特集 06 10月1日号


財務諸表から探る京大の懐事情

 京都大学では〇四年度から、大学の財務状態を広く開示する目的で財務諸表を公開している。財務諸表とは企業や組織の資産状況や運営状況を記した書類で、京都大学に関わる人間にとって有益な情報が多く詰まっている。しかしながら、財務諸表は特殊な形式を持つ書類であり、簿記や会計学などの知識が全くない状態では、その内容を正確に理解するのは難しいという問題もある。
そこで、今回は京都大学財務戦略分析課へのインタビューと財務諸表の簡単な分析を通して、京都大学の財務状況を紐解いてみたい。

◆分析の前に
 ここからは、京都大学の〇五年度の財務諸表を簡単に分析しながら、京都大学の財務状態について考察したい。
 分析を始める前に、まず財務諸表についての基本的な知識を確認しておきたい。財務諸表とは、企業や組織が外部の利害関係者に対して自身の財務状態や経営状況を知らせるために公開する書類のことで、貸借対照表や損益計算書・キャッシュフロー計算書などがある。ここでは特に重要な貸借対照表と損益計算書に対象を絞って分析する。
 貸借対照表(図1)とは、組織の資産状況を表す書類である。貸借対照表の右側には資金の調達源泉が、左側には資金の用途が記載されている。例えば、右側に負債が千億円、左側に現金五百億・土地五百億と記載されているなら、千億円を借り入れて土地を五百億円分購入し、残りは現金として保有しているということである。ちなみに、調達源泉は負債と資本に分かれ、負債は返済しなければならない資金であるのに対し、資本は返済する必要がない資金である。
 損益計算書(図2)とは、組織のある年度の収支を表す書類である。右側に収益が記載され、左側に費用が記載される。収益から費用の差額がプラスなら利益として、マイナスなら損失が記載される。
 以下では、京都大学の〇五年度の財務状況を分析するが、分析は一般論のレベルに留め、良い・悪いといった評価はできる限り省いた。財務状態をどう評価するかは個々人の立場によって変わってくるし、また一元的に良い・悪いと言い切れるものでもないからである。
 京都大学の財務状態をどう考えどう評価するかは、財務諸表やその他の情報を総合して、個々人で判断していただきたいと思う。その過程で、以下で行う分析が役立てば幸いである。

◆貸借対照表の分析
 まず全体的な分析を行ってみると、資産は〇四年度に比べて八十二億円増加している一方、負債は五十八億円減少しているのが目を惹く。資産の増加の要因としては、図書の増加や改修などによる建物の資産価値の増加などがあり、研究に必要なインフラの整備が行なわれたことを表しているのではないかと考えられる。負債がかさむと利子の支払いが増えるので、負債の減少したことで利子による費用の圧迫は軽減されただろう。
 次に、個々の項目について見てみる。資産項目の中で、最も額面が大きいのが土地と建物で全体の七十五パーセント程度を占めている。従って、京都大学の資産が有効に活用されているかどうかを見る際には、土地や建物が効率的に利用されているかどうかということが一つの指標になるだろう。
 その他に目を惹く項目としては現金及び預金だろうか。この項目は〇四年度よりも六十八億円程度増加している。これは外部からの寄付があった影響で、増加分のうち40億円は任天堂山内氏の寄付金である。
 有価証券という項目があるが、これは主に国債のことである。法人化以後、国立大学も有価証券を購入して資産をマネジメントすることが許可されたが、資産運用はリスクの少ない有価証券に限られるため、国債という形で運用しているようだ。

◆損益計算書の分析
 まず全体を見てみると、収益が費用を上回っており当期総利益が四十三億円発生している。当たり前だが、損失が出て経営状態が圧迫されると研究や教育に対して有用な投資をすることが困難になるので、利益が出ているに越した事はないだろう。しかし、国立大学法人は利益を追求するためにあるわけではなく、余剰な資金は研究や教育に投資していかなければならない。従って損益計算書の分析には、損失が出るのは困るが過剰な利益も望ましくないという難しさが伴うだろう。
 次に個別の項目について考察したい。まず、目に付くのは収益の大部分を占めている運営費交付金だろう。これは国から国立大学法人に交付されるもので、前述のインタビューの中にもあったが、毎年少しずつ削減される項目である。一方で受託研究などから得られる外部資金は〇四年度から二十一億円増加しており、これによって交付金の削減がカバーされている。
 その他の収益項目では、病院収入が収入全体の二十パーセント程度を占めており、京大病院が大きな収入源になっていることが分かる。また授業料収入は収入全体の十パーセント程度であるが、私立大学では授業料など学生から納付される収入が収入全体の七割以上を占めている大学が多く、収入構造の差が現れていると言えよう。
 費用の項目では、教育研究診療等経費と人件費が大半を占めている。人件費は教員などの給与であり、教育研究診療等経費は教育や研究にかかる経費と京大病院の運営にかかった経費などである。


◆財務戦略・分析課 小倉氏インタビュー

――京都大学が財務諸表を公開するまでの経緯をお教えください。

 二〇〇四年の四月に全国の国立大学が法人化されたのは周知のことですが、それに伴い財務諸表の公開が義務化されました。国立大学には財務諸表を開示して、大学の財務状況や運営状況を広く国民に説明する責任があるわけですね。京都大学でも国立大学法人法に基き〇四年度から決算を公開していて、大学のホームページ上でも閲覧できますし、時計台記念館などには財務諸表の冊子も配布しています。公開の時期ですが、国立大学法人法では、文部科学大臣の承認を得なければならないことになっているので、ホームページ等で財務諸表を閲覧できるのは八月下旬から九月上旬ごろになります。

――財務諸表の公開にはどういった意義がありますか。

 財務諸表からどういった情報を得たいかは、財務諸表を見る人の立場によって違うでしょうね。例えば、学生が財務諸表を見る場合には自分達が支払っている授業料がどう使われているのかという点が気になるでしょうし、教員ならば研究費の項目に目が行くかもしれない。そういった様々なポジションにいる人達に必要な情報を提供することが財務諸表公開の意義だと思います。

――京都大学の財務状況の特徴はどこにありますか。

 国立大学ならどこでもそうなんですが、京都大学では収益の大部分が国からの運営交付金でまかなわれていて、〇五年度の収益を見ても約五割を占めています。この運営交付金は毎年少しずつ減らされていくので、それに対応して費用を縮小するか収益を増やすかしなければならないんですが、どちらも難しい。
 ただし法人化以後、受託研究の件数は増えていて受託研究収益も〇四年度から〇五年度では二十一億円増加したという実績もあります。今後も受託研究の件数を増やし、外部資金を獲得することで運営交付金の減少に対応していくことになるでしょう。

――財務の面でこれから京都大学はどういう方向に動いていくべきでしょうか。

 具体的にこうすれば良くなると言い切ることは難しいのですが、まずは京都大学に関わっている人たちに大学の財務状況を理解してもらう必要があると思います。みんなが大学の財務状況を無視して動いていては良くなるものも良くならない。個々人がどうすれば大学の財務状況が良くなるのかを考え、ベクトルを揃えることで財務状況は改善するだろうし、その為の情報共有手段として財務諸表を公開しているとも言えます。

――ありがとうございました。