title>STE:第2回興行
2000年1月29日(土)
会場:横浜志水ヶ丘公園体育館
観衆:270人(主催者発表)
小さな体育館に客席はビニールシート。
前回とはうって変わって貧乏くさく・・・もとい質素になったSTE第二回興行。
当然それに併せて観客の数も縮小、前回興行と比べると寂しさすら感じる。しかし、考えてみればSTEはまだ旗揚げしたばかりの弱小団体。
これが本来の姿なのだ。
資本金こそ弱小に見合わない額ではあるものの、それと集客力は必ずしもイコールではない。
もちろん資金力があればそれ相応の宣伝活動もできる。そういった意味では、資金力と集客力は密接な関係にあるとも言える。
だが、宣伝する素材がなんであるかによってその効果はいくらでも変わってくる。
例えるなら、1の素材で10の宣伝をかければ10。10の素材で10の宣伝をかければ100。前回の旗揚げ興行では、日本においてはほぼゼロの素材を、入場無料という綾小路社長の言うところの『卑怯なやり方』で置き換え、宣伝活動も地元を中心にかなり精力的の行い、その結果、横浜文体を満員にするという無名弱小団体の旗揚げとしては奇跡と言っていい観客動員を記録した。
そして今回。
入場料は無料ではく、宣伝も地元を中心に数十枚のポスターを貼るという最低限の活動しかしていないという。
入場料は兎も角、宣伝活動は前回同様もっと精力的やるべきではなかったのか?
それとも、前回の興行で宣伝活動に力を入れなくても観客を集められるだけの手応えを掴んだのか?
そう綾小路社長に質問してみたところ、以下のような答えが返ってきた。「確かに今回は宣伝を最低限に抑えましました。それにこの前の興行ではかなり良い試合をしたという自負もあります。
ですが、その2つは全くの別問題ですよ。
確かにその2つはつなげて考えられますし、実際経営者としてはそう考えなきゃいけない。
興行を打って、利益を上げて、それで抱えてる人間共々飯を食っていく会社の責任者としては当然ですよ。
ただ、必ずしも目先の収益ばかりを見てもいられないってことです。
この前は言ってみればお祭り、非日常だったんですよ、やってる側も。一発勝負、一回やったら結果は関係なくそれで終わりだから。収益も考えないで良かったですしね、楽でしたよ。あれ単体で考えられたら。
それが今回からは日常になる。
そうなったら、嫌でも現実に目を向けて、そしてそれを出来るだけ正確に把握しなくちゃならない。
この前の試合で自分たちがどれだけの商品価値を見いだしてもらえたのか、とかね。
それがわかってないと今後の方針だってきちんと立てられないですから。
これからが本番っていうのは、そう言ったことも含めてなんですよ。まあ、一応ただぼーっと社長を名乗ってるってワケじゃだけじゃないんで。
この程度のことはいつも頭の中で考えてるってですよ。
そうは見えないかもしれないですけど(笑)。でも、ウチのバカオーナの方はそこまで考えて言ってるわけじゃないですから、アレは別に考えて下さい(笑)」
今回の観客数は綾小路社長の目にどう映ったのだろうか?
