バンコク・ドンムアン空港困惑記





 8月の22日から9月1日まで、ブータンに行った。詳しくは旅行記に譲るが、無事にすべての日程を終了し、トランジットで宿泊したタイでアユタヤ観光もし、あとはホントにホントに帰国するだけという状態で、オチとなるべき事態が発生した。まさか“困惑記”がシリーズ化するとは思ってみなかったが、31日のうちに帰国できるはずだったのに、帰国が1日遅れたその顛末を、旅行記に先駆けて書いてみよう。

 1年半ぶり2度目のノースウェスト002便に乗るべく、午前3時15分に起床した。モーニング・コールはその15分前だったのだが、まったく覚えていない。前夜の深酒が祟ったのか、朝食もまるで食べようという気にならず、なんとか紅茶1杯だけ流し込む。まあ、お腹が空いたところで空港内のケンタッキーに行けばよいのだ。機内食もあるしとタカをくくっていた。

 4時5分にバンコク・ドンムアン空港着。こんなムチャな時間だから、空港はそこそこ空いている。もっとも、ノースウェストのカウンターは大混雑だ。難なくX線検査は通過し、チェック・イン。みなさんは大量のお土産のせいか、スーツケースの重量オーバーが相次ぐ。もっとも、団体だからか超過料金は請求されなかった。僕は行きとほとんど重さ変わらず16.4kg、なかなかの数字だ。と、ひとり妙な満足をしているところで、添乗員さんが一言。「1時間20分の遅延がでてま〜す」。

 6:10発の予定が7:30発に変更で1時間20分の遅延・・・それだけよけいに眠れたらと恨みがましいことが頭を掠めるが、まあ1時間20分ならね。ゆっくりお茶でも飲んで、免税店を冷やかして、ついでに空港内を探検する時間ができたとでも思えばいいか。チェックイン・カウンターの前にいてもしかたがないので、さっさと出国審査を済ます。うっかりタイ人用カウンターに並んでしまったが、とっても空いていたせいか、審査してくれた。

 4時半に出国審査をすますと、もうやることはない。ベースキャンプを張って、みんなちりぢりになる。買い物する人あり、一服する人あり、寝る人あり。セカセカ行動する必要もないので、僕は免税店をあちこち冷やかして、タイのタバコを1カートン買った。タイの文字がふんだんに書かれていて、しかも異常に安い(150バーツ=450円。これが1カートンの値段である)。それを買ってしまうと本格的にやることがないので、友人と念願のケンタッキーに行った。僕はいちばん安いハンバーガー1コとホットコーヒー。サイズは普通なのに、コーヒーに砂糖が2つもついてきた。タイ人は本当に甘いものが好きなんだなあ。アイスコーヒーを頼んだ友人は、あまりの甘さに顔をしかめている。甘ったるいコーヒー好きの僕にとっても甘いと感じるアイスコーヒー(最初からガムシロップが入っている。そんじょそこらのコーヒー牛乳よりも甘い)、コーヒーはブラック派の友人にとって堪えきれなかったらしい。彼は1cmくらい飲んで、残してしまった。

 これで完全にやることがなくなった。余ったタイ・バーツはすべて両替したし、小銭は募金。あとはベース・キャンプ付近でダラダラするしかない。時間はまだ6時だ。搭乗が7時開始というから、あと1時間!

 ふと見ると、ベース・キャンプの目の前に、出発案内のモニターがある。僕はこの案内を見るのがけっこう好きなのだ。今日もいろんなところに飛行機が飛ぶんだな。関空行き、シェムレアップ行き、ドーハ行きなどだ。僕達の乗るNW002便は成田経由ロス行き、出発時刻は定刻6:10で、変更されて・・・14時!?

