NEWS 06 11月1日号
十月二三日(月)、午前九時半から文学部新館第三講義室にて、大学当局が提案した吉田寮建て替えに関して副学長団体交渉が開かれたが、時間切れで確約の合意に至らず、今回の建て替え堤案は流れた。十月六日(金)に回答期限十月二三日(月)を提示されて以降、寮内では建て替えの是非をめぐる議論が紛糾したが、最終的に、新寮の条件確約案をもって、団交に臨んだ。
大学当局からは東山副学長のほか、山下学生センター長、寮務担当職員、寮関係を担当する第三小委員会の教員らが出席し、学生側は吉田寮の寮生、関係者、一般学生ら合わせて六〇人ほどが集まった。今回の団体交渉には、東山副学長の理事懇親会出席を理由に、二時間半の時間制限が設けられていた。
吉田寮自治会執行委員の司会進行のもと、寮自治会が東山副学長に提出した確約案の内容について、双方の間で話し合いが行われた。確約案の中では、新寮においても寄宿料を現状維持(月四百円)とすることや、定員を三〇〇名以上確保すること、周辺跡地を学生の自治空間にすることなど、十五項目が要求されている。
二時間半の交渉では、この十五項目すべてに話が及んだが、寄宿料、定員、敷地面積などの項目で意見が合わなかった。それらを保留したまま次の項目に移っていき、最後の項目である建替え後の跡地の利用方法について話し合っているとき制限時刻の一二時を過ぎ、確約は交わされぬまま団体交渉は打ち切りとなった。
この日は当局による建替え提案の回答期限であり、団体交渉の結果を受けて東山副学長は、午後の理事懇談会の場で、予算申請の話を取り下げた。この結果、今年度の中期予算計画による建て替えはなくなった。
吉田寮自治会は、翌週の十月二十九日に寮生総会の場で、今回の団交の総括を行ない、今後の対応を検討していく模様だ。
【十月中の動き】
回答期限を提示された十月六日以降、寮内の議論は紛糾した。自治会は臨時総会を繰り返すとともに、当事者は寮生だけではないとの観点からの寮外生向け説明会及び公開会議を開いた。
また、大学当局に対して、十二日には副学長団体交渉を要求し、十八日には団交に先立つ全学向け説明会を行うことを要求した。これに対する当局の回答は、東山副学長懇談会団交は一時間半のみ。全学向け説明会は開催しない。寮自治会は、当局のこの対応を、大学と学生等当事者との合意形成を軽視するものだと批判した。
十月六日に回答期限二十三日を示したのでは、これら多くの当時者が話し合いに参加するには期間が不十分であったとして、寮自治会は十九日大学側の責任を追及する抗議文を提出した。
【期限の提示以前】
吉田寮自治会配布の資料によれば、今回の大学側からの建て替え提案の経緯をは次のようなものである。
八月、学生センター長から吉田寮自治会に、近く学生関連施設のための予算が獲得できる可能性があるから、そこで新寮建設の予算を申請しないか、という提案がそのための条件とともに二度にわたってあった。
この時点で提示された条件は、寄宿料月一万五千円(現在は四百円)、入寮面接に職員が立ち会う(現在は寮自治会が決定)、などで、これは、これまで吉田寮と当局の間で交わされた合意とかけ離れたものであり、また夏休み中で寮生が少なく新寮建設に合意するという重大な意志決定は不可能と考えたため、寮自治会はこの提案を断った。この際、学生センター長から新寮について継続審議を求
められたが、寮自治会は、継続審議は近い将来の予算申請をにらんだものではなく、長期的な視野にたったものと認識し、了承していた。
その後、九月末に学生センター長と寮務職員が吉田寮に訪れ、上記の予算申請の話がまだ継続し、予算申請の期限を引き延ばしていたこと、及び学生センター長と東山副学長の提示した条件に寮自治会が同意できるのならすぐに申請できる状態で待機していたことの二点を明らかにした。
この段階では回答期限などは明示されず、自治会はそれほどさし迫った議題であるとは認識していなかったが、十月六日、学生センター側から自治会に、回答の期限が十月二十三日である事が告げられた。
寮自治会は以上のように経緯を説明し、大学当局の設定した期限は一方的で非常に厳しいものであったことを強調した。
【認識のずれ】
一方で山下学生センター長と寮務担当職員は、期間は決して短くなかったはずだと話す。
両氏の説明によれば、学生センターは八月の段階ですでに、寄宿料四三〇〇円〜四七〇〇円、定員二〇〇名程度、周辺跡地の学寮以外の利用の他、自治会による入退寮者の決定などの項目も示していた。その後、遅くとも九月の九日までには、理事懇談会の場で建て替え案が議題になっているということを伝えて、寮内での検討を促したと話す。
