おわりに
特急列車の自由席なら乗り放題というのが、僕が使用した周遊きっぷの売りである。だったら特急に乗ることを優先し、列車の比較でも何でもできるじゃないか、と思ったことがあった。3日目の、朝イチの久大本線鈍行の車内である。鈍行しか走っていない路線ならいざ知らず、わざわざ特急が設定されていて、しかも特急に乗れば2時間も寝坊ができたのだ。それでも僕は早起きをして、鈍行に乗ることを選んだ。これはどういうことだろうか。
初日・二日目と、僕はそんなに特急に乗ったとは思っていない。それでも、僕の体は特急に対する距離を感じていたようだ。鈍行のボックスで足を伸ばして、その辺に『時刻表』とガイドブックをほっぽり、窓枠に肘をついて外の風景を眺めたい、窓の隙間から外の匂いを感じたい、レールの継ぎ目の音を感じたい。特急では防音と乗り心地向上のために減殺されてしまうところを、僕は求めていた。
今回の旅について原点とかなんとか序文には書いたが、ちょっと大げさなことを書いてしまったかなと思っていた。僕の旅は、そこに何があるのかを探してみるもので、それを記したのが僕の『ノート』だというだけだった。どんな内容であれ、僕は迷わずに『ノート』をタイトルにしていたはずだ。しかし、どうやら僕の『ノート』は特急のようなペースではないようである。速い特急・豪華な特急など興味はあれこれあるけれど、僕の中には鈍行のペースが刻まれてしまっているのだ。やっとわかった。
その後、3月13日にJRのダイヤ改正が行われた。九州新幹線の開業にともない、鹿児島本線は一部が肥薩おれんじ鉄道に移管され、特急「つばめ」「あそ」急行「くまがわ」などが姿を消し、特急「有明」は大幅に本数を減らした。やっと『時刻表』の九州のページに慣れたところだったのだが、旅行から帰ってきてからわずか15日で、僕の知っている九州は相当に面影が変わってしまったのだ。なんだか不思議な感覚である。
さて、例によって誰かにお礼をと思ったのだが、今回は基本的に一人旅だったので、誰にお礼を言っていいか分からない。もちろん、最後まで読んでくださった読者の方は当然であるが、せっかくなので初日の「のぞみ」で隣席になったおばさんに代表していただいてお礼を申し上げ、この『ノート』を閉じることにする。お世話になりました。
2004/04/01
2004九州ノート・完