだ。自動的に何者かによって動かされるのではない。人間のもつエネルギーによって時代は変わる。ユーゴにおいては人々は自らの手で歴史のページをめくった。

振り返って日本のことを考えてみる。日本で生活していると、民衆が自らの力で時代を変えていくなどということが現実に起こりえるとは到底思えない。私たちが見ているのは半径数メートルの個人的な世界だけではないだろうか。国政選挙の投票率の低さがそれを端的に証明している。誰も国だとか社会だとかを動かせるとは思っていないのだ。

それが間違いだということをユーゴは教えてくれたと思う。数十万人を前にコシュトニツァ氏は「私たちに与えられた唯一の武器は真実だ」と演説したという。日本にいる私たちは「真実」を見ているだろうか。何かに幻惑されて、この世界の現実を正しく見れていないのではないだろうか。(2000.10.7)

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