「膠原病はどんな病気か」についてはあまりよく理解されていません。膠原病がよく分からない理由は幾つかあります。
ひとつはまれな疾患であることから、周囲に同じ病気の人が少なく、知識を得る機会が少ないからです。
また、専門医や専門病院が少ないことも原因となっています。
第2に特定の臓器に限定されない全身病であるという点です。例えば肺炎は肺の感染症であり、胃潰瘍は胃の粘膜がただれて穴があいてしまう病気です。このように、多くの病気の病変は特定の臓器に限定されるので理解しやすいのですが、膠原病は複数の臓器が傷害されてしまうのです。
膠原病とはどんな病気であるかを示すはっきりとした医学的な定義がありません。
膠原病は共通した特徴を持つ幾つかの疾患の集団です。1942年、クレンペラーが初めて膠原病の概念を提唱しました。
この中に、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症(SScまたはPSS),関節リウマチ(RA)、リウマチ熱、多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)、結節性多発脈炎などが含まれます。これら6つの病気を古典的膠原病と呼びます。
その後、混合性結合組織病(MCTD)やシェーグレン症候群(SJS)なども膠原病に含まれるようになってきました。
また、ベーチェット病など膠原病とよく似た性質をもつ病気は膠原病類縁疾患と呼ばれています。
これらをあわせて、広汎性結合織病と呼ぶこともあります。
図1に広汎性結合織病と膠原病との関係を示し、表1に膠原病と膠原病類縁疾患を列挙しました。
膠原病で最も多く見られる疾患は慢性関節リウマチで、人口300人に1人くらい患者さんがいるといわれています。
全身性エリテマトーデスは人口10万人に50人くらい、強皮症や多発性筋炎は3分の1位います。
シェーグレン症候群は10年前の調査では日本に17000人の患者さんがいるといわれていましたが、実際はもっと多く、その数倍と考えられています。
表2に膠原病に共通した特徴を示します。このような特徴をもった疾患をとりあえず膠原病の仲間と考えています。いかにこれらの特徴について説明します。
(1)血管や結合組織を中心に侵す炎症性疾患
病変部位の組織を顕微鏡で調べてみると、血管の壁を中心として細胞と細胞の間の組織(間質、結合組織)にフィブリノイド変性と呼ばれる赤く染まる塊と血液細胞が集まってきている像(炎症反応)がいろいろな膠原病に共通して認められます。
血管が傷害されると血流が途絶し、組織障害が起こります(血管炎)。また、病変に集まった細胞は直接に、または有害な物質をだしたりして周囲の組織障害を起こします。
これらの現象は自己免疫反応によるものといわれています。
(2)多臓器に起こる障害
血管や結合組織は身体のすべての臓器に存在しています。
従って、膠原病では心臓や肺、腎臓などの内臓、皮膚や関節、筋肉、神経など全身に障害が起こり得ます。
ただし、膠原病になれば誰にも身体中の臓器がおかされるというわけではありません。膠原病の種類により傷害されやすい臓器があり、また、同じ膠原病に罹った人でも、症状の出方に個人差があります。例えば、同じ全身性エリテマトーデスでも腎障害のみ出る人、紅斑のみに出る人など多様です。
(3)遺伝素因、性差がある
膠原病の原因はまだよくわかってません。
膠原病に関係のある遺伝子が幾つか見つかっています。
膠原病の患者さんがよく出る家系はあるようですが、しかし、実際には血縁に膠原病の人がいても遺伝についてはさほど心配する必要はありません。
例えば、親が全身性エリテマトーデスや慢性関節リウマチの場合、子供も同じ病気に罹る確立は10%に満たないとされています。
原因と考えられる遺伝子を持っていても必ず発症するわけではなく、発病には何らかの誘因が必要と言われています。誘因としては、ストレス、ウィルスなどの感染症、性ホルモンの影響があります。
