内科リウマチ科 福間クリニック

強皮症(全身性硬化症)

  1. 強皮症とは
  2. 強皮症の原因
  3. 強皮症と疫学
  4. 強皮症の症状
  5. 強皮症の診断
  6. 強皮症の治療
  7. 強皮症の日常生活
  8. 強皮症の経過・予後

強皮症とは

 強皮症は、皮膚硬化(皮膚が厚く硬くなる)が特徴であり、色々な内臓、特に食道と肺が硬くなり、動きが悪くなる原因不明の疾患です。一般的には、皮膚硬化を意味する強皮症sclerodermaと呼ばれていましたが、最近は正式には全身の結合組織が硬くなることがあることから全身性硬化症(Systemic sclerosis、SScまたはPSS)と呼ばれています。

Raynaud(レイノー)現象(寒冷や緊張で指先が白くなってしびれる)や、小さな血管がつまって指先や関節面に小さな傷ができることもあります。

消化管に病気が入ると、消化管を動かす筋肉が細くなり、代わりに蛋白の線維が多くがみられるようになります。
肺に入ると、肺が硬く伸展性が悪くなり、呼吸をしても十分に広がらないようになる肺線維症がみられることがあります。

病変を顕微鏡で細かく確認してみると、(1)細胞と細胞との間の間質に蛋白質でできた線維(コラーゲンなど)が密集し、(2)小さな血管の内膜が厚くなって血行が悪くなり、(3)汗腺や毛根などの実質細胞がやせ細り、(4)単核球(免疫細胞)が集まってきています。

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強皮症の原因

原因はまだよく分っていません。
遺伝的な素質はあるようですが、他の膠原病と比較しても家族内発症は少ないようです。

スペインで、毒性油が売られ、それを使って食べた人たちに強皮症様の症状が現われたとか、豊胸術に使うシリコンで強皮症様の皮膚障害が現われたという報告がありますが、膠原病で見られる強皮症とは異なるようです。

現在、原因として,次のようなものが考えられています。

 1)自己免疫:血液検査を行うと、抗核抗体、Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗核小体抗体がしばしば検出されます。これらの検査異常(自己抗体)が病気にどのようにかかわっているかはまだよく分っていません。また、Tリンパ球(CD4+細胞)の働きの異常で、コラーゲンを作る線維芽細胞が働きすぎるようになっているとの報告もあります。

 2)小血管の傷害:小血管の内側を被っている内膜に小さな傷が入り、内膜がどんどん厚くなって、終いには血液の通り道を狭めたり、閉ざしてしまうことが、皮膚だけではなく、身体の色々な臓器に起こっています。先ほど述べた、スペインでの毒性油は、このように血管の内膜を傷つけたのかもしれません。強皮症の方の血液の中にも血管内皮細胞を障害する物質因子が見いだされたという報告があります。

 3)結合組織の異常:硬くなっている所にコラーゲン線維が密集しており、線維芽細胞がコラゲンやグリコサミノグリカンを作りすぎています。これは、TGF-βPDGFなどの線維を増やす作用のあるサイトカイン(ホルモン)が作られすぎて、線維芽細胞の調節が狂っていると考えられています。

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強皮症の疫学

 わが国での有病率は、厚生省の調査では人口10万に対して約10人といわれています。しかし、最近、血液検査で強皮症の反応が容易に見つけられるようになり、人口1000人に1人の有病率があるという報告もあります。男女比は17で女性に多く、好発年齢は3555歳で、小児での発症はまれです。

強皮症は皮膚硬化の広がりによって(1)広汎性皮膚硬化型(皮膚硬化が四肢の体幹に近いところや体幹にまで拡大)、(2)限局性皮膚硬化型(四肢の先のほうに限局)、(3)オーバーラップ型の3型に分類されます。

限局性皮膚硬化型は皮膚硬化が手指,手,顔あるいは前腕に限局する型で,内臓病変の頻度も比較的低いようです。

CREST症候群(クレスト症候群)は、皮下石灰沈着(calcinosis)、Raynaud現象、食道蠕動運動異常(esophageal dysfunction)、強指症(sclerodactyly)、毛細血管の拡張(telangiectasia)の症状がある疾患を名づけられたものですが、今では限局性皮膚硬化型の一部とされています。