その後も自治会とやりとりを重ねてきていて、十月六日から回答期限を考えるべきではないと強調した。最後に、「団交でもっと時間があれば、きっと合意してくれたと今でも信じている」とコメントした。
NEWS 06 10月16日号
九月十四日、京都大学医学研究科社会疫学分野に、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の協力組織「共同センター」が世界で初めて発足した。国連は、世界規模で感染が拡大しつつあるエイズ対策を進めるため、共同センターを指定している。
正式名称「社会疫学的HIV研究に関する国連合同エイズ計画共同センター」は、先月開設され、センター長には京都大学医学研究科社会疫学分野、木原雅子助教授が就任した。
木原助教授らは、疫学に社会学やマーケティングの手法を取り入れた社会疫学という新たな方法論により、これまで国内で膨大な行動疫学調査を行い、若者のHIV予防研究で成果を挙げてきた。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、木原助教授らの実績を評価し、共同センターとして九月一日付で指定した。同センターは九月十四日医学研究科医学教授会で承認発足。アジアや日本を中心にエイズ予防研究、対策に取り組む。
UNAIDSは、地球規模のエイズ対策を指導する国連組織で、世界二十二カ国の代表、関連国連組織、患者・感染者団体を含む五つのNGOで構成する。共同センターはUNAIDSが特に重要とみなす分野の活動を協力、推進する。過去に世界四十四カ所で設置されたが、地域に欧米への偏りがあることや、成果が不十分であることから、〇二年全ての指定が取り消される。〇三年条件を見直し、〇四年から新たに指定が始まった。新たな設置要件のもとでは、設置基準を明確にした上での詳細な事前レビューを行い、設置後は定期的な報告義務を課し、三年ごとに指定を見直すといった改善がなされた。京大の指定は新体制になってから世界で最初のもの。
UNAIDSによれば、世界のHIV感染者は〇五年末時点で三千八百六十万人。うち東アジア地域は六十八万人だが、〇三年からの増加率は二十一%と世界で二番目に高く、爆発的な流行が懸念される。
共同センターでは、すでに日本や中国の若者、イランの薬物使用者について疫学的調査を始めているほか、予防プログラムの開発、国際研修による人材育成、情報発信を進める。また、来年にも東アジア各国の専門家との間でネットワークを立ち上げ、京都で二年に一回国際シンポジウムを開く。「予防対策はそれぞれの国の社会、文化に則したものでなければ効果が望めない。国際研修でも参加者が母語で理解できるよう考慮する」と話すセンター長の木原助教授は、欧米主体で進められてきたHIV対策を見直し、地域に対応した多様なアプローチを模索する重要性を訴える。
今後は京大につづき、米英中などで計五カ所が指定されるという。なお、UNAIDSから共同センターに活動資金が支給されることは基本的にないが、特に重要と認められた活動には資金援助が行われる。
NEWS 006 10月1日号
今年度より、全学共通科目の「成績評価についての異議申し立て制度」が始まった。成績表の交付以前に、KULASIS上で採点結果を確認する期間が新たに設けられ、その期間中に確認した採点結果に疑義が持ち上がった場合、学生は、KULASISの採点確認画面に掲載されている「成績評価に関する異議申立書」をメールで送信するか、あるいは共通教育教務掛窓口に直接提出し異議を訴える事になる。
「成績評価についての異議申し立て制度」が新たに導入された背景には、「卒業判定」を巡る大きな問題があった。卒業判定を行う教授会は、成績表の交付以前に開かれる事が多い。
そのため、卒業を控えた学生が成績表の交付後に異議を訴え、実際に成績変更が行われた場合、それを踏まえた卒業判定をもう一度行うために教授会が再度招集される事となり、付随する事務的なコストもかさんでいた。
同制度導入後、学生は成績表が交付される数週間前にはKULASIS上で自分の採点結果を確認する事が可能となり、卒業判定が下される以前に異議を訴える事も出来るようになった。また、大学当局側としても、スムーズに卒業判定を行う事が出来、何度も教授会を開く無駄を省く事が出来るようになった。
