オフ会レポート

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『懐かしい年への手紙』読書会

日時:2004年11月13日(土)

会場:早稲田奉仕園日本キリスト教会館

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 早稲田奉仕園には何度も来ているのにもかかわらず道に迷ってしまい、開始時間に数分遅れて会場に到着。道産子には東京の道は複雑すぎる ぜ(考えてみれば、北海道にいたころからよく道には迷っていたわけだから、方向音痴を生育環境のせいにするのは濡れ衣かもしれない)。会場の11号室にはすでに皆さんが着席しており、なごやかに会話がなされているようす。

 今回は初参加の方が半分近くいるので、まず皆さんに自己紹介をしていただく。参加メンバーを席順に書くと、木賀さん、じんさん、kali_pepさん、スヌーピーさん、つるさん、真春さん、印南さん、白石さん、yoshimiさん、金田さん、ながえさん、katsumiさん、ちゃまんさん、HALさん、いとう。ちゃまんさんは、自己紹介の途中で到着。全部で15人。

 自己紹介が終わったところで、愛媛の岡田さんから読書会の差し入れとしていただいていた「一六タルト」を配布。これは伊丹十三が長い間コマーシャルをやっていた菓子。大江作品の読書会で味わうのに、これ以上ふさわしいものはないと思われる。皆で味わう。岡田さん、ありがとうございます。

 読書会のほうは、順番に作品の感想を語ってもらいつつ、自由に質問や意見交換をするという形式で進める。代表的な意見・感想は以下のとおり。

○過去の総括・自己言及

大江文学の大きな流れのなかで見てみると、本作品の特徴が見える。ここでは、過去の作品が実名で登場し、それを自分で批評し、ときには添削もしている。これは先へ進むための過去の総括と考えられるのではないか。

本作品があって、「燃えあがる緑の木」三部作がある。

○魅力的なギー兄さん

隠遁者ギーではなく「ギー兄さん」としてギーが登場する最初の作品。ギー兄さんの人物像が本作の大きな魅力となっている。

ギー兄さんとは、誰なのか。モデルが実在するのか。

たぶん、大江氏の分身であり、また大江氏の師匠の役割を果たした渡辺一夫、武満徹、伊丹十三などをミックスした存在でもあるのだろう。

○フィクションとノンフィクション

カッコ付きではあるが”自伝”小説と紹介される本作品。どこまでが本当でどこまではフィクションなのか。

○ひたすら美しい

文章も物語もただひたすら美しい。

家族のシーンは、読むものを幸福にさせる。

○悲嘆(グリーフ)

中年期の静かな悲嘆のあとにやってくる荒々しい悲嘆とは何か。

それはある年齢において誰しもが経験するものなのか。それは本作品の書かれた1980年代後半における戦後知識人の絶望や怒りを指しているのではないか。

○永遠の夢の時

夢の世界のような幸福なイメージさえあるラストシーンをどうとらえるか。小説の構造としては不要かもしれない。しかし、ああいう場面を持ってくるのが大江文学の魅力でもある。

あれは、本作品で描かれいてる絶望・怒り・憎悪といったものと対抗する家族による救済を描いたのではないか。

○ダンテの神曲

地獄→煉獄→天国という神曲の構造が本作品にも見られるのではないか。

神曲は難解。

○女たち

オユウサン、おかあさん、アサ、オセッチャンなど、登場する女性たちが魅力的であり、重要な役割も果たしている。

「Kちゃん」の妹のアサは、神曲のベアトリーチェではないか。

 

 このほかにもさまざまな意見や感想が出ていた。内容に合わせたブックカバーを作って本にかぶせている方、本作品の国際電話が海底ケーブルではなく通信衛星経由であることを技術的観点から調べた方、作品への向かい方は実に多様。なかでも新鮮に感じられたのは、元女優でテレビ出演の経験もある方の読み方。自分の役柄を決め、舞台上で物語が進行するのをイメージしながら読むそうな。そういう読み方があるとは想像したこともなかった。

 早稲田奉仕園日本キリスト教会館での写真

早稲田奉仕園日本キリスト教会館にて

 早稲田奉仕園のあと、まだ時間のある9人が高田馬場へ移動し、以前のオフ会でも使った清龍で飲み食い。また「合宿」をやろうという話も出ていた。大瀬探訪+道後温泉といった形でやれたら理想か。できるだろうか。さらに別の居酒屋で二次会。入ってみれば、ここも以前二次会か三次会で飲んだところだった。10時過ぎまでやってお開きに。帰りの電車では、同じ小田急沿線の金田さんと引き続き文学談義。

 ご参加いただいた皆さん、楽しい時間をありがとう。(2004/11/14記す)


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