G20誌vol.6
「あるTVディレクターのつぶやき」

えーと、これは「パンドラ」#22&25でお友達になった大塚ギチさんのつてで書かせていただいた原稿です。内容は、限りなくノンフィクションに近いフィクションです。

日、CSスカイパーフェクTV!・フジテレビ721で放映された「地球防衛放送パンドラ」という番組で、「ガンダム特集」が組まれたのをご存じの読者は、多分ほとんど居ないだろう。アニメライターの氷川竜介氏、模型文化ライターのあさのまさひこ氏、そして本誌立ち上げメンバーの一人である大塚ギチ氏の3人の大放談をご覧になれなかった皆さまのために、本日は後日談という形でその内容を少しだけ紹介してみたい。

※登場人物
I・・・「パンドラ」プロデューサー。35歳独身。
N・・・「パンドラ」ディレクター。31歳既婚・一児の父。

(某日・午前5時 某ファミレスにて)
I あー歳とると徹夜の編集作業がこたえるなぁ。
N それにしても、この番組よくもってますねぇ。もうすぐ1周年ですか。
I 作業的にはもう1年以上やってるけどね。
N でも最初の頃は非道いもん作ってましたよねぇ。以前#1(第一回)から順に見ようとしたけど、気絶しそうになってやめましたよ。
I んーそう?そんなに非道かった?
N #1の一番最初のコーナーからして、なんか暗ーい朗読の声に動物園でテキトーに撮った映像乗っけて、延々15分くらい流してたじゃないですか。
I 懐かしいなぁ。そんなのやってたなぁ(遠い目)。
N あんたがやったんですよ、あんたが。
I 元々この「パンドラ」ってオタク専用チャンネルを立ち上げる布石として、実績作りとシミュレーションとスポンサー探しを兼ねて始めたんだけどさ、一番最初にわかったのは、映像業界にオタクな感覚を肌で理解できるディレクターって案外少ないってことなんだよね。やっぱり変に「こだわり」があり過ぎるとスポイルされちゃうのかね。
N だから僕みたいなどこぞの馬の骨がデイレクターですっつって突然入ってきても平気だったわけっスね。
I 馬の骨なんて、作家先生に対してそんな失礼な。
N だーその言い方やめれー!本書いたからって作家じゃないってば!(怒)
I でも書いてない人は作家じゃないでしょ?
N でもやめて下さい。それにしても「オタク向け」を標榜してるくせに20回以上番組作っていながら、アニメを取り上げたことがなかったっつーのもすごい話ですよねぇ。
I アニメは鬼門だもん。下手にコケたときのダメージは他のジャンルの比じゃないし。でもこないだ君がやった例の「ガンダム」特集、評判いいみたいよ。CX(フジテレビ)のプロデューサーも喜んでたし。
N あ、そうっスか。「ガンダム」にはウスいから最初は気乗りしなかったんスけどね。私ゃ一介の押井守原理主義者に過ぎませんから。
I でも俺よりは詳しいじゃん。俺、生まれて初めてまともに見たアニメって「エヴァンゲリオン」だもん。
N じゃあ、なんで「ガンダム特集やりましょう」なんて安請け合いしてくるのよ(怒)?
I いーじゃん。20周年だし。
N そーゆーことだきゃ知ってんだよなぁ。
I でも最初が「ガンダム」で良かったんじゃない?結果論かもしれないけど。最近の作品はいろんな意味で取扱注意だし、かといって昔の作品だとじじいの昔話に終っちゃう可能性大だからね。その点「ガンダム」というくくりだったら今の話も昔の話もできるじゃん。俺、今100%思い付きでしゃべってます(笑)。
N いや当たってますよ。ファーストの時にすでに評論とかやっていた氷川さんの世代もいれば、アムロと一緒に歳とってきた直撃世代もいる、「Z」以降に入ってきた若い世代もいる、と。でその人たちが「ガンダム」という一つの言葉で、実は別々の「何か」を想起しているんじゃないかと思ったんですよね、最初。
I なるほどね。だから企画名が「ガンダム世代論」だったと。
