小説:血の日曜日−Bloody Sunday−

  オレはO型である。誰が何と言おうとO型人間である。その証拠に、オレは一目ぼれしやすい。特にA型の女にはやたらと弱い。なぜなら、A型の女というのはやさしく、そして控え目だからだ。

 ところが、困ったことに現在日本ではO型とA型は別々に住んでいる。東経138度以東にO型が、以西にA型が住んでいるのだ。

 ことの始まりは、1987年に結成されたO型同盟である。枝葉末節にこだわるA型が人口の4割を占め日本を支配しているから様々な社会問題が起こるのだ、ノンビリとしたO型が優位に立つようになれば日本もよほどくらしよくなるだろう。そう考えて、全国のO型人間が団結したのだ。O型の結束は強い。やがて調子に乗ってB型がこれに加わった。それに対抗して、A型はAB型を味方に引き入れ、日本の全人口を二分する対立に発展したのだ。そして、ついに、後にOA戦争と呼ばれる争いが始まった。1990年のことである。

 一年間にわたる「血で血を洗う」戦いは、東経138度を境にして両者が住み分けるということで一応の終結をみたのであった。血液型を分ける境界線であることから、これを人々は「血境」と呼び、この血境には延々と鉄条網が張り渡され、人の往来はできないようになった。

 敵方の侵入と味方側からの亡命を防ぐために、血境パトロールも置かれた。オレはその一員である。オレの仕事は、後を絶たない亡命者の逮捕だ。向こうからこちらへ来ようとする者はほとんどいないが、こちら側から向こうへ亡命しようとする者は少なくない。それというのも、O型の男がA型の女に弱いからである。オレももちろんO型なのでその気持ちはよくわかる。しかし、しかしだ。その感情に負けては、理想の国家は建設できないのだ。

 

 その夜も、オレは担当区域をパトロールしていた。風音にまじって、ささやき声が聞こえていた。

「会いたかったよ」

と男の声。

「私も」

と、これは女の声。

「一週間に一度しか会えないなんてさびしいよ」

「私も。毎晩でもあなたに会いたい」

「でも、それは危険なんだ。この鉄条網があるかぎり、ネズミのようにこそこそと会うしかないんだ」

すすり泣き。

「私、もうこんなのイヤ。イヤ、イヤ。あなたと一緒にくらしたいっ」

しばらく沈黙。やがて、強い調子の男の声。

「よしッ。おれはそっちに行くぞ」

 思いついたらすぐに実行するのがO型である。オレは、声のしたほうへ駆けた。案の定、男は4メートルの鉄条網をよじ登っていた。下には、あちら側から男を見つめている女がいた。

「おいッ、もどらんかッ。もどらんと撃つぞ」

 オレは銃をかまえた。しかし、オレが撃つより先に、A型側から銃声が聞こえ、男は鉄条網にひっかかったまま動かなくなった。続けて、オレの足元で銃弾がはじけた。オレは、呆然として立ちつくしている女に向かって叫んだ。

「危ないから伏せてろ!」

 オレのほうを見た女のその顔はチャーミングだった。あと十秒も見つめ合っていたら、オレは完全にほれてしまっただろう、彼女は背中から弾丸に撃ち抜かれて倒れてしまった。あんなカワイイ娘を撃つなんて、A型の奴らは人間じゃない。

「ゆるせんッ」

 そう言ってオレは奴らに向かって発砲した。弾が左腕をかすめた。右手をあてがうと、熱い液体が流れ出ていた。これがO型の血だ。だが、その血のどこがO型なのか、オレには分からなかった。

 やがて味方が駆けつけ、戦闘は拡大していった。

 

 後にこれは「血の日曜日」事件と呼ばれるようになる。この事件が発端となって第二次OA戦争が始まったのである。時に1993年、冬のことであった。(おわり)


*この作品は、学生時代に発行していた同人誌からの転載です。

(2002.2.24)

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