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強皮症の症状

 初発症状 ほとんどの方がRaynaud現象(4060),関節の症状(2040),手の腫れた感じやこわばり感などの皮膚症状(2030)から発症します。

 皮膚症状 皮膚硬化が最も特徴的な症状です。皮膚の硬化は手足の先や顔から始まり、左右対称性に身体の中心に向かって広がっていきます。教科書にのっているような典型的な進み方は、初めの頃には手指,手背あるいは顔がむくんだように腫れ(浮腫期),手指はソーセージの様な形に腫れてきます。その後、次第に皮膚の硬化が進み、皮膚がつまみにくくなってきます(硬化期)数年経過すると皮膚の硬化は一見軽快したように薄く軟らかくなり萎縮期(いしゅくき)となってきます。しかし実際は皮膚硬化の程度や範囲は人によってさまざまで,手指にのみ限局する(手指硬化,強指症)場合や,前腕や首まで広がる方、更にはほぼ全身に及ぶ方まであります。皮膚硬化が認められない方もあり、これはsystemic sclerosis sine scleroderma(皮膚硬化のない強皮症)と呼ばれています(この場合は内臓の硬化で診断されます)。
最近の診断技術の向上により、症状がほとんどないか非常に軽い方が強皮症と診断されるようになってきました。このため、実際の外来診療の場では、あまり進行しない軽症の強皮症の方が大半で、教科書に載っているように進行する方はごく一部に限られています。
また、皮膚の色素が濃くなったり逆に薄くなったりすることもあります。また、毛細血管が広がって赤く見えたり、皮下に石灰沈着の硬いぐりぐりができることもあります。

 血管の症状としては,Raynaud現象がほとんどの方に認められます。寒冷にされされたり、あるいは精神的なストレス(緊張)によって、手指の細い動脈が一時的にけいれんして細くなり、血行が一時的に閉ざされるため皮膚の色は蒼白となります。血管の緊張が取れると血行が戻ってきてチアノーゼ(紫色)に変わり、次いで紅潮する現象です。通常は後遺症を残さずに元に戻ります。また、頻度は少ないですが皮膚の小動脈の内腔(血液の通り道)が狭くなってくると、手指末端に小さな潰瘍や陥凹性瘢痕(くぼんだ傷跡)が現われます。この症状はレイノー現象と異なり後遺症を残すことがあり、注意を要します。

 関節・筋・腱症状 関節のこわばりと関節痛はよく認められますが、通常は後遺症を残しません。ただ、皮膚硬化が強く、関節が曲げることのできない状態が長く続くようだと、関節の周りの靱帯などが縮んでしまって、拘縮を起こすことがあります。入浴時など、温まって身体がやわらかくなった時に、屈伸の練習を行った方がよいと思います。

 筋肉の病気として軽い筋痛や筋力低下を起こすことがありますが、時に膠原病のひとつである多発性筋炎を合併することもあり、この場合overlap(重複)症候群と分類されます。この場合は多発性筋炎の治療が優先されます。

 食道の病変は高い内臓病変で最もよく見られ、強皮症に特徴的な症状であり、診断上の価値も大きいです。食道の下部の筋肉が弱くなり、線維性の物質に置き換えられていくために,食道の動きが悪くなり、食道が広がってきます。自覚的としては固い物を飲み込む時に食道の下部につかえた感じがしたりします。胃液が逆流して逆流性食道炎を起こすと、胸やけや胸骨(胸板)の奥の痛みが出てきます。

 小腸に病気が入ることは比較的少ないですが、入った時は食道と同様に腸管の動きが悪くなり、拡張するため、お腹が張っているような感じになったり、下痢と便秘の繰り返すようになります。その他、腸の消化、吸収が悪くなることもあります。

 呼吸器では、肺線維症が消化管病変に次いで高率に認められます。進行すると、自覚症状として労作時の息切れと乾いた咳で見られます。早期診断には、胸部X線所見、胸部CTスキャン、肺機能検査DLCOの低下)、血液ガス検査が行われます。

 肺高血圧症は肺線維症に続発する変化としても生じる場合や、肺の血管がつまったために起こることがあります。頻度はまれですが、予後はあまり良くなく、定期的な検査必要です。現在は、プロスタンディンI2の点滴が治療によく使われます。

 心臓の病変としては心筋病変と心膜炎がありますが、臨床上、問題となることはあまりありません。

 腎臓については、非常にまれな合併症ですが腎クリーゼがあります。強皮症になって1-2年以内に起こることがあり、突然,強い高血圧をきたし,急速に進行して腎不全に陥ることがあります。強皮症の方で、高血圧症を伴うときは、早いうちからACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害剤と呼ばれる血圧の薬を飲まれるとよいでしょう。

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強皮症の診断

強皮症の血液検査では大きな異常がないことが多いようです。免疫学的検査では、抗核抗体が7095%の例に検出されます。Scl-70抗体(topoisomeraseI抗体)は特に,広汎性皮膚硬化型で高率に検出されます。一方,抗セントロメア抗体は、限局性皮膚硬化型,特にCREST症候群に多く認められます。抗U1-RNP抗体は約20%の方で陽性となります。

