新聞配達人

 夜、新聞配達の人が集金にやってきた。ドアを開けると、冷たい風が吹き込んでくる。この寒い夜に集金に周るのはなかなか大変そうだ。しかし、この人はいつも明るく、愛想がよい。今夜もそれに変わりなかった。

 お釣りを待つ間、「寒くて大変ですね」と声をかけると、「いやあ、ガクがないから、仕事があるだけ幸せです」と明るい返答。「今年一年ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いします」そういって彼は去った。

 あなたは立派だ。ドアを閉めてからそう思った。あなたのように自分も頑張らないと、と励まされた。

 同じような感じの新聞配達の人が、以前住んでいた街にもいた。髪はぼさぼさで、服装も汚れたものを着ていることが多かったが、顔をあわせると満面の笑顔を見せてくれる人で、自分はその人が嫌いではなかった。

 彼は、僕と同棲していた女性のことを「美人さん」と呼んでいた。ある集金のときに「最近、美人さんを見かけないですね」と彼女のことを話題にしたことがあった。彼女は出て行ってしまったんだよと教え ようかとも思ったが、言葉にできす、僕はあいまいに笑って応えた。やがて彼のほうで気付いたようだった。

 そのアパートを引き払うとき、「新聞配達の方へ」と大きく書いた封筒を玄関脇の窓の格子に差し込んでおいた。中には香港で買った成人向けの写真集を入れて。 彼が示してくれた友情へのお礼のつもりだったが、喜んでもらえただろうか。(2002.12.22)

[戻る]