第一試合 高木 開海 VS スペル・ネグラ 新人らしく立ち上がりからガムシャラに攻める高木。
しかし、ベテラン・ネグラは落ち着いて、しかも確実に2倍・3倍にして返していく。開始から2分、このままネグラペース試合が進みそうな雰囲気になったその時、ネグラの噛み付きで流血させられた族OB・高木の怒りに火がついた。
前回エース・松本からギブアップを奪ったあの気迫を見せ、ネグラと互角の攻防を繰り広げる。
更にはフェイスクラッシャー、バックフリップ、叩きつけラリアット、ブルドッキングヘッドロックと一気呵成に攻め立て、最後は松本からギブアップを奪ったボストンクラブ!しかし高木に勝機が見えたかに思われたのもネグラの術中だったのだろう。
高木がボストンクラブを解き大技パワーボムにいこうと不用意に持ち上げたその瞬間、ネグラが狙い澄ましたウラカン・ラナ。
勝ちを意識して油断していた高木はあっさりとカウント3を奪われてしまった。
× 高木 ( 8分43秒
ウラカン・ラナ) ネグラ ○
試合後のコメント:ネグラネグラ「しょせんデビューしたての若造。オレの敵じゃない。オレの敵は、レッドウォーリアー!ディアブロ! キラービ! そう、ヤツ等だッ!」
試合後のコメント:高木高木「・・・くやしいッス。いいとこいってたと思ったんスけど、それもネグラサンの作戦だったみたいで・・・。ちょっと上手くいったからって調子に乗ってました。その辺もくやしいッス。ッス!っシタッ!」
会場前、控え室の一角では不毛な口論が繰り広げられていた。
曰く、「よう兄弟、暗いじゃないか。そんなんじゃ客が逃げるぜ。ほら、笑った笑った」
「・・・黙ってろ。お前のイビキがうるさくて眠れなかったんだ。控え室でくらい静かにしやがれ」
「おいおい、人のことを言う前に自分のイビキをなんとかしろよ」
「まあまあまあ、二人とも、そんな下らないことでいがみ合うのはよせ」
「なにが下らないだ。お前だってうるさいイビキで人の安眠妨害をするクセに」
「そうだ、偉そうなことを言うな。お前もこいつと同じなんだ」
「なんだと。自慢じゃないが私のセクシーなワイフは、私の腕枕で寝るのが一番寝心地が良いと言っているんだぞ」
「そりゃお前のカミさんは○○○で×××だからだろう」
「なんだと貴様! 私のワイフを侮辱するな! 貴様の方こそジュゴンだかイエティだかわかからない様なワイフじゃないか!」
「お・・・お前、言うに事欠いて本当のこと言いやがったな!」
「・・・なあ、話がずれてないか?」
「黙れ。 ワイフのいないお前になにがわかる!」
「そうだ、少しはその○○臭い口を閉じてやがれ。この××野郎!」
「××野・・・」
(後略)そんなわけで、お互いのわだかまりをリング上でぶつけ合わせることになった。
・・・らしい。
第二試合 ザック・ザ・ザッパー VS ブライアン・ゴードン VS ジャフリー・マグワイア なお、この試合はバトルロイヤル、いわゆるアメリカンプロレスでおなじみのトリプルスプレット形式、更には場外に出た時点で敗退というルールで行われた。
開始早々ゴードンがジャフリーを場外へ投げ捨てようとするが、さすがにそうは問屋が卸さない。ジャフリーがブレーンバスターで切り返す。が、マットの中央方向に投げてしまったため、ゴードンは場外に落ちない。
そのままゴードンを攻めるのかと思いきや、ジャフリーは逆にゴードンと結託し、ザックを場外へ投げ捨てようとする。が、これもザックの抵抗にあいあえなく失敗。
その途端、ジャフリーはザックと結託。ゴードンを投げ捨てようと二人がかりで持ち上げたが、さすがSTE最重量のゴードン、重さを支えきれず場外まで届かず。
その後も二人がかりでゴードンを陥れようとするジャフリーとザックだったが、なかなか上手くいかずケンカを始めてしまう始末。
その隙をつこうとしたゴードンだったが、逆に逆ギレした二人に今度こそ場外へ投げ捨てられてしまう。
( 1分56秒
リングアウト) ゴードン× ここからはザックとジャフリーのシングルマッチ。
体格・プロレスキャリアにおいて上回るザックに対し、海の漢(おとこ)の荒くれファイトで対抗しようとしたジャフリー。
だが結局は早くも大技攻勢をかけたザックが、フィニッシュ前にはニンジャポーズで見得をきる余裕をみせ勝利。
○ザック ( 6分23秒
ニンジャボム(サムライボム)) ジャフリー×
試合後のコメント:ザックザック「これでオレが正しかったってのが証明できただろ? そう、“It's ture”だ」
試合後のコメント:ジャフリージャフリー「ん? そう言えば昨日言われていたカードと違ったな。おお、そうだ、だから負けたんだ。だったらオレが悪いワケじゃないな」
試合後のコメント:ゴードンゴードン「ワイフを侮辱されてついカッとなってしまったが、考えてみれば馬鹿らしい話だ。だいたい当日になって急にこんなカードを組んだ奴なにを考えているんだ・・・」
第三試合 レッドウォーリアー VS 黒井 零 序盤からノリノリのハイテンションで攻め立てるレッド。
一方の零は攻め立てられながらも微妙にポイントをずらしダメージを最小限に抑えて対応していたが、しばらくするとそれに飽きたのかレッドを場外へポイッ!