この様な内発的な理由に加え、「認証評価制度」の設置という外部要因も、同制度の導入を後押しした。制度下では、文部科学大臣の認証を受けた認証評価機関による評価を、国公私の全ての大学は定期的に受けねばならない。大学の教育研究水準の向上を目指して一昨年から実施された。
京都大学は来年、大学全体の組織体としての状況を見る「機関別評価」を受ける予定。評価項目の中には、成績評価や単位認定に関するものもあり、その対策も兼ねて、今回の同制度導入となった。評価の結果、改善命令が下った場合、国から必要な資金が下りなくなる事態も考えられるため、大学も対策には余念がない。
学生側のメリットとしては、教員に対して異議を訴える労力が多分に軽減された点が挙げられる。これまでは、教員の研究室に直接出向いて異議を訴えるより他なかったが、同制度導入後は、メールを送信するだけでよくなった。わざわざ教員を探し出す必要も、自分より強い立場にある教員と直接掛け合う必要もない。以前は泣き寝入りしていた学生も、今後は躊躇する事なく異議を訴える事が可能になった。
また、「非常勤講師」に対しても、確実に異議を訴える事が出来るようになった。常勤講師と違い、非常勤講師は、そもそも会う事すら学生にとっては難しい。中には、前期、あるいは後期のみにしか授業を行わない教員や、次の年から契約の切れる教員もおり、学生が個別に対応するのは極めて困難だった。
しかし今後は、同制度を媒介して、非常勤講師のもとにも確実に学生の異議が届けられるようになる。「学生と教員がそれぞれ個別に対応していたものが、きちんと制度化される。この事が何よりも意義深い」と、高等教育研究開発推進機構、共通教育推進課課長の岡田和男氏は語る。
ただ、学生にとっては朗報ばかりではない。同制度の導入により、「四回生への救済措置」が全面廃止される事も決まった。ある程度の成績を修めていれば、四回生に限って履修登録を怠っていた者にも単位を認めるというのが「四回生への救済措置」。内定の決まった四回生や後の無い多浪生からの訴えを聞き入れる形でこれまで非公式に適用されて来ていたが、真面目に授業に出ている学生からのクレームも少なくなかった。そこで今回、この様な不透明さ、不平等さを解消する目的もあって、同制度が導入される運びとなり、同措置は完全に廃止されるに至った。
今後の課題は、採点結果の公表を、迅速かつ長期にわたり行うことにある。初の導入となった前期、採点結果がKULASIS上で公開されたのは、八月二八日から三一日までのわずか四日間だけだった。これでは、せっかくの制度も充分に機能を果たす事が出来ず、実際、学生からも「短か過ぎる」との声が多数上がった。
この制度の導入とは別に、後期からは新たに、教員がKULASISに採点結果を直接入力するシステムが導入される事となった。従来は、教員が提出した採点結果を職員がデータベース化していたが、今回の新システム導入により、作業にかかる時間が大幅に短縮される。
その結果、前期は四日間しかなかった公表期間も、後期には一週間程度に拡充される見通しだ。また、この新システムの導入により、そもそも学生が異議を訴え出なければならなくなる大きな要因の一つとなっていた「教員による成績結果の誤記入転記ミス」についても、件数の大幅な減少が見込まれている。
だが、全ての問題がこれで解決される訳ではない。そもそも同制度は、「教員が期日までに採点を済ませる」事を大前提としている。勿論、大多数の教員はこの期日を守っている。しかし、中にはこの期日を守らない教員もいる。その数実に約五十名。前期に開講された全学共通科目の授業数一〇三二と比べても、決して少なくない数字である。
「電話やメールでいくら督促してもなかなか提出してくれないのです。未採点の科目が一つでもあれば、制度への信頼は大きく揺らいでしまう」と岡田氏は噴る。教員が責任を持って義務を果たす事が、制度を良くして行く上での必須条件といえる。(博)
NEWS 06 9月16日号
入試選抜要綱発表
京都大学の二○○七年度学部入試要綱が発表された。一部を除く全ての学科で後期試験が廃止されたほか、教育学部では理系にも門戸が開かれる。
教育学部は今年度まで定員六十名全員を文系から募集してきたが、来年度より、うち十名を理系の枠として設ける。入試は現在の総合人間学部と同様、文系・理系に分けて行われる。
【後期試験のゆくえ】
京都大学は約二十年間にわたり学部入試を前期・後期に分割して行なってきたが、来年度入試より、医学部保健学科を除く全ての学部・学科で前記試験に一本化する。
