求む!たい焼きくん

 

 いきなりだが、国語の問題を出してみたい。高校生に戻ったつもりで、答えてみてほしい。できるかな?

問1・「そんなにもあなたはレモンを待っていた」で始まる詩の、作者は誰か。フルネームで述べよ。
問2・レモンを待っていた人は誰か。フルネームで述べよ。
問3・この詩のタイトルは何か。

 ・・・とまあ、国語ではなく記憶力の問題のような気がするが、「えーと、なんだっけ・・・?レモンをがりりと噛んだ、とかなんとかってやつでしょ?」くらいは覚えているだろうか。ともかく、問1と2の答えが御夫妻であることを思い出せば、芋づる式に答えが出てくるはず。問1の答えは「高村光太郎」で、問2の答えが「高村智恵子」なんだけど、問3が若干難しいかもしれない。タイトルは、そのものズバリ“レモン”ってなわけじゃないからだ。問3の答えは『レモン哀歌』で、ちなみに収録されている詩集が『智恵子抄』と。

 なんでまたこんな問題から入ったのかというと、今回のネタがレモンと高村光太郎だから・・・ではない。ちっとも関係なくて申し訳ないのだが、ここ数日、「そんなにも僕はたい焼きを待っていた」という日々だったからである。そんなわけで、今回はひょんなことから僕が待ち焦がれてしまった「たい焼き」の話。

 たい焼きを食べたくなったきっかけは、5月5日の13時ころのことである。なんでまたそんなに正確に覚えているかといえば、この日の昼めしが問題だったのだ。黄金連休の一日、僕は友人たちとドライブをしていたのである。遠方に住む知人と、彼の家の近所で合流したのがお昼のちょっと前で、じゃあさっそく食事をしちゃおうよ、ということになったのだ。何を食べようか思案していたところで、今回のドライブのホスト(?)たる恥人(!)が、タイ料理なんてどうだろうと言い出したのだ。なかなか食べ慣れない料理、おもしろそうではないか。一行で店に向かった。

 大きなショッピングセンターの中にあったタイ料理屋は、超本格的に見えた。なんせ、店員のほとんどがタイ人なのだ。鍋をふる料理人からウェイターまでみんなそうで、注文伝票も全部タイ語で書かれている!チェーン店だいう話をも聞いたのだが、これだけ気合いの入った店も珍しい・・・と感心していたのも束の間。出てきた料理は、どれもこれも微妙なシロモノだった。僕だってタイ料理を食べた経験がそんなにあるわけではないが、“でもこれはないだろ”という感想である。とにかく辛すぎ、甘すぎ、酸っぱすぎ、香草入れすぎ。なにかにつけて極端で、“日本人好みにアレンジした”というような言い訳は通用しない。ここの店員はタイ料理をバカにしてるのか?なんとか我慢しつつ食べていると、徐々に胃がもたれてくるのがわかるほどで、たったの10分かそこらで完全に“食傷”の症状である。ライスこそ長粒米を使っていて好ましいのに、なんだこりゃ?がそのときの印象だ。

 大変に不満を抱きながら店を出たのだが、まったく胃の中がおさまらない。食べたモノが、どこにいったらいいのか彷徨っているような気がする。天気は絶好の子どもの日、しかもドライブはこれからだ。出発前になんとか“口直し”ができないか・・・?そこで出てきたのが“たい焼き”なのである。そのとき、僕たちがいたのは大きなショッピングセンターだから、たい焼きなんかを見つけるのは容易な雰囲気。ただ、レストラン街にたい焼きはなかった。これは予想の範囲内だったものの、こっちは一刻も早く口直しがしたいので、かなり残念なのも事実。それではと、本腰を入れてたい焼きを探すことにした。

