ヤマの残照(長湖編)

 僕が自分の田舎だと勝手に思っている場所・その2の話。

 いきなり「長湖」と書かれても、多くの方は混乱すると思う。所在地は長野県小海町松原というところで、釣り好きの人には「松原湖の近く」と言ったほうが、わかりやすいかもしれない。でも、長湖は本当に小さな湖なので、僕の持っているロードマップには、ほとんど見えないくらいのサイズである。

 さらに、まぎれもない事実だけど、「長湖」ってのもネーミングがよすぎるのではないか?と思う。なんせ、水は緑色だし、透明度はないし、釣りも遊泳もできない。くの字形をしているから全体を一目で見ることはできないけれど、大して広いわけでもない。沼とか、池とかでもよさそうなものだ。そんな湖のほとりにある民宿で、僕たちの母校吹奏楽部は毎年夏合宿を行っていたのである。

 僕が初めて長湖に行ったのはもちろん高校1年生、今からもう9年も前のことだ。先輩方から「近くに百貨店がある」と聞かされ、どんなに開けたところかと思えば、「○×百貨店」という個人商店があるだけだった。あとは数件の民宿と、こぎれいなホテルが1軒にガソリンスタンドに畑に農家。それくらいしかないような集落だった。すげえ所にきちゃったんだなあ・・・

 確かに、楽器の練習には最適な環境だ。民家から離れた森の中のガケの上(ヘンな表現だが、事実だから仕方ない)での練習、近所から苦情がくるはずもない。すぐそばに別荘があるのだが、そこも人の気配がない。遊びたくても、他に遊びに行けるようなところさえない。1年生の時には右も左も分からなかったから、ひたすら練習するしかなかった。とにかく眠かったことを覚えている。

 そんな場所なのに、2年生になってから行くと、懐かしいと思った。それ以降ずっとだ。結局OBになってからも合宿には参加したけれど、長湖に行くと妙に元気になる。食欲もやたらと出て、太って帰るハメになる。もちろん楽器の調子も妙に好調、音がよく出る(ような気がするだけだが、気分だけでも十分だ)。他の人はどうだか知らないが、僕にとってはいいところだらけの場所、勝手に「僕の田舎」と設定することにしたのは、僕にとってはまったく自然な流れであったのだ。

 タイトルの「ヤマの残照」に絡めたことを書くなら、やっぱり夕方が妙に印象に残っている。例年午後4時からが入浴時間で、フロあがりに宿舎の玄関先でアイスなんか食べていたりすると、真っ赤に染まった空が、長湖の向いの山(丘?たいした高さではない)の、すぐ向こう側にあるような気がした。あとは夜空に見える星・星・星!空気がきれいなら、こんなに星が見えるということを改めて実感したのも、長湖だった。

 初めての合宿から、もう9年・・・

 百貨店は、僕が高校2年生の時にコンビニに変わった。
 OBになって車で行くようになって、アイス屋(車8分)と温泉(車20分)に通った。ついに田舎での遊び(?)を発見したのだ。

 だが、今年から合宿先が変わってしまい、もう田舎に行く用がなくなってしまった。

1999/09/16

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