そして両手を上げて観客にアピール。そこから、これまでとは逆に零がレッドを攻め立てる。レッドも隙を見て反撃を試みるがそのたびに上手く丸め込まれ、あわや3カウントを取られそうになり肝を冷やすばかり。
それでもなんとか反撃のきっかけを掴んだレッドは、零がうつ伏せになっているところへムーンサルトプレス、零が場外に逃げればスワンダイブプランチャと、得意の空中殺法から巻き返しをはかる。
レッドのスワンダイブプランチャからしばらく場外戦になり、そして両者が再びリング上に戻った直後、レッドにとって最大のチャンスが訪れる。
零がエプロンからのスワンダイブボディアタックに来たトコロをするりとかわし自爆させ、そこへ十八番レッドサイクロン(カンクーントルネード)!
さらにギロチンピースクラッシャーを間に挟んでからのトライアングルスコーピオン!これで勝負は決まったかにおもわれたが、いかんせんロープに近過ぎた。
悔しがるレッド。
それでも気を取り直し、もう一度ギロチンピ−スクラッシャーをいれてからムーンサルトフォール。しかし、それでも零はカウント3を許さず、レッドがもう一度ギロチンピースクラッシャーをかけようとした所を場外へスルー。
そしてレッドがリング内に戻ってくるまでの間、ようやくの一休み。
これで零は完全に自分のペースを取り戻した。
最後はフラフラと起きあがってきたレッドの背後で余裕のアピールまでかまし、レッドの肩を叩いて振り向かせ、そこをくるっと丸め込んでフィニッシュ。
○零 ( 13分23秒
飛びつき前方回転エビ固め) レッド×
試合後のコメント:黒井零零「これでやっとオレの実力がわかってもらえたんじゃない・・・ってこの前より全然客少ねーじゃねーかッ! チクショー!」
試合後のコメント:レッドウォーリアーレッド「今日こそは応援に来てくれた子供達のために勝ちたかったのに・・・。みんな、ゴメンナサイ」
第四試合 黒井 一郎
黒井 五郎VS 黒井 次郎
黒井 四郎この試合、前回の旗揚げ興行には出場していなかった黒井兄弟の次男・次郎と四男・四郎が初登場。
そしてその二人を迎え撃ったのは同じく黒井兄弟長男・一郎と五男・五郎。
リング上にはほぼ同じ体格に同じマスクを被った男達が4人。
しかも全員コスチュームの色が一様に黒いお陰で、一応マスク以外のコスチュームを皆それぞれ違ったものにしてはいても、充分に見分けがつきづらい。そう、それが、この試合の展開を暗示していた。
試合開始のゴングが鳴るやいなや、誰もエプロンに下がらずに乱闘を始める4人。
この時点ですでに観客には誰が誰だかわからなくなった。そしてそれはあろう事か、当の本人達にしても同じであったらしい。
お互いが敵か味方かわからないまま、しかもそれを気にも留めずに乱闘を続ける4人。
この時点で本部席は、試合形式を2対2のタッグマッチではなく、1対1対1対1のバトルロイヤルにすることを決定し、その旨を場内にアナウンス。
試合開始から9分、まさしく混沌としていたリング上に、大技が飛び出すようになってくる。誰かの高速バックドロップを皮切りに、誰かの踏み込み掌底、誰かのフロントネックチャンスリー、誰かのジャンピングパイルドライバー、誰かの(後略)。
ふと気付くと誰かのスモールパッケージホールドが2人連続で脱落させ、リング上には2人の黒覆面が残った。
これでようやく落ち着いて見れる。場内のあちこちで漏れたそんな安堵のため息が漏れた。
そしてその残った2人が見せた攻防は、そんな観客の心を投影したかの様な内容となった。フロントネックロック、後転ネックロック、フィッシュストレッチスリーパー、腕極め首固め、胴締めスリーパー。
決して派手とは言えないグラウンド主体の攻防。更にそのグラウンドの合間に入る、ジャーマンスープレックス、ジャンピングパイルドライバーといった大技も、じっくりとした流れの中にアクセントを加え、なかなか見応えのある展開に。そして21分27秒、フィッシャーマンズスープレックスが決まり、残った誰か・・・もとい次郎が勝利。
○次郎 ( 14分33秒
スモールパッケ−ジホールド) 五郎× ○次郎 ( 17分47秒