 ・・・ない!どこにもない!!食品売り場の片隅でひっそりと売られていることも、パン屋に置かれていることも、駐車場に面した屋台にも・・・!思い付く限りの売り場をあちこち行ってみたが、どこにもないのだ。たい焼きを買うだけでなんでそんな苦労なんてとは思うのだが、とにかく食べたい一心の為せるわざ。結局、冷凍食品のたい焼きを買うわけにはいかないので、その場はパン屋さんの“あんドーナツ”で妥協することにしたのだが、どうしてもたい焼きへの想いは捨て切れず、その日一日は要所要所でたい焼きを探していたのも事実である。

 それからというもの、僕の心の中をたい焼きが占めてしまった。出かける度にたい焼き屋を探し、お菓子屋さんがあればのぞいてみる。高村智恵子ではないが、ホントに「そんなにも僕はたい焼きを待っていた」のだ。ところが、どこにもたい焼きはない。たい焼き君が泳いでからもう20年、毎日毎日鉄板の上で焼かれてイヤになっちゃって、もう戻ってきてはくれないのだろうか。

 ところでみなさんは、たい焼きを売っている店を何軒ご存じだろう。考えてみると、僕はたい焼きを売っている店に、まったく心当たりがないのだ。たこ焼きやどら焼き、最中にベビーカステラといったモノだったら、いくらでも心当たりがある。でも、「たい焼き」だけはどうしてもダメだ。近所の商店街でも見た覚えがない。下町に分類される地域に26年も住んでいるのに、たい焼き屋の一軒も知らないというこの体たらく!どの和菓子屋にも置いていないたい焼き、いったいどこで手に入るのか?

 それよりも、僕がどうしてもたい焼きを食べたかったというのが、そもそもの疑問である。たい焼きを探している間にも、どら焼き・カステラ・ケーキなど、いわゆる“甘いもの”に分類されるものはちょこちょこ食べる機会があった。でも、何かが違うのだ。たい焼きでないとダメだ、みたいなこだわりとでも言うのだろうか。別のモノで妥協はしたくない。どんなたい焼きでもいい。俺が食いたいのはたい焼きなんだ・・・

 そして運命の5月13日(たい焼きを求めて9日目)の深夜。ドライブ中だった僕は本屋で『グルメぴあ』『散歩の達人』『まっぷるガイド』を立ち読み(買わない)して予習するという姑息な手段に出た。すると、あるではないか、ウチの近所に。近所の割にちょうど僕が普段通らない、死角のようなブロックだ。店さえわかればこっちのもの、明日こそたい焼きを買ってやる!鼻息荒く本屋を出て、イグニッションを回した瞬間、僕は天啓のようにひらめいた。
 「そうだ、PA!高速のPA!!」

 パーキングエリアにつきものといえば、冷凍モノの軽食自動販売機。レンジでチンしたモノが食べられる、アレである。僕のたい焼きにかける執念を満たすためには、もうなんでもよくなっていた。冷凍食品は避けるという初期の大前提を、完全に忘れていたほどだったのだから。でも、もうなんでもいい。たい焼きが食べられればいいんだ。そんなわけで高速を疾走する僕。

 目指すたい焼きを購入したのは、首都高速11号の芝浦PAである。週末にはやんちゃな人々のたまり場となるパーキングだが、月曜日の深夜のパーキングは閑散としていた。そして、念願のたい焼き・・・あった。2コで300円。あったまるまで80秒ほど待てば、もうたい焼きは僕のモノなのである。

 右手にたい焼き、左手にはこれまた自販機で買ったコーヒー。たい焼きの甘さのせいで、ブラックではないコーヒーが、妙に苦く感じた。その瞬間に、僕はたい焼きをめぐる呪縛から、やっと開放されたような気がした。


その翌日。通学途中に、紛うことなきたい焼き屋さんをついに発見!ホカホカでカリっとしたたい焼きが100円(税込)なんて!!これで、しばらくたい焼きのマイ・ブームが続きそうな予感である。

その翌々日と、翌翌々日にも同じ店でたいやきを購入。3日で4匹も賞味してしまった・・・

 

 

2002/05/16

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