 それまで落ち着いて僕たちと談笑をしていた添乗員さんの血相が、ここで初めて変わった。ノースウェストの職員に確認してきます、と駆け出す。買い出しに出ていたみんなが徐々に戻ってくるが、さすがに8時間遅延の情報にはビックリだ。いつの間に情報が変わったのかわからないが、とにかくこれは寒い。僕の知識では、こういう時には代替便が飛ぶか、他社に振替か、ホテルをとってもらって一時待機か?いずれにせよ、空港内でひたすら待つのはカンベンだ。添乗員さんが戻ってくるのをとりあえず待つ。息を切らせて添乗員さんが戻ってきた。「機材故障です!22時以前には飛びません!」なんという展開だ・・・

 ベースキャンプにいても仕方ないので、とりあえずノースウェストの職員がいる出発ゲートへ。どーしても今日中に帰らなければならない人を確認し、職員と交渉だ。僕たちは離れたところでことの成りゆきを見守る。早々と交渉を終えた人だろうか、一足早くターミナルに戻る人もいる。どっかのホテルで待機ってことになったのかな?職員は僕たちも誘導しようとする。添乗員さんがいま交渉中で、と英語で言っても誘導しようとする。通じてないのかなあ?今さらながら自分の英語力の無さを認識する。そんな中、ドンムアン空港に到着したどこかの飛行機が、僕たちがもめているゲートにやってきた。「直っちゃいました!」とか言って、今いるゲートにノースウェスト機がやってくる可能性は、これでなくなったのである。

 添乗員さんが戻ってきた。「今日の成田行きはどの航空会社もすべて満席、ファーストクラスもダメでした」とのこと。僕は翌日の予定がないからどうだっていいのだが、予定のある人はたまったものではない。だが、どうにもならないのも事実だ。機材故障の場合は、現地で部品を調達するのではなく、自社で部品を調達して現地へ運び、それから直すのだそうな。悠長な話だとは思うが、とりあえずノースウェストが用意したホテルに向かうことにする。

 出国審査場を逆戻りという、モノスゴイ展開だ。普通に出国審査を受けている人と逆に歩くのだから、どうも視線が痛い。そんな出国審査場の片隅は、ノースウェスト難民で大混雑!もっとも、B747-400満席という人数が逆流しているのだから、混雑も当然か。そんな逆流は、やっぱりファースト・クラス優先で手続きが行われている。

 やっと自分の番となった。以前に同じような展開を経験した人の話によると、パスポートの出国スタンプにバツがつけられて、返却されるそうな。しかし、予想外の「パスポート預かり」という展開に!パスポートに出国スタンプを押された後だから、僕はそのとき「タイ出国後、日本入国前」という状態である。それにダメを押すかのようにパスポート没収・・・本当に難民化してきた。

 7:30、ホテル行きのバスはすでに待っていた。遅延時間を小出しにし、そのスキにホテルをおさえていたのでは?と勘ぐりたくなるような手際のよさである。肝心のホテルはラマ・ガーデン・ホテル、なんと3時間半前に別れを告げたホテルである。様子はわかっているし、なによりメシがうまいからいいか。

 ホテルに戻ると、ロビーの電気が消えていた。ほとんどの客がチェック・アウトまたは出かけた後なのだろう。空港にほど近いホテルだが、こんなものなのか?添乗員さんの機転で早々とチェック・インを終え、部屋に荷物を置く。すでにベッド・メイキングは終わり、バスルームにはキチンとタオルまで用意されている。シャワー浴びるな、などという展開にはならなかったが、冷蔵庫はロックされていて使えない。喉が乾いたらどーすんだ?そう思いながら、まずは朝食。あいかわらずどれもウマいが、前夜に「タイ料理よさようなら!」という勢いで食べてしまったので、食欲はあまりない。国際電話代がノースウェストの計らいで3分無料と聞き、部屋に戻ってさっそくかけてみる。電話に出たのは珍しく祖母だった。なんと、両親がドライブがてら僕を迎えに成田に行ってしまったという!なんで確認しないで出かけるんだよ!成田で途方に暮れる両親の姿が頭をよぎったが、僕の電池が切れた。昼食まで寝る。