スモールパッケージホールド) 一郎× ○次郎 ( 21分27秒
フィッシャーマンズスープレックスホールド) 四郎×
試合後のコメント:次郎次郎「ほら、なんつーか、ノリよ、ノリ。そんで、その中で上手く頭を使って立ち回った俺が勝ったの。ま、当然の結果だね」
試合後のコメント:四郎四郎「え? 最後ジロちゃんだったの? なんだよ聞いてないよ〜。俺、てっきりイチ兄だと思ってたよ」
試合後のコメント:一郎一郎「なんだな、最後に残ったのが次郎と四郎だったから。2人のお披露目にはちょうど良かったな。うん」
試合後のコメント:五郎五郎「このメンバーじゃあねえ、やりにくいよねえ。・・・え? さぶちゃん? さぶちゃんは今日はお留守番。家業のお店があるから誰か残らないとダメなのよねえ」
第五試合 キラービー エル・ディアブロVS にいむら藤田
ミステル守屋先発はキラービーと藤田。
積極的に仕掛ける藤田と、それを受けつつも相手がリズムに乗りきらない様見計らって切り返すキラービー。
開始から3分が過ぎようという辺りで、双方パートナーと交代。
代わって入ったディアブロと守屋は力比べでお互いの懐を探り合い、しばらくすると一転してロープワークを中心とした攻防を見せる。そのまま両チームともお互いに様子を見合っていたが、10分過ぎ、藤田・守屋組が合体攻撃から攻勢をかけ始め、そこから試合が動き始める。
二人がかりのブレーンバスター、合体パワーボム。
そこから一気に攻め込もうとした守屋組だったが、しかし、キラービーとて黙って試合のペースを明け渡しはしない。守屋をロープに振ると、まだまだ余裕があるということを見せつけるかのようにリープフロッグを2回入れてからケブラドーラコンヒーロ、そして立て続けにロープワークで守屋を翻弄。
しかし守屋とて黙って翻弄されっ放しでいるわけがなく、コーナーに振られようとしたところを逆に振り返し串刺しケンカキック、さらには拝みダイビングヘッドバット。
このままではペースを握られてしまうと判断したか、一端テンポを変えてもらおうとキラービーは師匠ディアブロとタッチ。そうして交代したディアブロはベテランらしい試合巧者ぶりで早くなりかけた試合のリズムを一端整え、そしてもう一度、今度は自分たちに合わせたアップテンポへ試合のリズムをコントロール。
いつの間にやらペースを握られイマイチ攻めきれない守屋は、場外戦でペースを奪い取ろうと試みる。
だがここで子分・藤田は、守屋が場外でキラービーとディアブロの2人を相手にしているにも関わらず、ひとりリング上で腕をぶんぶん振り回したり両腕をカッパカッパと開閉したりして無意味にアピール。
これに観客は「それどころじゃないだろう」という意味も込めてのブーイングをするが、藤田はそんなことにはちっとも気付かず逆にそのブーイングに酔いしれるばかり。場外の様子に気付いた藤田がようやく助けに駆けつけた頃には、キラービーとディアブロに代わる代わるいじめられた守屋は半ばふてくされ状態。
それでも、と言うよりはむしろだからこそ、藤田の救援によって反撃に出た守屋は既にキレていた。
藤田がパワーボムで場外に叩きつけたディアブロに馬乗りパンチの雨あられ。
さらには、先にリング内に戻っていたキラービーを捕まえるとレフリーが見ているにもかかわらず反則お構いなしで「テメェ、コノヤロウッ!」とパンチを浴びせ、たまらずダウンしたところを踏んづけるかのような蹴りで追い打ち。
既に試合を忘れ完全にケンカモードに突入してしまった守屋。
が、さすがに藤田が助けにはいるまでは二人がかりで攻めまくられていたのもあって疲れたのか、ひとしきり暴れて気が済んだ守屋はあっさり藤田とタッチしとっととエプロンに引っ込んでしまう。あからさまにやる気の失せた守屋を見て勝機と悟ったキラービーは、一気に大技攻勢を仕掛ける。
最後はディアブロに任せたいかにも面倒臭そうにカットに入ろうとした守屋を尻目に、ピシャリと決まった十八番リンギーナで一瞬にしてギブアップを奪った。
×藤田
守屋( 28分01秒
リンギーナ) キラービー○
ディアブロ