これらが引き金となり、原因遺伝子が活性化されて、免疫反応の異常が起こり、自己免疫、炎症、組織障害にいたるとされています。(図2)。
膠原病は結節性多発動脈炎とベーチェット秒を除き、女性に多い傾向があります。
また、妊娠可能な年齢の女性に多く発症します。
これは女性ホルモンは免疫反応を高める作用があることから、女性ホルモンの影響が考えられています。
(4)免疫学的異常が関与している
細菌やウィルスが身体の中に侵入してくると、身体は病気にならないよう、または病気が早く治るようにこれらの病原体(異物)を退治しようとします。
この反応を免疫反応と呼びます。免疫反応ではリンパ球や好中球といった白血球(細胞性免疫)や抗体やサイトカインと呼ばれるタンパク質(液性免疫)などがその役割をになっています。
膠原病では、こうした免疫反応の調節に異常が起こり、免疫反応により自分の身体を壊すようになっていると考えられます(自己免疫反応)。
例えば、全身性エリテマトーデスでは自己の身体を構成する成分と反応する抗体(自己抗体)が腎臓や皮膚に沈着して腎炎や紅斑をおこします。
(5)寛解・増悪を繰り返し、慢性の経過をとる
膠原病は原因不明の疾患で、根本的治療がないことから難病とされていますが、実際は一部の病気(結節性多発動脈炎など)を除き慢性の経過をとります。
全身性エリテマトーデスや多発性筋炎・皮膚筋炎の発症は比較的に急性の経過をとりますが、治療にて軽快すると、最少量の薬(維持量)が継続して投与されます。強皮症やシェーグレン証拠運群は急性増悪することは少なく慢性に経過します。
(6)膠原病相互に共通の症状がある
膠原病は全身病ですので、発熱や体重減少、貧血、リンパ節腫脹などの全身症状は居移してみられます。
血管の障害として、レイノー現象(寒冷刺激や緊張などにより指先が白くなる)はいずれの膠原病でも共通して現れます。
その他に共通してよくみられる症状は表3に示しました。
また、それぞれの膠原病に特徴的な症状があり、それぞれの膠原病の診断に重要です。
(7)異なる膠原病の合併や移行を認める
同じ人に2つ以上の膠原病が合併して発症することがあります。
特に、シェーグレン症候群の患者さんの半分は他の膠原病に併発するといわれています。
また、慢性関節リウマチの10−20%にシェーグレン症候群の症状がでます。全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎は合併して発病することがあります。また、ある膠原病が時間が経過すると他の膠原病に変わってしまうことがあります。
例えば多発性筋炎と診断され治療を受けていたのに、数年後、強皮症に変わってしまうこともあります。
こうしたことから、それぞれの膠原病の病因に共通点があるものと想像されています。
(8)ステロイド剤や免疫抑制剤が奏功する
膠原病の病因は免疫反応の調節異常であることから、治療は免疫反応を抑えることが中心となっています。
多くの膠原病の治療にステロイド剤と免疫抑制剤が使われています。
いずれも強く免疫反応を抑えますが、しかし、これらは正常な組織にも影響するので、副作用が問題になります。
これらの薬は安易に使用するのではなく、適切量を適切な期間、慎重に使う必要があります。細菌、新しいステロイド剤や免疫抑制剤などの開発や使用法の工夫がなされ、膠原病の予後は昔に比べ格段に改善されています。
病気の診断法や治療法が確立されていなかった30年前は、全身性エリテマトーデスの患者さんが発症して5年間生存する確率は60%と低いものでしたが、現在は90%以上となっています。
いままでは、膠原病は不治の病、致死的な病ではなく、コントロール可能な慢性疾患と考えられています。
膠原病は慢性疾患であることから、長い間、膠原病とうまくつきあっていかなければなりません。