理由の一つには、後期試験が実質的に前期試験の敗者復活戦と化してしまい、前期と異なる切り口で多様な人材を募集するという従来の趣旨が達成しづらくなってきたことがある。また理念の不達成に加え、入試業務を行なう労力面でも「後期実施の労力に見合うだけの生徒が入ってこない」(教授)という事情がある。
京都大学の後期が原則的に廃止されたことによって、「(有力な併願先である)大阪大学後期の難度上昇が予想される」(予備校関係者)という。また京都大学の発表をうけてか、東京大学も後期定員を大幅に縮小してゆく方針であり、廃止に近い状況となる。東大・京大など難関大学の前期重視により、逆に後期定員を拡大する国立大学も出始めており、結果的に一昔前の「一期校・二期校」に近い体制が復活する可能性がある。
伊藤清名誉教授がガウス賞を受賞
2006年8月22日からマドリードで行われた国際数学者会議(ICM)で、数学者で京都大学名誉教授の伊藤清博士が第1回ガウス賞を受賞した。ガウス賞は、数学界にとどまらず他分野にまで多大な影響を与える業績を残した数学者を顕彰するもので、国際数学連合とドイツ数学者連合によって新設された。今回の受賞は、確率微分方程式論をはじめとする博士の確率解析における業績と、それらが物理学、工学、生物学、経済学の諸分野の発展に果たした貢献が評価された。博士は1952年から79年まで京都大学で教鞭を執り、その後プリンストン高等研究所研究員、オールフス大学、コーネル大学教授を経た後、76年から79年まで京都大学数理解析研究所長を務めた。内閣統計局に勤務していた1942年、確率積分の概念を基礎から構築し、確率微分方程式論を創始した。
確率微分方程式は、ブラウン運動のような偶然性に支配される運動の連続的な軌跡を記述する運動方程式であり、通常の運動方程式にランダムな力を表す項が加わったような形になっている。この項に対して確率積分がなされ、その計算の際に不可欠な公式が「伊藤の公式」である。この理論により、確率解析は飛躍的な発展を遂げた。また、多くの研究者によって数学以外の分野にも応用されていった。現在、確率解析は集団遺伝学や確率制御理論など偶然性をともなう現象の解析において広く応用されている。なかでも最もっとももよく用いられるのが、数理ファイナンスの分野だ。市場価格が変動するさまを記述し,ランダムな市場の動きに対して,リスクの少ない方法を考えるのが数理ファイナンスの重要な目的だが、そのために確率解析は不可欠なものになっている。実際、金融の現場で「伊藤の公式」はよく知られている。もっとも、博士自身は、純粋数学として確率解析の研究をしていたようだ。健康上の都合により欠席したICMの開会セレモニーにも「私の確率解析の研究は純粋数学においてのものであり、だからこそ数学の応用に対して与えられるガウス賞に選ばれたことは本当に驚きであり、また心から喜ばしくおもいます。」と英語のコメントを寄せている。
NEWS 06 8月1日号
成宮教授、学士院賞を受賞
東京・上野の日本学士院会館で七月三日、日本学士院第九十六回授賞式が行なわれた。京都大学からは、成宮周医学研究科教授が日本学士院賞と恩賜賞を受賞した。
今回の受賞の対象となったのは、「プロスタグランジン受容体の研究」。プロスタグランジンは体内で合成される生体機能の調節を行う物質であり、炎症や生殖、発ガンなど様々な作用がある。この研究は、この物質がどのようにして様々な働きを発揮するのか、その作用機構を明らかにした。プロスタグランジンに関する成宮教授の一連の研究は、基礎医学、臨床医学のいずれにも大きな影響を及ぼすものだという。
また、五月十二日には、東京・港区のドイツ大使公邸でドイツ連邦共和国功労勲章の伝達式が行なわれ、法学研究科の高山佳奈子教授が功労十字小綬章を受賞した。高山教授は二年間ドイツへ留学しており、昨年は「日本におけるドイツ年」行事の一環としてドイツ・ヴィアドリナ欧州大学教授らと共に法学研究集会を開いた。日本とドイツの刑事法分野での学術交流における貢献が評価された。
高山教授は勲章を受け取った後答礼を行い、「私はまだそれほど長く学術交流の活動を続けてきたわけではありません。今回の受章は、日独の学術交流において将来頑張ってくださいね、という趣旨だと思います。そのように期待をかけていただいたことに深く感謝すると同時に重い責任をも感じています。私のような女性の若手研究者がこのような章をいただけることが、もっと若い方々の励みになればと思います」と述べた。
京都大学農学研究科主催の「No Border Agric. 第三回 京都大学農学研究科シンポジウム 多様性の中の統一を目指して」が七月二十七日(木)、農学部総合館一階W-100講義室で行われた。会場では、農学部や他学部の教授、学生などが席を埋め、演者の発表に耳を傾けた。
