仕事で虎ノ門にしばらく通ったので、その記念に物語を創作してみました(意味がよくわかりませんねえ)。稚拙な話ですから、暇でしようがないという人だけお読みください。
それは鎌倉時代のことだ。
そのあたりには大きな竹林があった。
そこには大きな雌の虎が棲んでいた。
虎はときおり里へと出てきては若い男をさらっていった。
人々はその虎を大変恐れていた。
あるとき若い僧侶がその里にやってきた。
村人の話を聞き、その虎をなんとかしなければと僧侶は決意した。
大晦日の夜、僧侶は鳴り始めた除夜の鐘の音を聞きながら
一人その竹林へと入っていった。
雪が降り出した。
肩に雪を積もらせながら、僧侶は竹林の奥へ奥へと入っていく。
聞こえるのは、除夜の鐘の音と、雪を踏む僧侶の足音だけ。
やがて広い場所へ出た。
積もった雪の雪明りで、そこはほのかに明るかった。
その真中に僧侶が立ったとき、
物影から飛び出してきた巨大な虎に僧侶は押し倒された。
虎は僧侶の帯をくわえると、軽々と僧侶を持ち上げた。
ほどなくして到着したのは、竹林のさらに奥まったところのある洞窟の中だった。
大晦日の夜だというのに、そこは暖かかった。
僧侶を大きな岩の根方に置くと、
虎はくつろぐようなようすで僧侶の前に横たわり、うっすらと笑った。
後ろ足の間から覗いているその尻尾は、二股に分かれていた。
それがただの虎でないことを僧侶は悟った。
「なぜ人を襲う」僧侶は言った。
「話しても信じてはもらえぬだろうが…」と応えた虎の声は、人間の若い女のそれだった。
虎は語った。
「わたしは元々は村の娘だった
17のとき、旅の男と恋をした
男は生涯の契りを約束した
わたしは男に体をゆるした
しかし男はある朝、村から姿を消した
村人は、男に棄てられた女としてわたし
をあざけった
わたしは悲しみのあまり正気を失い
野山をさまよった
そして気が付けばこの竹林の虎となっていた」
「しかしなぜ若い男を襲うのだ」
「わたしはわたしを裏切った男を憎む
女を欲する男のすべてを憎む
だから若い男を襲うのだ」
「私も若い男だ、なぜ殺さなかった」
「あなたには欲がないからだ」
そのとき除夜の鐘が鳴った。それが百八つ目だった。
僧侶は座禅を組むように座り直し、言った。
「そのように男を殺し続けて何になるのだ
おまえの苦しみはいつまでも消えないだろう」
「あなたの言うとおりだろう
わたしはいくら男を殺しても
気がすまない
この先どうすればよいのかもわからない
このような畜生になり、
大勢の男を殺し、
もはや村娘に戻ることもできない
お坊様、
わたしを殺してくれまいか」
虎は僧侶の前でうなだれてそう言った。
「哀れなことだ…」僧侶はそうつぶやき、虎の頭を三度なでた。
虎の目から涙がこぼれた。
と、そのとき、洞窟の中がまばゆい光に満たされた。
そして光はすぐさま消えた。
虎の姿も消え、変わりに一糸まとわぬ姿の若い娘が
僧侶の目の前に横たわっていた。
娘は苦しげに言った。
「お坊さま
わたしは切ない
息が苦しい
どうぞしっかりと抱きしめてください」
娘を哀れんだ僧侶は、そのとおりに両腕でしっかりと娘を抱きしめた。
「ありがとうございます…」
その言葉を最後に娘は息絶えた。
* * *
僧侶は娘を手厚く葬り、その竹林を切り開いて寺を建立した。
その門には虎の絵が描かれていたことから、村人たちはその地を
虎ノ門と呼ぶようになった。
(2000.12.11)
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