待合室にて

 

 耳鼻科の待合室はごった返していた。連休前の土曜日の午前中(午後休診)で、しかも第2土曜(公立学校お休み)で、おまけに2月中旬(=花粉症シーズン開幕)というお日柄が重なったのだから、混雑も当然か。とにかく待合室はどうしようもないほどの混雑をきわめていた。以前かかったときには2分以上待った覚えがない病院(=町医者である)だったので、とても意外である。「予約なしは後回し」とか「ただいま予約よりも30〜40分ほど遅れています」という貼り紙までも!

 悪いことに、よりによって僕は予約なしである。別に大したことはないのだが、朝起きたら目が痒くて鼻ムズムズががまんできなかったため、花粉症対策の薬をもらおうと思いたったのだ。薬を処方してもらうだけだからすぐに終わると思っていたのだが、お日柄までは考えなかった。もともと待つ覚悟ができていたせいもあるので、今日は困惑しない。仕方ないよね。

 立って待つこと10分、席がひとつ空いた。僕は長時間待たされることが確定しているわけなのだから、座ったってバチはあたるまい。他の立って待っている患者さんに、座りそうな気配の人がいなかったこともあり、僕はそそくさと座ることにした。ところが、座ったはいいものの手ぶらである。時間をつぶせそうなモノはケータイしかないのだが、病院でケータイをいじるのはちと勇気がいる。待合室に置いてある本は、お子さま向けの絵本ばかりなので、さすがに読むわけにいかない。しかたがないので、待合室にいる人々を観察することにした。

 驚いたのは、乳幼児が多いことだ。当然ながら母親に付き添われている年齢の子供たちだ。僕が小さかったころ、耳鼻科になんてかかったっけな?いや、僕は中耳炎をしょっちゅうやってたから・・・すると、周囲にいる子供全員が中耳炎を患っているように思えてしまう。僕が勝手に想像しているだけなのだが、ちょっとかわいそうか。

 診察室からは、やはり小さい子の泣き叫ぶ声(断末魔?)が、断続的に聞こえている。いったい耳鼻科でどんな治療をするとこんなに泣くのかね?注射しないでしょ・・・?またしても余計なことを想像していると、診察室から母親に抱きかかえられた子供が出てきた。グズグズ泣きながら帰る帰ると言っている。ところが、会計さえすれば子供念願の帰宅ができるというのに、その子は靴を履こうとしない。母親がなんとか履かせようとするも、がんばってしまって履かない。上着も着ない。荒療治に人生すべてがイヤになってしまったようで、ずいぶんと駄々をこねている。帰りたいならとっとと靴を履けばいいのだが、子供っておもしろいもんだ。そのまま見ていると、すぐ近くにいた別の母親が、てきぱきっと靴を履かせてあげて、上着を着せるのを手伝った。手伝った母親の子供はちょっと大きい子(小学生?)だったので、靴を履かせるだけで四苦八苦していた実母と、母親歴の差が出た格好と言っていいだろう。それが恩着せがましいものではなく、とても自然な行為だったのが印象的だ。

 僕の隣に、おじいさんが座った。お孫さん(幼稚園児?)と一緒だ。耳鼻科は、見た目だけでは“とても重病そう”な人がわからないので、どっちが患者なのだかわからないのだが、健康な子供を病院に連れてきたがる人なんていないだろうから、きっとこの子が患者なのだろう。またしても勝手に余計なことを考えているうちに、その子はゲームボーイを取り出した。診察室から聞こえてくる以外に、音を立てているのはこの子のゲームだけだ。静かな待合室の中では、とても音が浮いている。ロールプレイングゲームをやっているのだろうか、その子のハマり具合はだんだんと上がってゆき、かなりのモノとなってきた。時折「死ね!」「殺ってやる!」「ぐわっ!」などと言うものだから、とても病院の雰囲気とは思えない。隣にいるおじいさんは止めないのだが・・・ひとり妙に興奮している子供と、その他大勢。

 75分経ったところで、僕の名前が呼ばれた。まだ多くの人が待っている段階だ。予約ナシなのにすいませんねぇとは思うが、僕は薬をもらうだけみたいなモノだから、診察はわずかに1分、とっとと終わって追い出される。予想されたことなのだが、あまりに短時間ではないかという心境と、さっさと終わってよかったと思う心境が入り交じり、とても複雑だ。病院は長居をする場所ではないが、待たせるならそれに見合った治療をしてほしいよな、などというのはわがままというもの。僕の次は幼児で、両親が抱きかかえて押さえ付け、先生はその間隙をぬうように診察をしている。・・・あれ?今日はおばさんの先生だ。この病院にかかるのは今回で(1年ぶり)3回目にもなるのだが、いまだに同じ先生に診察してもらったことがない。いったい何人の先生がいるの?

 会計用パソコンが不調で、そこでも待たされた。いくら不調(薬の処方箋が出てこない)でも、“実行”というキーをそんなにパカパカたたいたらマズいでしょ、というくらいに看護婦さんはキレていた。午前の診療は12時までだというのに、すでに時計は1時になろうとしていて、待合室にはまだまだ人がたくさんいたのだから、それも仕方ないのか。妙に陽気なおじさんが、いやぁ〜混んでるねぇまいったなぁもう空いてると思ったのにそうか今日はお休み前だからかいやぁ〜まいったまいったすごいねぇはいはいちょっとごめんなさいよどっこいしょっとうわぁ〜、と驚いていた。1人でそれだけ盛り上がれるなら病院来る必要あるのかね?

 病院にいた110分ほどの間に、さまざまな人間模様を垣間見ることができたのである。

 

2002/02/11

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