試合後のコメント:キラービー&ディアブロディアブロ「私たちは助け合うだけでなくお互いを引き立たせることが出来た。そして相手はそれが出来ずむしろ逆のことをしてしまった。それが結果につながったのだよ」
キラービー「あいつ等バカだけど油断できる相手でもないですから。実際あの訳のわからないリズムは捌ききれてないですし。ディアブロ師匠も言ってましたけど、今日はあいつ等の自滅と師匠の奥の深さが勝因です」
試合後のコメント:藤田&守屋守屋「っだコラァ! 俺がやられてるときにひとりで目立ってんじゃねーよ!」
藤田「いやぁ〜、すいませ〜ん」
守屋「すいませんで済んだら警察いらねーだろ!」
藤田「いやぁ〜。すいませ〜ん」
守屋「・・・アーッ、もう終わり! まだやることあんだからとっととあっち行けッ!」
藤田「そーだ! あっち行けッ!」
守屋「・・・・・・」
エース:松本。
STE側からは確かにそう紹介されている。
しかし、前回の旗揚げ興行で印象に残った選手としてまず上げられるのは、間違いなく綾小路だろう。
確かに旗揚げ興業前からエースとして紹介されていただけの実力を持っているであろうことは、前回の試合で見せたその片鱗だけで充分にわかった。だが、だが、いくらその一端を垣間見せたとはいえ、実際には決勝では当日デビューしたばかりのド新人にギブアップを奪われてしまった。
エースとは何か。
そしてそれは松本に相応しい肩書きなのか。その答えはこの試合の結果次第だ。
第六試合 松本 泰由 VS 綾小路 響一郎 開始早々、ネックハンギングツリーで松本を締め上げる綾小路。さすがにここはすぐに逃げられたものの、面食らった松本が立ち直る前にコーナーに振る。
これを前にとっさのサルトモルタルでコーナーに叩きつけられることを防いだ松本だったが、それを読んでいた綾小路は着意点に悠然と近寄って松本を今度はロープに振ってショルダータックル。このあと、綾小路は松本がなんとか自分の得意とするロープワークから反撃に出ようとするのをひとつひとつきっちりと付き合いながらも受け止め、跳ね返し、更には逆にその松本の方が得意とするロープワークを織り交ぜながら反撃し、確実ダメージを与えていく。
試合開始から5分が経過。
一向に攻撃の手を緩めていなかった綾小路が、ここから更なる猛攻に出る。
前回の旗揚げ興行において2試合連続で相手を失神KOした恐怖のパワーボムホイップを皮切りに、ギガントドライバー(リバースパイルドライバー)、ギガントハンマー(若元スペシャル’78)と立て続けに大技を決める綾小路。
松本がたまらず場外に逃げても綾小路の攻勢は止まらず、松本が起きあがってきたところになんとその巨体でロープを飛び越え大迫力のプランチャー!
さらに追い打ちとばかりに、垂直落下式リバースDDTを二連発。
そしてリング上に戻りダメ押しのパワーボムホイップ。
最後の仕上げは、既に意識がもうろうとしている松本を無理矢理立たせてから、自らロープに走ってのフライングボディシザースドロップ。終わってみれば、松本が出した技は正に数えるほどしかない一方的な試合だった。
○綾小路 ( 10分16秒
フライングボディシザースドロップ) 松本×
そんな極端に一方的な試合の後。
リング上には、自分ではもう指一本動かすことすら難しい松本とそれをただじっと見下ろす綾小路の対照的な姿があった。
どれだけそうしていただろう。
綾小路がふと思い出したように入場口の方を見やり、小さくうなずいた。すると突然、場内にガラスの割れるような音が響き渡り、それを合図に三人の男達が入場口から一直線にリングに滑り込んだ。
そのまま未だに起きあがれないでいた松本を足蹴にして場外に追いやった三人組。
よく見ればミステル守屋とにいむら藤田の2人にあともうひとり、黒い覆面に黒いショ−トタイツの男。見覚えがあるようなないような。
そしてこの感覚。
そう、無性に嫌な予感・・・いや、それを通り越した確信。
ヤバイ。ヤバ過ぎる。守屋「オイテメーラ!! 試合は終わったけどまだ終わっちゃいねーぞ! まだこの前言ったスペシャルゲストの紹介があるんだからな!」
藤田「そうだ!スペシャルゲストだ!」やめろ、やめるんだ。
守屋「うはは! いいか、耳かっぽじってよく聞け!」
