ヤマの残照(比叡山編)

 みなさんの田舎はどこだろう?僕は、友人から「田舎に行った」という話を聞くと、実はうらやましくてしかたない。なんせ、僕の父の田舎は現在住んでいるこの家、母の実家は横浜市南区井戸ヶ谷というところで、電車で1時間でついてしまう。こんなに近くては、なんか田舎という気はしない。おまけに、祖母の実家となると江東区亀戸、自転車で行けてしまう。こうして、帰省シーズンにニュースで「故郷に帰る家族連れで、駅や高速道路は朝から混雑」ってのを聞くと、うらやましくてしかたないのだ。

 そんな僕が、強引に「故郷」と設定した場所が2つある。その1つである「比叡山」の話。

 もちろん、比叡山はわれらが天台宗の総本山である。場所は、京都駅からだと北東に15kmくらいで、京都府と滋賀県の県境になっている。まめ知識だけど、延暦寺一帯は滋賀県側にあるので、延暦寺の住所は「滋賀県大津市坂本本町」となっている。そんな延暦寺に行くには、京都駅からバス(1日2本=休日は5本)か、三条京阪からバス(毎日6本)か、滋賀県側の坂本からケーブル(30分ごと)がラクだけど、行きづらいことには変わりない。まあ、観光はできるけど基本は修行道場であるのだから、これでいいのかも。そんな場所を「故郷」と考えているのである。

 なんといっても、行くと落ちつくのだ。多くの観光客はその日のうちに帰ってしまうから経験できないけど、夕方の日が落ちる直前に、谷底からゆっくりと霧が上ってくる光景や、雨上がりの杉の木に夕日があたって光っている瞬間、早朝のキリっとした冷え込み、そこから日が上ってきてお堂の屋根を照らした瞬間など、僕が好きな光景は限りない。これらは、どれも観光客には申し訳ないけれど、きっと観光客には見ることができない。時間の制約が最大の問題だけど、観光客が多く、有名な建物が多い東塔地区では、どうもそういった光景に出会えないのだ。やはり、寺は(基本的に)しーんとしてたほうがいい。雑踏は、寺には似合わないのではないか、と思う。だからだろうか、東塔地区には僕の好きな場所が少ない。

 あとは、地面が鋪装されているのがダメなのかも。やっぱり、土がないと人間は生きていけないような気がするのだ。確かに、未舗装だと雨ですぐにぐちゃぐちゃになるし、泥ははねちゃうし、なんせ比叡山は湿気だらけ、地面はまったく乾かない。でも、舗装部分が多い東塔地区よりも、僕が好きな場所は西塔地区や横川地区の方が多い。そっちは、みんな未舗装だ。未舗装の道・霧・夕日という3点セットに、僕はどうも魅力を感じているようである。

 そんな僕の、延暦寺オススメ絶景ポイントを御紹介します。延暦寺にお越しの際は、ぜひお立ち寄り下さいませ。
 ・根本中堂から文殊楼への階段のまん中やや上からみた、根本中堂。
   →よくポスターでも使われるポイント。根本中堂から徒歩1分。
 ・阿弥陀堂前の階段から、阿弥陀堂を見上げる。
   →坂と階段をひたすら上ると阿弥陀堂が見えてくる。根本中堂から徒歩5分。
 ・浄土院の前の石段から、浄土院を見下ろす。
   →長くて降りづらい階段の先の静まり返ったところにある浄土院が印象的。根本中堂から徒歩15分(西塔駐車場から徒歩10分)。
 ・にない堂から釈迦堂へ降りる石段から、釈迦堂を見下ろす。
   →西塔地区の中心のお堂を見おろせる。西塔駐車場から徒歩5分。
 ・玉体杉から見られる、京都と滋賀の町並み。
   →峰道にある玉体杉からは、京都・滋賀どちらも見える。西塔駐車場から、徒歩1時間強(横川駐車場から、徒歩1時間弱)。
 ・横川のメインストリート(?)から、横川中堂を見上げる。真っ赤なお堂が印象的。
   →横川駐車場から、徒歩3分。
 ・行者道へむかう防災道路から見下ろす、滋賀県側の町並み。
   →横川駐車場から、徒歩1時間。
 最後の1つ以外は、観光マップなんかを参照していただければ、けっこう簡単に行けます。

 これからも比叡山には何度もお世話になるけれど、僕の好きな場所に行くということは、あまりあるまい。でも、そこがいい。そんなにしょちゅう行けないからこそ、よけいに「故郷」としての魅力も感じているのである。

 次の“帰省”が、なんとなく待ち遠しい。

1999/09/13

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