ModelGraphix誌2000年11月号
再び「前略 あさのまさひこ様」

5月号に引き続き、MG誌から御依頼をいただきました。わし別にそんなにガレージキット業界に明るいわけじゃないんだけどね。ま、いいか。今年はたまたま取材に入っていたからなんとなく状況もわかっていたし。今度の冬のWFはとりあえずお休みみたいですが、いったいどうなることやら。

  先日もまた取材に御協力いただきましてありがとうございました。ところで私はWSCの取材をする前に、WSCってなんなんだろう・・・とよく考えます。そりゃ勿論、私も番組を見る人間に「これはこういうものです」という解釈を提示するわけですから当然っちゃ当然なんスけど。で、そのことを考える上で、00年冬のWFで選考過程に同行取材して、今回選出された臼井さんとNagiyさんに声をかける所に遭遇出来たのは、非常に幸運でした。

 スクルド命(笑)のNagiyさんに「スクルドはイマイチ、他の方がイイ」と一刀両断にしたあさのさんのあの一言こそは、WSCの本質を突いている気がします。評価を受ける作家側からすると貶されているようでいて、実は一番「うれしい」リアクションだったのではないでしょうか。「アメとムチ」ではないですが、全面的に褒め讚えるよりも、ずっと本気で信憑性に溢れた評価だったように思います。
 その場面を私は「なんつー身も蓋もない乱暴な言い方するおっちゃんやねん」と思って見ていましたが、後でビデオを見てみると、言われたほうがちっとも嫌な顔をしていないのです(当たり前か)。その後に訪れた臼井さんのブースでも、中心に飾られていた1/8キャミィなどは「駄目」で、未塗装の春麗や未完成の1/4キャミイを「こっちはイイ。すごくイイ」と大絶賛していた時でも、そのニュアンスは一貫していたように思います。イイものはイイ、悪いものは悪い。飾り付けやキャラ人気は関係なし。とにかくインスピレーション。そういえば、ここで選ばれる作家自体が粗削りで発展途上な「未完成品」であることは、WSCのコンセプトに既に謳っていることですから、「褒めたり貶したり」位の方が確かに理に適っていますよね。

 WFの多数を占めるアマチュアディーラーにとっては金銭的な儲けよりもむしろ、自分の表現活動を通じたコミュニケーション、つまりより多くの見知らぬ人から受ける評価による精神的な充足の方が大事なのだと思います。ところがここが問題で、ウケるために自分が本来作りたいものから外れたり、客からの評価が充分得られぬままモチベーションを失ってGK製作そのものを辞めてしまうと言った不幸なケースが起こることも考えられます。
 光るものを持っていながらそれに気づいていない作家、あるいはそれを自らねじ曲げてしまっている作家に真直ぐ伸びることのできる「居場所」を与えてあげられるのは、独自の審美眼に基づいた誠実な評価しかありません。そして現状それができるのはごく一部の人間に限られています。そんな審美眼を持った受け手の養成も、WSCの重要な目標の一つだと思います。表現とは受け手があって成立するものですから、WSCの目的が「審美眼を持った受け手の養成」であっても不思議はありません。ところがこのことは、ほとんどアナウンスされていないのが個人的には気になるのですが、どうお考えでしょうか?

 聞けば商品の売り上げが急激に伸びているそうですが、そのことをどうお考えですか?単にWSCが参加者に受け入れられるようになったということなのかもしれませんが、だとしても購入者が「自分の審美眼」で購入しているのかどうかは定かではありません。一方で自分の審美眼で買ったのでなくてもいい、という考え方もあります。元々この試み自体が「解釈」と「商品」のパッケージ化であると考えるなら、それを買った人たちが商品とあさのさんの「審美眼」をセットで理解できるようになれば目的は達成されたことになるのですから。そこらへんを確認するためにアンケートを同封するなどリアクションを得る試みというのも、WSCには有効なのではないかと考えます。御一考いただければ幸いです。

 そろそろ鍋のおいしい季節であるにもかかわらず御多忙のようですが、くれぐれも御自愛のほどを。それでは。 野田真外拝
(文/野田真外 初出・株式会社大日本絵画『ModelGraphix』2000年11月号)

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