心の中の本を読む

懐古は老人の性癖であり、

老いてもいないのに懐古に浸るのは

老化の始まりだといわれる。

若者は未来を向いているから、

懐古に浸っている暇もないという。

それは正しい意見だと思う反面、

別の見方もできるということに気がついた。

若者には懐古するほどの量の過去がなく、

老人にはそれがたっぷりとある。

人は白紙のページでできた本を持って生まれ、

一つ経験を積むたびにそのページが埋められる。

若者のその本は、ほとんどが白紙だから、

読み返してもすぐ終わってしまう。

老人のその本は、経験が書き込まれたページがたくさん。

読み応えも十分あるから、しばしばそれに読むふけってしまう。

それが若者と老人の違い。

 

さて、老人は心の中にあるその本を読んで、

恋愛小説や冒険小説を読むように、楽しむのだろうか。

それとも、自分が書いた物語なのだから、

「ここはこうすべきだった」というように推敲するのだろうか。

もちろん、その本のページは、いったん書いてしまえば

もう直すことはできないのだが。

(2004.3.20)

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