膠原病であることを悲観し、絶望して消極的な生活を送るのではいけません。
膠原病は直すことはできないけれども、コントロールできること、通常の日常生活を送っている人が大勢いることを知り、積極的に治療を受けていく必要があります。
このためには、病気について正しい知識を持ち、自分の病気の状態を把握し、また副作用も含め、治療についてもよく理解しておくことが必要です。
医療側と良好な信頼関係を持つことも必要です。また、同じ患者さん同士が交流し、情報交換するともよいかもしれません。静岡県には膠原病友の会静岡支部があります。興味のある方は下記に連絡してください。
全国膠原病友の会/東京都千代田区富士見2−4−9−203/TEL03−3288−0721
膠原病友の会静岡支部/浜名郡新居町新居1074畠山邦男方/TEL053-594-1409
膠原病の治療は主に基礎療法、薬物療法からなっています。
基礎療法は薬に頼らず病気をコントロールするために重要であり、家庭や時に入院して行うもので、膠原病増悪予防、食餌療法からリハビリまでのいろいろな方法があります。
薬物療法は、膠原病の治療の主体をなすもので、膠原病の免疫異常を是正する免疫療法(全身療法)と、膠原病で生じたいろいろな臓器障害や症状を治す対症療法があります。
さらに最近は血漿交換療法やリンパ球除去療法など新しい治療法が考案されています。
膠原病は単一の疾患ではなく、それぞれの特徴をもったいくつかの疾患(全身性エリテマトーデス)や慢性関節リウマチ、皮膚筋炎、強皮症、シェーグレン症候群)からなっており、それぞれの疾患によって薬物療法や日常生活の注意点は異なっています。
膠原病の治療は、この20年間で急速に進み、病気をコントロールできるようになってきました。
しかし、薬の副作用には重いものもあり、常に注意しておく必要があります。
副作用の発現を未然に防ぐため、皆さんも今受けている治療薬とその副作用についてよく知っておいてください。
基礎療法は目的別に分けると、4つの表に示したように、発病予防の注意、個々の症状増悪を防ぐための注意、臓器障害が実際にある時の注意、治療の副作用を未然に防ぐための注意などがあります。
病気が悪くなることを避けるためには、自分の病気が悪くなる誘因についてよく知っておく必要があります。
膠原病一般に、病気の誘因となるのは、ストレスや感染症、分娩などの性ホルモンの変動などがあります。個々の症状については、例えば、全身性エリテマトーデスなどにみられる蝶形紅斑は紫外線によって悪くなるので、日差しの強いところに出たりするとは帽子をかぶったり、長袖の服を着るなどの注意が必要です。
その他、臓器障害がある時には、主治医によく聞いてそれぞれの障害に応じた安静や食事療法を行ってください。
副腎皮質ホルモンを内服している人は、骨粗しょう症(骨のカルシウムがぬけてしまう)や肥満、糖尿病になりやすいので、カルシウムを多くとったり、食べ過ぎに気をつけなければなりません。
熱があるなど病気が活動性の時は安静をとるようにしてください。
場合によっては安静目的で入院することもあります。
入院療法の適応は表に示してあります。
免疫療法
膠原病は免疫異常(自分で自分の身体を壊す反応)によって起こるといわれています。
免疫療法は、身体の中で免疫異常をおこしている細胞を抑制または是正しようという治療法です。
病因の原因に近い所で作用するので、病気全体の活動性を抑えることができます。これに用いられる薬には副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤、免疫調整剤などがあります。
これらはいずれも強い副作用がでることがありので注意が必要です。
副腎皮質ホルモン剤:
身体の中の副腎と呼ばれる組織で作られるホルモンを合成して飲み薬にしたものです。
