井原西鶴『世間胸算用―大晦日は一日千金―』より

「鼠の文づかひ」(巻一の四)概説



 当時、ショッピングをしても基本的にはツケ、支払いは月末であり、ここで踏み倒せば翌月末まで支払わなくてもよい、という時代。そのすべての支払いは年末の大晦日が最終期限である。そこで「お金」をテーマに書かれたのがこの作品で、西鶴文学の町人物の最高傑作とされている。

 当時「お金」は流通していたが、まだ物々交換の時代をやっと脱したくらいだった。そんな時代に「お金」をテーマにしたのは西鶴が最初。タブーに挑戦した、と言っても過言ではないのだ。

<『鼠の文づかひ』あらすじ>
 年末の大掃除が一段落した折、老婆(すごくセコイ)が息子(かなりセコイ)から正月にもらったお年玉をなくしたことを嘆いている。老婆は身内を疑い、声を上げて泣く始末。家人が困りながら掃除を進めると、老婆のなくしたお年玉が屋根裏から出てきた。人ではなく鼠の仕業かとみんなは納得したのに、老婆は誰か人間がやったのだと言って聞かない。困り果ててそこで鼠使い(曲芸師)を連れてきた。鼠使いの連れてきた鼠は、鼠使いの言う通りに恋文を届けるという芸を披露、老婆もお年玉がなくなったのは鼠の仕業かも知れない、と考え直す。しかし鼠がお金を隠したのは、そんな鼠がいた家にも責任があると言って、利息を取った上で「本当の正月だ」とさっさと寝てしまった。