N そもそも、今誰かが言った「ガンダム」っていう言葉が指しているものは何なのか?みたいなこともあって。それはRX-78というMSのことなのか、ファーストガンダムという作品を指しているのか、「ガンダム」という名を持つアニメ作品の総称なのか、それとも「アニメ的なロボット」の比喩として言っているのか、それはその時々で全然違うわけで・・・この辺は大塚さんの受け売りなんスけど(笑)。
I でもいざフタを開けてみたら、その人が「ガンダム」という作品に何を見ているかとか、きちんと自分の審美眼を持って見ているかとか、そういう個人のスキルの違いによるギャップであって、実は世代間のギャップではなかったという(笑)。
N はっはっは、まあいいじゃないですか。結局はガンダムの話というよりオタク的状況論になっちゃったんスけど、僕的には自分の中のテーマ性っつーか、この番組と関わっていく上で何を考えてやっていけばいいかというベクトルみたいなのがはっきりわかったんで、意味のある回でしたね。
I よかったじゃん。
N 僕的には、ですよ。それより、こういう読解力が必要な話を見ている人間がちゃんと理解しているのかが・・・。同じ回の美術の中村光毅さんのインタビューみたいに偏差値の高いことやってても、誰も理解してないんじゃなんかむなしいっス。
I ほとんど理解してないだろうね。でも思うんだけど、多分俺達が今作ってるものって、今までのいわゆる「TV番組」とは違う「何か」なんだよ。漠然とチャンネル回していてたまたま見ました、みたいな地上波の客と違って、CSの視聴者って「私はこれが見たいから金を払って見ています」というかなり能動的な視聴者なんだろうし。とすれば当然、ソフトの在り方だって変わってくるでしょ?
N なるほどね。あと、一次的な「作品」に対する二次的メディアって、今までほとんどが出版物だったと思うんですけど、そこに映像による二次的メディアを作ろうとしていることも「何か」の構成要素の一部分だと思いますね。だからきっと、CSって見る人間にスキルを要求してもいい・・・しなくちゃいけないんでしょうね。むしろスキルを要求するだけのものを作れるかどうかという、製作者側の問題かも。
I 偏差値は上げてあっていいんだよ、きっと。今はわからなくても、わかろうとする努力をするやつもいるかもしらんし。「これを理解できる奴がカッコイイ」というヒエラルキーができるとこまでいければすごいけどね。
N でも「やつら」はそんなしち面倒臭いことからは逃げまくってるのが現実でしょ?マルチ萌え萌え〜とか言って閉じこもって。
I あ、ごめん。おれ結構「To Heart」って好きなの(笑)。
N メモラーでマルチ萌えでしたか(苦笑)。そんなヒマあったら「ガンダム」でも見て下さいよ。シャア専用MSが赤いことも知らなかったくせに。
I 俺あーゆー「あと一週間でいなくなっちゃう学園もの」に弱いのよ。
N いや「To Heart」でもホントはいいんですよ。問題は作品そのものを見ているか、見ていないかであって、そこに自分なりの解釈とか価値観の提示が出来るんなら、その素材は何でもいいはずですから。
I じゃあ次は「To Heart特集」やって。
N 僕はやりません。
I ちっ。ま、無理強いはやめとこう。君はもう好き勝手にやらして放置プレイにしといた方がいいやって、上層部の意見も一致したことだし、よろしくね#25以降も。
N やなこったですよ。60分番組を一カ月間で、しかもたった一人で演出すんのがどんだけ大変かわかってます?それでなくても毎日帰りが遅くて妻から勘当されかかってるのに。
I 妻子持ちはつらいのう。でも迷わずいけよ、いけばわかるさ。
N いつから猪木になったんですか。
I ということで、「地球防衛放送パンドラ」スカイパーフェクTV!のフジテレビ721にて毎週月曜日他に放送中です。みんな見てね。あとスポンサーも募集中でーす。
N だからあんたは誰に向かってしゃべっとるんじゃっちゅーの(怒)。あ、早く帰って保育園に子供を送ってこなくちゃ。
I ・・・(涙)。
・・・CONTINUED.
(文/野田真外 初出・株式会社アスキー『G20』vol.6)

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