専攻、学科、部局の垣根を越えて積極的に大学の研究を内外にアピールしていきたいという主旨で始まった、京都大学農学研究科シンポジウムは今回で第三回になる。このシンポジウムは農学研究科に所属する教授が、自分の研究の大まかな内容を壇上で一人ずつ
発表していくというもの。発表後には質疑応答の時間がある。
一つ目は農学研究科・応用生命科学専攻の加納健司教授による「生物資源から電気エネルギーを取り出す−次世代バイオ電池への夢―」だ。近年はエネルギーの利用による環境問題、二酸化炭素の問題が指摘されて久しい。クリーンなエネルギーの供給システムは、今日人間社会における重要課題の一つである。白金触媒を用いた燃料電池は、一つの成果だが、現実には多くの問題も浮上している。
白金に替わる新たな次世代の触媒形、電池系として期待されるものの一つがバイオ電池だ。生物は必要なエネルギーすべてを酸化還元反応によって作り出している。バイオ電池とは生物の代謝、呼吸過程における酸化還元反応から、電気エネルギーを得るというもの。例えば、ヒトの場合一日におよそ糖600グラム分の2000キロカロリーを消費するが、このエネルギーを出力に換算すると100ワットになる。バイオ電池は、環境への負担が少ない上、生物がエネルギー源とするすべての物質を燃料にすることができ、触媒としての酵素あるいは微生物は無限にあるなど、多くの利点がある。しかし、現状では、出力が低いこと、酵素が安定しないこと、酵素の構築が難しいなど問題点も少なくない。加納教授は現在、バイオ電池のための酵素系に重点をおいて研究している。
もしバイオ電池が実現できれば、材料として炭素しか必要ないため、とてつもなく軽い電
池になり、必要な時に内部の液体を交換すれば、何度でも利用可能だという。また、様々なサイズの電池を作り出すことができ、家庭用の電子機器以外に、体内に埋め込んでの利用も考えられる。
他にも食品生物科学専攻、安達修二教授による「ホットな水―亜臨界水と食品加工―」、現在は生命科学研究科、統合生命科学専攻の佐藤文彦教授による「植物のもつ多様な有用物質生産機能とその高度利用 植物は、グリーンファクトリーになりうるか?―グリーンケミストリーの展望―」の発表があった。前者は、加圧することにより100度から374℃の範囲で液体状態を保った水である、亜臨界水を食品加工に利用するための基礎研究について、後者は、遺伝子の分子生物学的解析や分析技術を用いて、医薬品、色素、香料などに利用可能な植物から抽出される低分子化合物の生産性を向上させる研究の成果についての内容。
タイトルにもあるように、いわゆる学際的な目的のシンポジウムだが、発表されるテーマはいずれも興味深いものであり、これから進路を決める学生にとっても刺激になる内容だろう。シンポジウムは今回で終わりではなく、次回は十月に行われる。
NEWS 06 7月1日号
平成十八年度科学技術振興調整費に、京都大学から「女性研究者の包括的支援『京都大学モデル』」が採択された。七月一日の事業発足後に京都大学女性研究者支援センターを設立し、三年間に渡って「交流・啓発・広報」「相談・指導」「育児・介護支援」「柔軟な就労形態による支援」の四事業を行っていく。
「女性研究者の包括的支援『京都大学モデル』」は、科学技術振興調整費の「女性研究者支援育成モデル」のひとつとして採択された。優れた女性研究者が最大限の能力を発揮できるようにするために、研究と出産・育児等を両立するための支援を行う仕組みを構築するモデルとなる取り組みを支援するものだ。採択されたモデルの実施には総額約十五億円を経費として支給する。「女性研究者支援育成モデル」には全国から三十六件の応募があり、東京女子医科大学や熊本大学などから十件が採択された。
京都大学モデルは「卓越した女性研究者を京都大学から輩出する環境を整える」ことを目標としている。その基盤となる京都大学女性研究者支援センターは尾池和夫総長に統括される組織であり、いくつかの委員会と支援室を置いて女性研究者支援を行う。女性研究者に向けた事業としては、病院と連携した患児保育施設の設置や、育児休暇中における研究実験補助者の雇用などがある。また、中学や高校へ女性研究者による出前授業を行うことで、将来研究者の道を選択する女子学生の増加を目指す。男性に対しては、女性研究者支援に対する理解を深めるための広報活動や意識改革セミナーを行っていく予定だ。また、過去の成功例を参考に相談窓口の充実も重視しているという。
