オフ会レポート

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『洪水はわが魂に及び』読書会

日時:2008年4月26日(土)午後15時〜午後17時

会場:早稲田奉仕園 キリスト教会館11号室

参加者:金田、つる、スヌーピー、いとう、katsumi、yoshimi、ちゃまん、イオ、印南(2次会のみ)、HAL (2次会のみ)

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1973年、大江さんが38歳のときに刊行された長編『洪水はわが魂に及び 』。世間に背を向け核避難所(シェルター)に息子ジンとともに引きこもりつつ、樹木の魂、鯨の魂と交感する大木勇魚が、「自由航海団」を名乗る若者とたちと出会い、相互に影響を与えつつ大きな破局へと進んでいく物語。皆さんの感想をかいつまんで紹介。

・登場人物の切実さが伝わってくるが、背景があまり感じられない。意図的に切り取っているのだろう。「幻(ヴィジョン)」を共有できるかどうかがこの作品に感銘できるかどうかの分かれ目。ジンのイノセンスが美しい。登場人物では「赤面」に好感。

・執筆中に連合赤軍の浅間山荘事件が起き、当初は「政治集団」として構想されていたグループを「自由航海団」に書きなおすことになった。これは大江さんが書いたあるべき姿としての浅間山荘事件ではないだろうか。

・「鯨の魂」とはなんなのか。よき存在、平和的な存在ということ以外に、滅びゆく存在の象徴か。浅間山荘事件と重なるような内容でありながら、非常に魅力的で奇想天外な物語となっている。登場人物に魅力がある。

・80年代に鯨の存在が精神世界や環境問題の文脈でクローズアップされたが、「鯨の魂」はそれを先取りするものではないか。

・いまの社会の風潮と合致するところがあり、いま読んでも古さを感じない。集団心理から広がる暴力的なものがいまの日本にもあり、それがこの作品でも表現されている。

・ジンと伊奈子の関係が美しい。伊奈子は『罪と罰』のソーニャのよう。

・ジンを残して死んでいくというところは、ドストエフスキの墓碑に刻まれている「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし」という聖書の言葉どおり。

・樹木の表現が美しい。

・大江文学の他の作品と共通するモチーフが多数出てくる。体を朱色に塗る、車を盗む、人物名の省略のしかた、祈り=集中、etc。

・多麻吉がかっこいい。

・多麻吉は、政治集団のなかで過激なほうへと集団を進めていく存在を象徴しているのではないか。

・「茹でたスパゲティをバターで炒めて粉チーズ(クラフトチーズ)をかけたもの」はけっこうおいしい。

・発行当時、高校生のとき読んだが、時代がよく表現されており非常に共感を覚えた。

・「自由航海団」は、政治的信条をもたない、出入り自由といった集団であり、連合赤軍とは逆の存在なのだが、いま読みなおすとカルト集団にしか見えない。

・小説のまとめとして「すべてよし!」は美しい言葉。

・これが一番好きな作品。冗長さがなく展開もいい。映画で観てみたい。

・まったく登場人物に共感はできないが、面白い。

・共感できなくても、刺激となるさまざまな要素が盛り込まれていれば面白い。

・戦闘は、『同時代ゲーム』などと比べると単調に感じる。

・著者と思われる自分が登場しないこと、三人称であること、など後の作品群と比べると、特徴的。

・「怪」は物語上必要なかったのではないか。

・「怪」の存在は十分に消化しきれていないが、『ピンチランナー調書』の「転換」につながるモチーフになっている。

・単行本の付録によると、1700枚の原稿を半分に削ったとのこと。人物の背景が切り捨てられているのは、演劇的方法として意図したものとも。

・前作『みずから我が涙をぬぐいたまう日』などと比べると、文体が読みやすくなっており、エラボレーションの典型といえる。

・文体がとても魅力的。1文1文に詰め込まれている独創が比類ない。

ちなみに、この日は、有志で進めている映像作品のクランクインでもあり、読書会の前にその撮影を行った。当初は早稲田奉仕園の中庭を使う予定だったが、スコットホールで結婚式が行われていたのと、天候が悪かったのとで、予定を変更し、読書会会場の11号室で撮影。これもなかなか面白かった。

読書会のあとは、高田馬場のタイ料理店バンコクにて飲み会。ここでHALさん、印南さん、合流。連合赤軍、政治、沖縄集団自決、女性解放とブラ!などさまざまな話題で意見交換。

早稲田奉仕園にて1

早稲田奉仕園にて2

(2008/4/27記す)


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