強皮症の診断は、皮膚の硬化があるか否かが最も大切です。しかし,軽度な早期例や内臓病変が主体となっている方では、まだ皮膚硬化が軽い時期では診断は必ずしも簡単ではありません。全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、混合性結合組織病(MCTD)、Raynaud病などの病気では皮膚硬化が手指に限局する強指症が見られることがあり、鑑別が必要となります。一応、強皮症の診断基準はありますが、やはり、専門医が、症状、所見、検査所見、場合によっては内臓の状態もみて総合的に診断を下すことになります。

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強皮症の治療

根本的に治す薬剤は、現在のところまだなく、対症療法が中心となっています。Dペニシラミンは膠原線維を分解させやすくする作用と、免疫の反応を抑える働きがあり、皮膚硬化、肺線維症の症状軽減の目的で用いられています。しかし、皮疹や腎障害などの副作用で、長く用いられない方が多く見られます。一般的には副腎ホルモン剤(ステロイド)は、浮腫期の皮膚硬化には効果がありますが、病気の進行をとどめることはできず、免疫抑制剤も含め、重い内臓の合併症があるとき以外は使われることはありません。今後、遺伝子工学の発達によって、線維芽細胞や、線維化を進めるTGF-βやPDGFなどのサイトカインの働きを抑える薬が開発されることが期待されています。

Raynaud現象や皮膚潰瘍などの血流障害については、血管を広げるプロスタグランディン製剤やカルシウム拮抗剤、血管が細くならないようにするアンプラーグ、血液をさらさらにする抗凝固薬や抗血小板薬などが使われます。また、精神的緊張でRaynaud現象が誘発される方は精神安定剤を使ってみるのもよいと思います。
腎臓の合併症(腎クリーゼ)には、アンギオテンシン変換酵素阻害薬が有効です。急速に進行する場合は副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤、その他の強い治療を行うこともあります。
関節炎などの炎症症状には強い薬は使わず、通常は消炎鎮痛剤(痛み止め)程度で様子を見ます。
逆流性食道炎に対しては、胃潰瘍に使う制酸剤や胃腸の動きを整える胃腸機能調整薬などが使われます。

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強皮症の日常生活

Raynaud現象の予防には、精神的緊張や寒さを避ける工夫が最も大切です。通常、平均気温が18℃以下になるとレイノー現象が頻発するようになります。また、低温であることよりも、急激な温度の変化がレイノー現象を誘発しやすいため、冬季に暖かい部屋やバスや自家用車の中から寒い戸外に出る時は、あらかじめ首筋や手、足の防寒の準備をきっちりしておいてから外に出るようにすればいいと思います。また、レイノー現象が起こって長い間そのままに放置しておくと、皮膚や血管に損傷を作ってしまうこともあります。レイノー現象が起こったら、お湯などに指を浸して、早く回復するようにしてください。手袋や靴下に小さな携帯アンカを忍ばせておくのもよいと思います。
血管収縮作用があるタバコは肺病変にも悪影響があるので避けてください。
強皮症の方の皮膚は血行が悪くなっているため、傷をつけると治りが悪く、また感染すると長期化してしまうことがよくあります。それを避けるため、保温、保護、保清の「3つの保」を守ってください。つまり、手袋などで暖かくしておき、皮膚を常に清潔に保ち,その保護には傷をつけないように注意し、ハンドクリームをつけることなどです。皮膚が硬くなってくると、関節の曲げ伸ばしも辛くなってくることがあります。その予防に入浴後マッサージや体操を行うにしてください。また、消化がよく、栄養価の高い食餌をとるようにしてください。

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強皮症の経過・予後

 経過は症例によって多様ですが、一般的には非常にゆっくりとした慢性の経過をとります。皮膚硬化と内臓病変が1-2年で急速に進行する方もみえますが、ごくまれです。逆に、Raynaud現象と軽度の皮膚硬化が長期間続き,ほとんど進行しない方が多く見えます。皮膚硬化は経過によって軽快する例もありますが、内臓病変は軽快しません。皮膚硬化は多くは5-10年経過すると徐々にやわらかくなってきます。ただ、やわらかくなっても、元の健康な時の皮膚に戻るわけではありません。
予後を左右する因子としては、腎臓、肺、心臓などの内臓の病変の有無が重要です。
CREST症候群は経過が長く予後のよい型です。

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参考文献:新臨牀内科学(近藤 啓文先生 北里大学教授・内科執筆、医学書院)

更新日 :2002/10/16