 3時間も寝たのに、まだ眠さが残る。あまり腹は減っていないがとりあえず昼食に行くと、いままで見なかったラーメンのような料理があった。ソーメンのような細めん、うどんのような中細めん、きしめん以上の極太めんの3種類のどれかを選ぶと、サっと湯煎して具(香草や肉団子など)を盛りつけ、スープをはってくれるのである。量は少ないからスープ感覚でスルスル食べられる。香草の匂いがそろそろ鼻につくようになってきていたが、鶏ガラベースのスープはなかなかだ。チャーハンなどの普通の料理を少なめにし、そのラーメン風スープを2杯食べた。細めんはいいが、極太めんはちょっと食べづらい。

 午後、もうちょっと寝ようかと思った途端、団長の先生から酒を飲みに来ないか、とのお誘いがあった。おみやげ用に免税店で買ったドライ・ジンがあるよとおっしゃる。先生の部屋に顔を出すと、どこから手に入れたか、ダイエット・コーラまであった。ジンのコーラ割りだ。それにしても見事なアルコール度数、疲れも相まって回る回る・・・

 16時過ぎに、部屋に紙が差し込まれた。見ると、ノースウェストからのメッセージだ。点呼が19時、バス出発が20時と書いてある。やっぱ離陸は22時なんだなあ。これで今後の展開が把握できたので、この情報を誰かに連絡(バカ電話)してやろうと思った。ムダ使いのような気もするが、ノースウェストからお詫びのしるしみたいなモノとして「国際電話プリペイドカード25ユニット分」を頂戴している。25ユニットという単位がよく分からないが、3分くらいは話せるそうな。さっそく公衆電話をいじってみるが、イマイチ使い方が分からない。“FREE CALL”という表示は出るのだが・・・こうなったら意地でも電話したくなり、ついつい200バーツのテレフォンカードを購入してしまった。こうして、札幌のTsの笑いを取ることに成功する。

 18時に夕食。誰もビールを頼もうと言わないのが印象的だ。さすがに疲労の色は濃くなっているし、僕だってあまり食欲がない。もっとも、食事の間隔が短いから、腹が減らないだけだろう。そう思って、またもや食事は少なめ。でも、果物は多めに食べた。タイ滞在中に何度もパイナップルを食べたが、何度食べてもうまい。それと、腹をこわすこと覚悟で生野菜!生水で洗っているかもしれないので危険というのは知っていたが、もうあと半日で帰国だから、そう思うとなんだかどーでもよくなった。やっぱ野菜を取らねばとモリモリ食べるが、果物にくらべると生野菜はそんなにおいしくない。煮るなり炒めるなり、火を通しているほうがおいしいから不思議だ。

 食事が終わると、そろそろ出発の準備である。と言っても、スーツケースは返してもらっていないから、手荷物だけだ。もちろん荷づくりなんてすぐに終わるので、とりあえずシャワーを浴びることにした。シャワーを浴びれば浴びるほど、眠さが体中からしみでてくる。ゆったりとした時間を過ごしたはずなのに、やはり疲れるんだなあ。もっとも、31日午後に自宅に到着することを前提に行動していたから、すでに電池切れなのかもしれない。

 ホテルからドンムアン空港に戻ったのは、20時10分だった。X線もなければ、出国審査もないというあっけない展開、パスポートを返してもらって一安心だ。問題は、ノースウェストのカウンターは第2ターミナルなのに、搭乗口が第1ターミナルとなっていること。いくらつながった建物とはいえ、くじけそうになる距離をエンエンと歩く。

 またしてもタバコ1カートンを150バーツで購入し、出発に備える。もう大丈夫だ。飛行機はそこに駐機しているし、職員の表情もふつうだ。添乗員さんが確認したところ、故障箇所はタイヤで、なんとタイヤが回らなくなったそうな。よく着陸できたモノだと思うが、まあいいや。

 こうして、飛行機は22:07に離陸した。機内では「本日は油圧系統の故障により、お客さまに大変な御迷惑を・・・」などと放送がある。油圧?タイヤ?壊れたのはどっちだ?それにしても、予定飛行時間5時間58分ってなんだよ・・・

 成田に到着したのは日本時間9月1日6:21、予定より16時間遅れてのことだった。

2000/09/06

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