このモデルの最大の特徴は、地域連携にある。研究担当理事の松本副学長は「学童保育や送迎システムは地域との連携なしには十分に機能しない」と話す。京都市長と京都府副知事は京都大学モデルに自治体として協力することを表明した。患児保育施設の設置のため、宇治キャンパスでは宇治病院の協力も得ている。
京都大学の研究者における女性比率は平成十七年度で六.六%と、全国の大学の中でも二番目に低い数値である。京都大学モデルの実施期間終了時には十%、事業を継続した場合十年後には二十%を達成目標としている。一方、内閣府の「第3期科学技術基本計画」(平成十八〜二十二年度)では自然科学系の女性研究者比率を二十五%まで引き上げるという目標が設定された。そのために女性の採用に数値目標を設定し、公正な選考の上積極的に採用することを求めている。なお、京都大学モデルでは、採用は実績に基づくという考えから採用に女性枠を設けるという方法は採っていない。
京都大学は七月一日付けで、キャリア・サポートセンター長に「毎日コミュニケーションズ」前海外事業本部事業部長の鱸淳一氏(五〇)、財務戦略・分析課長に松下電池工業前常任監査役の西野肇氏(六〇)を採用した。京都大学が民間から課長相当職に採用するのは初めて。
キャリア・サポートセンターは今年四月に厚生課から独立したが、センター長は空席になっていた。三月に公募を行い、三十九名の応募者から書類選考と面接で鱸氏が選ばれた。鱸氏は就職情報サービスを提供する「毎日コミュニケーションズ」に昭和五十六年に入社し、就職情報誌の編集長などを務めた。人事担当の木谷副学長は「就職問題の分野のベテラン。本人は、(学生の就職問題についての)京都大学モデルと言うべきものを創りたいと抱負を述べている」と話す。
財務部財務戦略・分析課長は資金運営、管理など財務戦略の企画及び財務状況の調査・分析を行う。大学の法人化に伴い、財務システムに企業の方法を取り入れることや、財務について中長期的戦略を立てることが必要になったため、民間の経営に長いキャリアのある西野氏が選考採用された。西野氏は昭和五十四年に松下電器工業に入社し、平成十六年からは子会社の松下電池工業の常任監査役を務めていた。
京都大学では法人化後、学内では適材が得られにくいと考えられたポストについては地方自治体や独立行政法人などからの採用を進めてきた。過去には京都市、科学技術振興機構などからの採用の例がある。外部からの人材採用で職員の意識改革や人材育成を進め、最終的には学内でポストにふさわしい人材を育成することを目指す。
NEWS 06 5月1日号
三月末日に改修工事が完了した吉田キャンパス本部構内北西門。この改修工事を巡っては大学側と学生との間で長期にわたって対立があり、昨年は石垣を残そうとする学生たちが開いた石垣カフェの盛況が注目を集めた。北西門改善計画は、深夜にまで及ぶ三度の説明会を経てようやく合意をみた。両者の意見を反映して、石垣を大部分保存して歩行者専用道路を設置することが決定されたのである。
現在、歩行者専用道路となっているはずの北西門の「小道」では、自転車の通行が後を絶たない。大学側は自転車通行禁止の張り紙を掲示しており、授業の前後には警備員が通行する自転車に対して注意する姿が見られるが、「小道」から自転車が減る様子はない。 学生との折衝の間、大学が主張し続けた歩車分離。このまま有名無実になってしまうのだろうか。
京都大学大学院医学研究科の篠原美都助手・篠原隆司教授らの研究チームがマウスの精巣から採取した精子幹細胞を用いて、特定の遺伝子が破壊されたノックアウトマウスの作成を成功させた。
今回の研究は、意図的に遺伝子を改変させる方法である遺伝子標的組換えを用い、精子幹細胞のオクルジン遺伝子を破壊することに成功したもの。これまで、遺伝子標的組換えは胚性期由来の幹細胞である、胚性幹細胞(ES細胞)に限られていたが、今回の研究で胚幹細胞以外の組織幹細胞でも遺伝子標的組換えができることが分かった。
篠原教授らは新生児マウスの精巣から取り出した精子幹細胞のオクルジン遺伝子を破壊した。そしてその幹細胞を再度精巣に戻し、雌と交配させて生まれた個体同士をさらに交配させた結果、孫の世代でオクルジン遺伝子が欠損した個体が生まれた。尚、オクルジン遺伝子は細胞同士の接着に関係する遺伝子で、この遺伝子が欠損した個体は慢性胃炎になる。 精子幹細胞など組織の幹細胞は非常に数が少なく、従って実験体を得るのが非常に困難であった。しかし、二〇〇三年に篠原教授らのグループは精子幹細胞の長期培養方法の開発に成功しており、培養による大量の実験体の確保が今回の研究を可能にした。 組織幹細胞においても、ウイルスによるランダムな遺伝子導入はこれまでも行なわれてきた。しかし、この方法では標的である遺伝子を改変できる確率が低く、またこの方法を用いたマウスが癌になるケースが多かったため、遺伝子標的組換えの導入が望まれていた。
