ブータン夜ばい事情

 どーしても書きたい“ブータン情報”がある。でも、本編のどこに入れるか迷い、さらに長くなるのでどうしようか迷った。で、いろいろ考えた結論として、“別にしちゃえ”ということにした。肝心のどーしても書きたいことというのは・・・“夜ばい”である。ブータンは、20世紀も終わりに近づいているというこの御時世に、夜ばいが文化として残っている国であり、実際に夜ばいが行われているという。そんなバカなという気はしないでもないが、これほど好奇心をかきたてるモノはあるまい。この文章は、旅行中のことあるごとにガイドのゲンボさんに聞いた話を文字にしたものである。

 ブータンには、ホントに夜ばいの伝統(?)がある。ただし全ブータンでの伝統ではなく、中部から東部にかけてのみで行われているそうな。僕たちが今回旅行したのは西部だから、現在ではさすがに夜ばいはしないらしい。ところが、中部出身のゲンボさんは、なんと“夜ばい経験者”だと言うのだ。

 夜ばいというと、普通はかなり人聞きが悪いこととなるだろう。実際に「昨日夜ばいしちゃってさあ」なんて友人に言われたら、ハッキリ言って引く。しかし、昔はこうではなかった。日本でも江戸時代に夜ばいは普通に行われていて、男が気に入った女のところに忍んで行き、女に了解を求めた上でコトに及ぶのである(女が了解しなければ、男はそこで引き下がる。そこで引き下がらなかったら野暮とされてしまうのである)。ただし、両者の合意の上であっても、家は認めてくれない。例えば、良家のお嬢様のところに忍んで行ったとしたら、家の者が黙っちゃいないだろう。「姫をキズものに」なんてね。

 ともかく、求婚の一つの手段としての夜ばいが、ブータンには残っている。その夜ばいのしかたというのがスゴい。女の家にコッソリと行って、おもむろに家の中に侵入するのだが、窓を開けるわけでもなければ戸から入るのでもない。ブータンの伝統的建築様式はもちろん木造、家の壁は柱と柱の間に木を打ち付けたものなので、それを取り外し、家の中に侵入してコトに及ぶ。帰るときは、外した壁を直して帰るのだそうな。家を壊して侵入するんだから、絶対にバレそうな気がするのだが・・・

 もし、首尾よく家の中に侵入できたとしても、安心してはいけない。ブータンの家族は揃って寝ている場合が多いので、目当ての女の隣に両親が!!っていうことはよくある話。もちろんアッサリ見つかってたたき出され、翌日には男の両親が手みやげ持って謝りに行くことになるそうだ。私見だが、男のほうの両親が夜ばい経験者だったら「お前もヘタだねえ」なんて両親に説教されるのではなかろうか。女の両親も夜ばい経験者だったら「夜ばいもマトモにできないヤツに、娘はやれん」とか言うのだろうか。これは想像するだに楽しい。

 さて、肝心のゲンボさんの夜ばい話。ゲンボさんの奥さんは学生時代の同級生だそうだが、夜ばいをしたのはまったく別の機会だそうである。

「男数人で飲んでいると、だいたい女性の話になるでしょ?すると誰かが『夜ばいに行こうぜ』って言い出して、みんなで繰り出したんです。でもみんな酔っぱらってて、僕は窓から落ちちゃいました。ホントにさんざんでしたよ」

 いくら文化として夜ばいが残っていても、目的を達成するのは容易ではない。

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