車に乗って

 

 去年、このエッセイに『船に乗って』『飛行機に乗って』というエッセイを書いた。海と空ときて、残ったのが陸である。陸に思い入れはないんかい!と言われてしまうと、どうしてもオタク鉄道少年OBとしては、ここで“列車に乗って”などと銘打ったエッセイを書きたいのだが、それは旅行記にイヤというほど顛末が書いてあるので、ここでは(今さら)扱いたくない。で、車のことにしようと考えてみたら、車関係のことはF1しか書いてないのである。こいつは好都合♪という個人的事情はさておき、今回は車の話。

 F1観戦記を書いていることから、僕は車好きであることがお分かりいただけると思う。確かに、けっこう好きである。でも、特に何か思い入れがあるかと聞かれると、思い当たるフシがない。だって、小さいころは車にまったく興味がなかった。親父にドライブに連れていけとせがむことはなかったし、第一、そこらへんを走っている車の外見が、すべて同じに見えたのだ。電車みたいにカラフルってこともないし、細かなパーツの違いを見分けられるほど、僕は興味を持っていなかった。だから、車に興味を持った友人たちの気持ちがまるで理解できなかった覚えがある。走ってきた車を「あっ、ポルシェだ」などと見分けられる人がいると、すげエ人だと思ったはずだ。当時の我が家には、今乗っている車の先々代があった(たしか平成2年まで)のだが、緑色の車だったことしか覚えていない。ホンダのアコードだったと思うんだけど・・・?

 こんな状態のままでF1を見るようになったのだから、我ながら何をやっていたのかな、と思う。なんせ、ウチにあった車はAT車だったため、クラッチは何のためについているのか、それを知らずにF1を見ていたのである。もちろん、モノコックもサスペンションもギアボックスも意味不明。デフューザーとかエキゾーストパイプとか言われてしまうと、もうどうにもならない。それでも欠かさず見るようになってしまったのだから、世の中どう転ぶか分からないものである。

 と、車関係の思い出話になりかけたところで、強引に方向を修正する。僕が免許をとった後の話である。

 僕は、仲間内では比較的早く免許をとったほうである。大学1年の夏休み中だった。車の運転なんてそんなに難しいこととは思わなかったが、それでもなんだか“すっげーオトナ”な気がしてオーイエーだった。当然のようにせっせと運転に(1人で)勤しみ、せっせとあちこちをコスったのである。要するに、「運転は好きだけどヘタ」という最悪のパターンだったわけだ。しかし、習うより慣れろだと(勝手に)思い、懲りずに運転をしまくったのである。

 免許をとって6年以上が過ぎ、すでに免許がゴールドになった(注・物損や人身事故がなくコスってばかりだったので、減点対象となることは見つかってやっていない)現在も、相変わらず運転熱は冷めない。例えば、なにかのときに運転手役をかってでると、だいたい疲れただろうすまんねえと言われてしまうけれど、僕は運転が苦にならないので、そう言われるのは恐縮の極みなのである。本人が勝手に楽しめることをして、それで気を使われてしまうのだから、申し訳ないくらいだ。こっちこそ、運転させてくれてありがとうと言いたいくらいなのだ。

 ところが寒い冬が終わり、窓を開けて走るのが大変に心地よいこの時期が、大変に運転に不向きかつ憂鬱な時期になってしまった。“花粉”の存在である。この冬は、ちょいちょい房総半島を走り回ることがあったのだが、花粉が飛ぶ時期になったらもうダメである。終了である。勘弁である。どーして花粉症などになってしまったのかと思うのだが、とにかくダメなものはダメということで、ドライブに出ようという気がほとんどしない。御近所をぐるぐるっと廻って、それでいいかなという気になってしまう。明け方まで走るなんてもってのほかだ。

 それでもやっぱり運転は好きなのだろう。どこかに行きたい(現実逃避でない)という願望はあるし、とりあえず車のイグニッションを回して、と思ってしまう。そんなにしょっちゅう遊んでるわけにはいかないので、せっかく出かけるときにはドーンと走りたいのだ。さあ、今度はどこを走ろうか?

2001/04/02

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