組織幹細胞、特に精子幹細胞の遺伝子標的組換えが可能になったことで、新規のノックアウト動物の作成が可能になった。これまで胚性幹細胞の遺伝子標的組換えは可能であったが、マウス以外の胚性幹細胞は生殖細胞になる能力が無いため、マウス以外のノックアウト動物の作成は難しかった。しかし、多くの動物の精子幹細胞は似たような性質を持っている為、今回の研究と同様の手法を用いて、マウス以外でもノックアウト動物の作成ができると期待される。
篠原教授らは、今後はラットで同様の実験をしていきたいと語った。尚、この研究成果は米国科学誌「PNAS」の四月二十四日の週の電子版に掲載されている。
幹細胞…血液や精巣などの組織に存在する、無限に増殖する能力を備えた細胞。各組織の維持に重要な役割を果たす。その強い再生力の為、再生医療の中心となっている。
培養される精子幹細胞の様子
NEWS 06 4月16日号
京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー内に居を構える、学内ベンチャー企業「ROBO GARAGE(ロボ・ガレージ)」から、新型ロボットが発表された。発表されたロボットは細身の二足歩行型ロボット「FT」。
製作者の高橋智隆氏(ROBO GARAGE代表)によれば、このロボットのテーマは「女性」。ロボット名の「FT」も‘Female
Type’の頭文字から来ている。女性の身体的特徴を反映したボディシルエットを持つだけでなく、プロの女性ファッションモデルの指導の下に、本物のファッションモデルのようなしなやかで優美な歩行も可能にした。この新型ロボットの最大の特徴は、細身であることと重心が高いことである。従来の二足歩行ロボットは、技術的な問題の為、重心が低く、がっしりとしたデザインにならざるを得なかった。そこで「FT」では、傾きを感知する機能を持つジャイロセンサーを搭載し、バランスを補正するプログラムを導入することによって機体の安定性を確保、細身のボディと高い重心を実現した。身長三十センチに対し体重八百グラムと、軽量であることも特徴的だ。細身で高い重心という要件が実現されたことによって、「FT」は非常に人間に近いフォルムになっている。長い手足や六頭身というデザインであることに加え、腕の反り具合やエックス脚といった細かい外見的特徴まで取り込んでいる。
「FT」の商品化は未定であるが、ロボット専門のイベントプロダクション「ロボプロ」を通して様々なイベントに出演する予定。また、NTTdocomoが提供している情報サービス、i-modeを通じて「FT」の動画を配信するなど、コンテンツ化も予定されている。
高橋代表は「FTは非常に美しいロボット。ロボットのメッセンジャーとして活躍させ、皆さんにロボットに親しんでもらいたい」と話した。
二足歩行型ロボット「FT」
戦前調査の遺物を整理、報告書を刊行 京都大学人文科学研究所は、戦前、雲岡(うんこう)石窟(中国山西省大同市)にて行った調査のうち、日本に持ち帰り、約六十年間未発表のまま同研究所に保管してあった遺物を整理し、その成果を『雲岡石窟』遺物編として一冊にまとめ、刊行した。
雲岡石窟における調査は、一九三八年から四四年にかけて、同研究所の前身である東方文化研究所の水野清一・長廣敏夫両氏が実施し、調査結果はすでに『雲岡石窟』十六巻三十二冊としてまとめられていた。 しかし、この段階では遺物については詳しく触れられず、もっぱら美術品を中心とした報告となっていた。このため二〇〇二年より、岡村秀典教授(人文科学研究所、中国考古学)や大学院生らの研究グループが約千点にのぼる遺物の整理作業に着手していた。 「傳祚無窮(でんそむきゅう)」という同じ型の瓦の磨耗度やひびの広がりぐあいから年代を三段階に分け、さらに四八一年から四八四年にかけての造営だと文献より判明していた約二十五キロ北方の方山永固(ほうざんえいこ)陵から出土した瓦と照合することなどにより、寺院が四七〇年前後、四八〇年代、四九〇年代と三期に分けて造営されたことがわかった。これまでは、特に第九洞・第十洞の年代について争いがあり、主に美術史的な観点から四七〇年代であるとされていたが、これがはっきり四八〇年代後半であると結論づけられた。