副腎皮質ホルモン剤と次に述べる免疫抑制剤は全ての膠原病に使われるわけではありません。
図にしめしたように、結節性多発動脈炎などでは副腎皮質ホルモン剤が最初から多く使われますが、シェーグレン症候群や強皮症では病気のごく初期に少量使うか、内臓合併症のある時にしか使われません。
副腎皮質ホルモン剤は多様な作用を持っています(表)。
治療に効果のあるのは抗炎症作用と免疫抑制作用です。
抗炎症作用とは関節炎や紅斑などの炎症反応を抑える作用で、副腎皮質ホルモン剤を1錠から3錠くらいで十分な効果を得られます(次頁図)。
ですから、副腎皮質ホルモン剤(プレドニン、メドロール、リンデロンなど)3錠も内服すれば関節痛などはかなりよくなります。
しかし、免疫異常を治す免疫抑制作用は3錠以上の副腎皮質ホルモン剤を内服しないと期待できず、時には20錠/日以上内服したり、点滴で200錠分位を一度に使う(ステロイドパルス療法)こともあります。
全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎などで大量に薬を使わなくてはいけないのはこのためです。
副腎皮質ホルモン剤の副作用には易感染症(細菌やウィルスに対する抵抗力がなくなる)、糖尿病、副腎皮質機能不全、胃潰瘍の増悪、精神症状、骨粗しょう症などの大副作用のほか、肥満、白内障、大腿骨頭無腐性壊死などがあります。
副腎皮質ホルモンの副作用は内服している薬の量に比例して増加、重症化します。
特に副腎皮質ホルモン剤6錠以上で急速に感染に対する抵抗力がなくなるので、入院が必要になってきます。
骨粗しょう症や副腎皮質機能不全などは薬の量に加え、内服している期間によっても危険性が増してきます。
長期間内服する場合は、骨粗しょう症を予防するため、ビタミンDを内服したり、カルシウム分を多く食べる様にする必要があります。
副腎皮質ホルモン剤を長く服用していると副腎からの生理的な副腎皮質ホルモンの分泌(通常1日に0.75錠分位)がなくなってしまいます。
副腎皮質ホルモン剤が十分に減量されていても回復するのに1年くらいかかります。
ですから、突然、副腎皮質ホルモン剤を中止してしまうと急性副腎皮質機能不全となってショックを起こしたりするので注意が必要です。
免疫抑制:
免疫異常をおこしている細胞の増殖を抑えたり殺すことで作用します。
もともとは抗がん剤として開発されてた薬で、免疫細胞だけではなく、増殖の早い細胞に作用するので、白血球減少や、不妊、奇形児出産、脱毛、発ガン、肝障害などいろいろな副作用が問題となります(右表)。
通常は、副腎皮質ホルモン剤が十分効果ない場合や、重篤な合併症があって治療を急ぐ時などに使われます。
免疫調整剤など:
その他、それぞれの膠原病に対していろいろな治療薬が試みられています。
D−ペニシラミンは免疫反応に対する効果のほか、皮膚硬化を柔らかくする作用があるので、強皮症に用いられています。
また、ベーチェット病に対しては、コルヒチンやサイクロスポリンが効果があるといわれています。
それぞれの疾患の膠原病教室の際、詳しく話しをしたいと思います。
対症療法は、病気全体を治す治療ではなく、個々の症状や臓器障害に対する治療です。
膠原病は多彩な症状を呈するため、全ての症状・臓器障害について述べることはできないので、ここでは膠原病に共通して現れやすい発熱や関節痛、紅斑、レイノー現象についてのみ述べます。
発熱:
表に示した様に、膠原病は高熱を出す疾患と微熱または熱のでない疾患に分かれます。
高熱の治療は、基礎疾患(原因となった膠原病)の治療(全身治療)を優先しますが、苦痛な時や発熱で衰弱している場合は先ず解熱剤を使用します。しかし、高熱を出す疾患の多くは多少の副腎皮質ホルモン剤を必要とする傾向があるようです。
ただし、ベーチェット病に対しては、中止する時に増悪しやすいので、副腎皮質ホルモン剤はできるだけ使用しない方がいいといわれています。
