残された宿題

 街は赤く染まっていた。蝉の力ない鳴き声が響いている。
「あ〜あ、明日から学校か。めんどくさいなぁ」
 美奈がうんざりしたように声をあげた。そのすぐ隣を歩いていた祐一が苦笑いを浮かべる。
「宿題、終わったのか?」
「うん、もちろん。昨日のうちにね。でなきゃ今日一日楽しめないと思ったから」
 その言葉を聞いて、祐一が嬉しそうに微笑んだ。夕陽で長く伸びた祐一の影が少し、美奈のそれに近づいた。
「今日は、楽しかった?」
 祐一の問いに、美奈は満面の笑みを作った。
「うん、とっても。誘ってくれてありがとう。まるでデートみたいだったよ」
「えっ?……そっか」
 美奈の言葉に祐一の顔色が変わり、歩調がわずかに乱れた。祐一の影が若干、肩をおとしたように見えた。夏の終わりを告げる涼しげな風が二人の間を緩やかに吹き抜ける。
 美奈は真っ赤な空を仰ぐと、小さく溜め息をついた。それから祐一に顔を向けた。
「……祐一は、宿題は終わったの?」
「いや、まだ一つだけ残っていたみたいだ」
 美奈が不思議そうな顔をする。祐一は立ち止まり、瞳に決意を宿らせて美奈に向き直った。

(1998.8.31)

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朝霧義水(Yoshimi Asagiri)
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