また、今回の整理作業により、場所が特定されていなかった雲岡石窟の造営者・曇曜(どんよう)の仏典翻訳の場であった僧院が、第三洞の上にある東部台上寺院址(じいんし)にあったということや、遼・金の時代にあった雲岡十寺のひとつである「通楽寺」が雲岡石窟最大の大仏がある第二十洞前にあったことなども明らかになった。第三期(四九〇年代)のものと思われる絢爛な彩色を施した中国最古の瑠璃(緑釉:りょくゆう)瓦も初めて見つかり、この時期には非常に壮麗な寺院が建てられていたことも推定される。
これまでの研究は、ほとんど建物の内部に焦点を当てたものだったが、今回の整理調査により、石窟の景観まで明らかになった。雲岡石窟については、岡村教授ら研究グループが今後も数年間現地で調査をすることになっている。
『雲岡石窟』遺物編は、定価8400円で販売。B5判、184ページ。問い合わせは朋友書店
Tel:075-761-1285
NEWS 06 4月1日号
京都大学は新年度四月一日付けで事務組織を再編した。新たな組織として「センター」を設置するほか、課長・センター長以下の業務はグループで行い、合理化を図る。
学生部の業務もこれにより再編されることから、二月に学生有志が学生部業務の維持などを大学当局に求め、学生部再編に関する説明会が行われた。
今回の再編は法人化後に大学が推進している事務改革の一環で、三月二十二日部局長会議で了承された。昨年十一月には事務本部が総務・人事などの「経営企画本部」と学生部・研究推進部などの「教育研究推進本部」に二分した。事務組織の単位は再編により従来の十部二十六課から十一部二十三課、十一のセンターが加わる。
新設するセンターは教員組織は持たず、人事や給与、競争的資金など各部局の一部の業務を専門化・独立させた形。〇一年設置で学生部内にあったキャリアサポートセンターも含め、再編後の事務センターは十一となる。 手続きの簡素化を目的として課長補佐と係長の役職は廃止し、課長級以下にはグループを設け、各課・センター内の業務にはグループ長を中心としてそれぞれのグループがあたる。また、組織改編で部局から一定数の職員を減員し、他部局への再配置を行う。全学で年に約十五人が部局の規程に応じて再配置される。各研究科では、生命科学研究科の事務部を理学研究科から独立して設置するほか、医学研究科や附属病院など業務が拡大した部局に事務員を重点配置する。
アスベストが見つかり、昨年九月二十六日から使用が停止されていた総合体育館の飛散性アスベスト除去工事が終了し、体育館は三月十六日使用が再開された。
体育館の使用を再開したことについて、京都大学は、除去工事後国の定めた基準に従って二度の空気環境測定を行い、使用を再開しても問題はないと判断した、と説明している。体育館内のシャワールームも近日中に使用可能になるという。安全と判断された体育館では、三月二十四日の卒業式等の行事やサークル活動が行われている。
繊維状の鉱物であるアスベストは工事前、体育館内の空気中一リットルあたり〇・五〜二・八本測定されたていたが、工事後は一リットルあたり〇・二本未満であり、これは外気のアスベスト濃度とほとんど変わらない。
なお、アスベスト問題に関して学生や教職員の問い合わせに対応するため、京都大学は引き続き相談窓口を開いている。
NEWS 06 3月1日号
大学の業務を装いパソコンなどを発注して、不正に売却し着服していたとして、京大は一月三十日、学生部厚生課の掛長(四五)を同日付で懲戒解雇処分にしたと発表した。
京大によると掛長は昨年五月〜十月、ノートパソコン十九台とプリンター一台(計三百七十八万円相当)を京都市内の二業者に口頭や電話で発注。市内の中古パソコン店に持ち込み、換金して着服した。昨年の十月中旬、業者からの入金の問い合わせで不正が発覚。その後、本人が代金分を業者に全額支払ったため、大学は刑事告訴をしない方針だ。本人は「住宅ローンの支払いで金が必要だった」と事実関係を認めているという。
大学は上司の厚生課長を訓告処分に、学生部長を厳重注意処分にした。
「石垣★カフェ」で一躍注目を浴びた百万遍石垣改修工事は一月に着工した。完成予定は三月末日。〇四年秋に大学が改修を発表して以来、立て看板を用いた広告スペースの消失や景観の破壊などを訴えた学生と大学当局が長期に渡り協議した結果、計画最終案には学生の提案がもりこまれた。(写真:構内から百万遍を望む)
工事中の北西門