微熱のみの場合は、基礎疾患の治療を行い、発熱自体には積極的治療はしません。
微熱しかでない疾患で、高熱が出た場合は感染症など他の原因を疑ったほうがよいとされています。
また解熱剤を用いて熱を下げた場合、感染症の発熱も隠されて発見が遅れてしまうので注意が必要です。
関節痛:
やはり基礎疾患の治療が優先されます。
ただし、関節痛単独に対して副腎皮質ホルモン剤は使われません。
通常、消炎鎮痛剤の入った内服薬、坐薬、貼り薬、塗り薬が使われます。関節の腫れがある時は、その関節を安静にする必要があります
紅斑:
やはり基礎疾患の治療が優先されます。
紅斑のみに対して副腎皮質ホルモン剤の内服薬は使いませんが、ひどいときは副腎皮質ホルモン剤の塗り薬を使います。
塗り薬は身体に吸収されず、全身の副作用の出難いものもありますが、突然止めると紅斑が急に悪くなることもあります。
この場合、副腎皮質ホルモン剤の塗り薬を強いものから弱いものへ徐々に変えていき、最後に副腎皮質ホルモン剤の入っていない薬にすればよいです。
レイノー現象:
ほとんどの膠原病で見られます。
特に、強皮症や混合性結合組織病で発言頻度が高いとされています。
指などに行く細かい動脈が寒さや緊張といった誘因で痙攣を起こし、痙攣を起こした先の組織に血液が流れなくなり、皮膚の色が白くなる状態です(下図)。
指の他、耳や鼻、さらには舌や内臓の動脈などにも起こると言われています。
副腎皮質ホルモンは無効です。
レイノー現象の治療(3つの表)の第1は緊張や寒冷などの誘因を除くことです。
薬物療法としては血管を広げる血管拡張薬や血小板凝集抑制薬、漢方薬などが使われています。
時には、手術療法なども行われますが、比較的治療の難しい症状です。
シェーグレン症候群は膠原病のひとつで、主に中年の女性に好発し、慢性唾液腺炎や乾燥性角結膜炎を主徴とする原因不明の自己免疫疾患(本来、身体に進入した異物を退治するための免疫反応が異常を起こして、自分の身体を壊すようになった状態)です。
シェーグレン症候群は1800年代より報告が見られていましたが、1933年スウェーデンの眼科医シェーグレン症候群が目や口の乾燥症状を全身性疾患の1症状として報告したことからこの病名がつきました。
その後、アメリカのNIHや、日本の厚生省のシェーグレン病研究班により調査され概要がはっきりしてきました。病気を持っている人の数は人口10万人あたり男性1.5人、女性29.5人とされていますが、その後シェーグレン症候群に対する認識が高まり、現在では日本で50万人ほどの患者さんがいると推定されています。
40から60才の女性に多く、空気の乾燥している地方に多いといわれています。
また、他の膠原病と一緒に起こることもあります。シェーグレン症候群は主に涙腺と唾液腺が侵され、涙や唾液が出にくくなって、眼や口の乾燥症状がでてきます。
しかし、実際には他の身体中の外分泌腺(体表面や消化管などの管腔に分泌物を出す腺、例えば汗を出す汗腺、消化液を出す胆管やすい臓など)も侵されることがあり、外分泌腺全体の自己免疫疾患、自己免疫性外分泌腺症としてとらえようという考え方もあります。
シェーグレン症候群は膠原病のひとつで難病に挙げられます。
しかし、その生命予後は極めて良好で、ほとんどの人が寿命を全うされています。
日常生活の不自由も治療やいろいろな生活の工夫でかなり改善することができます。
病気についてよく理解し、前向きに治療を受けるようにしてください。
シェーグレン症候群の原因はまだわかっていません。
遺伝との関係もいわれていますが、それほど強い遺伝ではないようです。
最近は、EBウィルスなどのウィルス感染が発病に関係していると言う報告が多くでています。
病気で侵された外分泌腺を顕微鏡で調べてみると、外分泌腺細胞の周りにリンパ球と呼ばれる細胞が集まって、腺細胞を壊しているのが認められます。