藤田「よく聞け!」そんな奴紹介するんじゃない。
守屋「ヒーイィズ、モォストデェンジャラーァス・・・バカッ!」
そう、バカだ。
だからやめろ。そいつは−−−。守屋「ミスターバカ! エアッッッガーイツッ!」
エアガイツ「ッシャ、ダーッ!」・・・ああ、なんてこった。最悪だ。
渋谷でのUF0ゲリラ旗揚げ会見以降誰にも相手にされずなんの音沙汰もなく、せっかくイイ感じでフェイドアウトしていたのに。
悪性腫瘍、STEに感染。守屋「オイオイオイ! テメーラゲストの迎え方も知らねーのかよ。こーゆー時はみんなでコールしてやるんだよ! ほら、バーカ! バーカ! バーカ!」
藤田「ハイ、バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ!」
ガイツ「ありがとう、ありがとう。みんな、待たせた・・・」しかし誰ひとりとしてコールに参加しようとないばかりかガイツのマイクパフォーマンスすら聞かずに帰り始める観客。
よかった、まだお客さんはまともだ。
お客さんさえしっかりしていれば、まだ手の打ちようもあるかもしれない。守屋・藤田「バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ!」
ガイツ「だから・・・って、ん?・・・・・・」既に場内に客の姿はなく、スタッフも本部席を片づけ始めている始末。
リング上にいたはずの綾小路やリング下に落とされた松本も、いつの間にかいなくなっている。なんだ、みんなまともじゃないか。
バカはリング上に残った3人だけだったのだ。
これなら大丈夫。守屋・藤田「バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ! バーカ!」
ガイツ「・・・バカバカバカバカうるせえコノヤロウッ!」突然キレて2人に殴りかるガイツ。
そのまま仲間(バカ)同士で乱闘開始。スタッフはそんな3人など眼中に入れずに黙々と客席シートや音響設備を片づけ、リングの解体作業に移ろうとしている。
あ、そうだ、さっきのの試合のコメントを取りに行かなくちゃ。
一時はあまりのショックに思わずヤツらに付き合ってしまったが、落ち着いてみればバカにかかずらうなど時間の無駄以外の何者でもない。そうして私は後ろ髪を引かれることなくバカ共に背を向けたのだった。
試合後のコメント:綾小路綾小路「今日は向こうに合わせてロープワークとか飛び技も意識してやってみたんですよ。ワザと向こうの得意分野に合わせてね。それなのにずーっとこっちのペースのまんまで。あんまりだらしないんで必要以上にいたぶってやりましたよ。結局ね、いくら松本が得意だっていっても別にあいつじゃなくたってやろうと思えばそれなりに出来るんですよ。身体のデカイ俺にだってね。要はそういったことがわかった上で自分らしさを出せるかどうかって部分だと思いますよ、今日のあいつのふがい無さってのは」
試合後のコメント:松本あまりのダメージにコメントできず。
興行終了後のコメント:綾小路(社長)「う〜ん、手応えはあったようななかったような。まだ全体的な流れが出来てませんし、難しいところですね。まだこれから何ヶ月かはそういった下地作りしていかないと。こう言ったことってもう一度、文体辺りのデカイ会場で今度は金取ってやらないとハッキリ答え出せませんよ。我ながらいい加減ですけど(笑)。
最後のアレですか? あれはまあ、放っておいても似たようなことやろうとするでしょうから、どうせ同じバカやられるならこっちの手の届く範囲でやらせたて方がまだ扱いやすいでしょう? それだけですよ」守屋(オーナー)※あまりのダメージにコメントできず
こうしてSTE第二回興行は幕を閉じた。
色々あった気もするが、あえて無事に終了したとしておこう。
綾小路社長の弁ではないが、STEはここからが本番。
今回の興行が成功だったのかそれとも失敗だったのかは、今回の内容を今後に生かせるかどうかによるのだ。
エース松本のふがいなさ、バカの暴走。
これを生かすのは難しいかもしれない。だが起こってしまったからには嫌でも生かさなければSTEに明日は・・・ない?