船に乗って

 僕の旅行記だけを見ると、僕は単なる鉄道好きのオタク野郎のようである。確かに間違ってはいないのだが、実は鉄道のみが好きなわけではない。僕は乗り物ならあらかた好きなのだ。車でドライブするのもよし、飛行機で一気に飛んで(マイルを貯める=めったに乗らないから、まるで貯まらない)もよし。いろんな乗り物で、その乗り物ならではの楽しみ方をし、その乗り物から見た風景が好きだ。その中でも、今回は船の話。

 旅行記に登場する札幌在住のTsが、このゴールデン・ウィークに帰省してきた。彼も僕と同じく鉄道を中心とする乗り物好きなのだが、帰省するときは愛車で出発し、苫小牧からフェリーというのがいつもの交通手段である。大洗なり、東京フェリー・ターミナルなりまで来ればいいのにとは思うのだが、彼は船とドライブもけっこう好きで、今回は秋田に上陸し、青森まで北上してから国道4号を南下するという、ダイナミックな帰省をした。ドライブ好きの僕としては、そんなこってりドライブがうらやましいのだが、それよりも実は“船”のほうがうらやましいのである。

 僕は、長距離フェリーに乗ったことがない。思い出してみると、小学生の時に大島まで乗っているのだが(大島航路では長距離とは言えまいが)、なぜかまるで覚えていない。大島でやたらとアシタバを栽培していたのは覚えているのだが、船のことになると、乗ったのは1等だったか2等だったか、寝台だったか大部屋でゴロ寝だったかも覚えていないのだ。船に乗ったことを覚えている時といったら、隅田川下りの水上バスだったり、横浜港内遊覧船だったりで、ちっちゃな船でのミニ船旅ばかりだ。だから、僕にとって船の旅行はまるで経験がないようなものなのである。だから、長距離フェリーに風呂があると聞いたときには、かなり驚いた。国際航路ならまだしも、国内の長距離フェリーにも風呂?僕の好奇心が動いた。

 とは言っても、長距離フェリーでどこかに行く計画はない。なんせ、数日にわたってウチの車を独占するのは無理な話だし、単身船に乗り込んだとしても、さあ、どうしよう?第一、思い立ってすぐに乗るような交通機関ではないではないか。どう考えたって、インターネットで長距離フェリー事情を見てみるだけで、ガマンせざるをえないのだ。苫小牧行き、あるいは日向行き、那智勝浦までだっていい。世界1周とは言わないから、船に車を積んで出航したい。最近、妙にそう思っている。

 こんな僕の欲求を手軽に済ませてくれるフェリーがある。最近乗る機会が多くて気に入ったのだが、神奈川県の久里浜と千葉県の金谷を結ぶ、“東京湾フェリー”である。予約はいらないし、ちょっとした日帰りドライブのついでに乗れる船だ。乗船時間はわずかに35分、実は横浜港内遊覧船どころか、隅田川水上バスよりも乗船時間が短い。航海速力13ノットの2000トン級という妙に小回りが効く船が、金谷港で接岸する前にターンする姿は、ディズニーランドの線路つき船のようではあるのだが、まごうことなき船である。車を船の中に収め、待つことしばし。出港さえすれば、船は見事なほどスルスルと東京湾を滑るように進む(当たり前だ)。それで満足できるのだから、僕という人間は安上がりなのだが・・・

 それにしても、今さらながら青函連絡船に乗れなかったのが痛い。

2000/05/07

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