病気が進行すると、腺細胞はほとんどなくなってしまい、分泌液が出せなくなって、乾燥症状があらわれるのです。
シェーグレン症候群は図に示したように、症状のない潜在性シェーグレン症候群と、症状のあらわれたシェーグレン症候群(T期、U期、V期)に分けられます。
潜在性シェーグレン症候群はまったく症状がなく、検査異常で発見される場合がほとんどです。
外分泌腺の破壊が進行していない状態で、実際には、この状態の人が大半で、病気であることに気づかずに一生を送られている方が多いと考えられます。
T期は眼や口の乾燥症状が現れている人で、外分泌腺以外の臓器症状を伴っていない場合です。
U期は乾燥症状に加えて他の臓器症状、例えば発熱や関節炎、皮疹などが見られる時期です。
V期は欧米で多いのですが、マクログロブリン血症やリンパ系腫瘍が現れることがあります。
必ずしもT期からV期まで進行するわけではなく、ほとんどの人が潜在性シェーグレン症候群あるいはT期、U期でとどまるようです。
異なる分類方法として乾燥症状だけの原発性シェーグレン症候群と他の膠原病に合併した二次性シェーグレン症候群とがあります。
涙や唾液の働きを表に示しました。
シェーグレン症候群が進むと涙や唾液の分泌が減るので、これらの機能が損なわれるように成ります。
例えば、涙の分泌が減ると、目入ったほこりを洗い流せなくなるので、異物の入った様なザラザラやゴロゴロとした感じがします。
また、眼の表面が乾燥するので、乾燥性結膜炎(充血)が起こります。
放置すると結膜のびらんや潰瘍ができることもあります。
唾液の分泌が減ると、食べ物を噛んでやわらかくできないため飲み込みにくくなったり、口の中が不潔になりやすく虫歯ができやすくなります。
また、口内炎を起こしやすくなり、風邪をこじらせやすくなります。
その他の外分泌腺症状として、皮膚が乾燥したり、鼻が乾燥して鼻出血を起こすこともあります。
気道分泌液が減ると空咳がでたり気管支炎に罹りやすくなります。
また、しばしば耳下腺(耳の下にある唾液腺)が腫れることもあります。
シェーグレン症候群の全身症状としては発熱、関節痛、レイノー現象(寒冷や緊張で指先が白くなる)、リンパ節腫脹、紅斑(輪状紅斑、浮腫性紅斑)等があります。
関節痛は時に慢性関節リウマチのように変形を起こすことがあるので注意が必要です。
図に示したようにシェーグレン症候群のU期には種々の内臓合併症が起こりますが、臨床上問題となるの合併症は5%以下の頻度です。
合併症の有無を定期的検査する必要があります。
眼や口腔の乾燥症状を起こす疾患はシェーグレン症候群だけではなく、表に示したように、多くの疾患、環境で乾燥症状が見られます。
いわゆるドライアイを示す人の1割程度がシェーグレン症候群と言われています。
このため、シェーグレン症候群の診断には様々な検査が行なわれます。
血液検査や涙の分泌をみるシルマー試験にてある程度の病気の有無が推測されますが、確定診断には表の診断基準に示した口唇検査、唾液腺のシンチグラフィー、唾液腺造影などが必要になります。
シェーグレン症候群は早期発見が困難なため、すでに乾燥症状が現れている場合は、もう外分泌腺が壊されてしまっているので、原因から治す根本治療は困難になっています。
潜在性シェーグレン症候群は早期に治療すれば発症を予防できるはずですが、具体的な治療法は今後の研究課題です。
乾燥症状がすでにある場合は症状を軽減する治療や進行を止める治療が主体になります。人工涙液や保護剤、抗炎症剤などを使い分けます。
注意点として、常時、習慣として使うことと点眼薬の多くには防腐剤が入っているのことから、眠る前には水か人工涙液で目を洗って置く必要があります。
その他、覆いのある眼鏡を使ったり、手術を行なうこともあります。口腔乾燥に対しては人工唾液、うがい、トローチ、口腔用軟膏、グリセリン塗布などの概要剤を用いるほか、内服薬としてはビゾルボンなどの気管支分泌促進薬やパロチン等の唾液腺ホルモン剤、麦門冬湯等の漢方薬等が用いられます。
また、人工甘味料を使ったガムやアメを噛むことも唾液腺分泌促進に有効です。
U期のシェーグレン症候群に対しては、合併症に応じた治療が必要となります。
主治医とよく相談して治療を受けてください。
また、他の膠原病を合併している場合は、その膠原病の治療が優先されます。
シェーグレン症候群の日常生活の注意点は表に示してあります。参考にしてください。
特に注意することとして、市販薬や病院からもらう薬の多くが乾燥症状を増悪させることがあります。
もし、かかっている病院以外で投薬を受けるときは病気のことをよく説明してください。
全身性エリテマトーデス(SLE)は、膠原病の代表的な病気のひとつです。
1845年ヘブラによって蝶形紅斑(両頬に発赤)が報告されて以来、約100年間の間に全身性エリテマトーデスの概念が出来上がってきました。
特徴的な皮疹、腎障害(蛋白尿等)、漿膜炎(胸や心臓の周りに水が貯まる)、神経症状(けいれん等)などの一連の共通した症状を呈する全身病と理解されています。
検査で、抗核抗体(細胞の核に反応する免疫グロブリン)や抗DNA抗体(遺伝子のDNAに反応する免疫グロブリン)などが出現し、自己免疫疾患(異物に対する身体の防御機構が異常を起こして自分の身体を壊すようになった状態)のひとつと考えられています。
全身性エリテマトーデスは昔に比べ検査法や治療法が格段に改善されたことから、致死的な病ではなく、コントロールのできる慢性の病気と理解されています。
治療により、健康な人と変わらない日常生活を送っている方が大勢います。
病気についての正しい知識を持ち、治療や日常生活を注意をよく理解して、積極的な医療を受け、日常生活を送るようにしてください。
原因はまだよく解っていません。
遺伝的な素質に、何からの誘因(ウィルス感染、ストレス、妊娠)が加わり、免疫調節異常が起こって発症するといわれています(表)。
遺伝はありますが、それほど強いものではありません。
ちなみに、一卵性双生児(遺伝的に全く同一)で、片方がSLEである場合、他方もSLEに罹る確立は50−60%といわれています。
しかし、二卵性双生児(遺伝的に一部共通)の場合、この確立は10%以下になります。恐らく、親がSLEの場合、子供も病気になる確立は10%以下と思われます。
人口10万人あたり約50人の患者さんがいると言われています。
浜松市の人口が約50万人ですので、浜松市には250人の患者さんがいると計算されます。
女性が多く、9割は女性ですが、若年又は高齢での発症の患者さんの場合、性差は少ないと言われています。
発症は妊娠可能な年齢層の人に多く、女性ホルモンの影響が示唆されています。
全身性エリテマトーデスの症状は多彩で、複数の臓器が障害される全身の病気です。
よく見られる症状は表にしました。注意が必要なのは1人の患者さんに必ずしもこれらの症状のすべてが現れるわけではないということです。図を見てわかるように、神経症状は20%以下の人しか発症しません。
この様に、全身性エリテマトーデスに罹っても全ての症状を起こすわけではなく、またその程度も様々であることから、それぞれの患者さんの症状に応じた治療、日常生活の注意が必要です。
例えば、45%の患者さんは日光過敏症を伴い、日光(紫外線)により皮疹がでたり、病気が悪くなることがあります。
このため日常、直射日光に当たらない注意が必要です。しかし、日光過敏症のない人は直接日光を極端に避ける必要はありません(図)。
全身性エリテマトーデスの診断に用いられる検査は表に示してあります。
抗DNA抗体や抗Sm抗体は全身性エリテマトーデスに特異的な検査所見で、診断に有用です。
しかし、これだけでは、全身性エリテマトーデスの診断はできません。
表に示した診断基準項目のうち4項目以上が陽性の時、全身性エリテマトーデスであろうと判断されます。
病気の活動性を判断するためには補体価が重視されます。
全身性エリテマトーデス免疫複合病といわれ、病気の活動性が高いと血液中に免疫複合体(抗体と抗原の結合したもの)という物質ができます。
この免疫複合体が腎臓や血管などに沈着して炎症反応や組織障害を起こすとされています。
免疫複合体が血中にあると、やはり血液中にあり免疫複合体の材料である補体が消費されるため補体価が下がり、病気の活動性を知る指標となります。
全身性エリテマトーデスの治療は表に示したように、薬物治療、血漿交換療法、日常生活指導などからなりますが、主体は薬物療法です(表)。
特に、副腎皮質ホルモン剤がその中心であり、1940年代より全身性エリテマトーデスの予後は著しく改善されました。
副腎皮質ホルモン剤(プレドニン)の副作用がしばしば問題となりますが、病気をコントロールする上で、現在ある治療法の中で最も有用であることも知っておいてください。
副腎皮質ホルモンの副作用を最小限にするには、中途半端な量をいつまでもだらだらと続けるのではなく、始めに十分な量を使って病気を鎮静化し、その後、速やかに減量して必要最小限の量を維持量とすることが大切です。
副腎皮質ホルモン剤で十分な効果がでないとき、大量の副腎皮質ホルモン剤を用いるステロイドパルス療法、免疫抑制剤、血漿交換療法などが行われます。
特に、最近は、ステロイドが効きにくい難治性のループス腎炎に対してはエンドキサンパルス療法が行われ、腎不全に進行するのを阻止する力が最も高いとされています。
表に東京都衛生局が作成したSLEの生活指導指標を少し変更して示してあります。
その時どきの病気の活動性(寛解期、軽症、中等症、重症)に応じて生活パターンを変える必要があります。
日常生活の注意は2つあります。ひとつは、全身性エリテマトーデスの誘因を避けること、もうひとつは副腎皮質ホルモンの副作用を最小限にする努力です。
表に示したように、病気の誘因には、紫外線、妊娠・分娩、寒冷、手術などのストレスがあります。
日常生活において、これらに対する特別な配慮が必要です。
副腎皮質ホルモン剤の副作用には、糖尿病、肥満、感染しやすくなる、胃潰瘍、骨がもろくなる(骨粗鬆症)等があります。
肥り過ぎに注意し、刺激物・消化の悪いものは避け、カルシウムの多い食べ物(牛乳、小魚等)を摂るとよいと考えられます。
また、胃潰瘍や骨粗鬆症の予防に抗潰瘍薬やビタミンDを飲んでおくのも良いかと思います。
これら副腎皮質ホルモン剤の副作用のうち、骨粗しょう症以外の副作用は薬の減量によって治っていきます。
全身性エリテマトーデスは妊娠可能な女性に多いことから、しばしば妊娠と分娩の可否が問題となってきます。
原則として、全身性エリテマトーデスの妊娠は禁忌ではありません。
しかし、いくつかの点に注意しなくてはいけません。全身性エリテマトーデスでは、妊娠しにくいことが多く、また、副腎皮質ホルモン剤自体によって生理が乱れる事もあります。
また、妊娠中、流産や死産する確立も健康人よりやや高くなっています(図)。
そして、分娩後6ヶ月以内に病気が急に悪くなることもあります。
そのため、次の点を守るようにしてください。
第1に、妊娠前1年間は病気が落ち着いていること、第2に、著しい臓器障害(腎不全や心不全)がないこと、第3に、分娩後もしばらくはきちんと受診して、病気の増悪がないかを観察することです。
分娩後の急性増悪の危険性は人工流産の場合も同じです。
原則として、重い臓器障害の等で母体に危険がある時など妊娠継続が困難である場合以外は、人工中絶の必要はありません。
また、副腎皮質ホルモンには胎児への影響はほとんどないとされています。
勝手に薬を減量、休薬することは止めてください(表)。