大晦日METビューング(2009年12月31日)歌舞伎座にて



新年明けましておめでとうございます。

晴れているので日差しは暖かですが、気温は上がらず、日本全体が冷え込んでおります。
景気も未だ回復せず寒さが一層身に染み入るようでございます。
しかしながら、そんな時だからこそ身近な人たちと支え合い、助け合い、励ましあって、心と心を通わせて
温かい気持ちを一緒に持ち続けましょう。
幸い多くの方たちと一緒に歌い、演奏させていただいております。
歌っているときの皆の楽しそうな笑顔が光って見えます。 心の底から声を出して歌うと身も心も温まります。
人々の輪もでき、広がっていき、力が湧いてくるような気がします。
今年もこの燃えるような情熱を絶やさないように皆さまと共に歩いていきたいと思います。 
           
どうぞよろしくお願い申し上げます

さて、大晦日はここ三年続いている恒例?の歌舞伎座でのメトロポリタン・オペラ公演を、
「歌舞伎座さよならプレミア上映」のプッチーニの未完の大作「トゥーランドット」を観に行きました。
NYメトロポリタン歌劇場で2009年11月7日に収録されたものです。


出 演 : 
トゥーランドット ・・・ マリア・グレギーナ

リュー ・・・・・ マリーナ・ポプラフスカヤ

カラフ ・・・・・ マルチェッロ・ジョルダーニ

ティムール ・・・・ サミュエル・レイミー

指 揮 : アンドリス・ネルソンス   
演 出 : フランコ・ゼッフェレッリ
今回は演目が「トゥーランドット」であること、歌舞伎座の最後の公演であること、またMETビューイングが認知されてきたことなどで、一昨年、昨年と比べても観客数が圧倒的に多いように見えました。
ご覧の通りこのような混みようです。





もう本当に最後かと思っておりましたところ、平成22年4月興行まで、と大きく書かれておりました。
歌舞伎座は1889年に建てられました。 外観は鉄筋コンクリートの和風建築で、内部は和風木造の3階建てになっています。
2013年の春に新劇場とオフィスビルを併設した建物に生まれ変わります。




2階席での観賞でしたのでそこで記念撮影しました。
多くの方たちが、会場内で記念撮影をしていらっしゃいます。
ここを取り壊すということは、歴代の歌舞伎役者たちの名演技などの数々の想い出がいっぱい詰まっているわけですから寂しいですね。



歌劇「トゥーランドット』は、プッチーニ(1858〜1924)最後のオペラで、二幕までは完成させたのですが、1924年11月29日に亡くなりました。
あとはスケッチなどをもとにフランコ・アルファーノにより1926年に1月に完成し、1926年4月25日にトスカニーニによりミラノで初演されました。
このオペラの完成に当たってはいろいろエピソードが残っています。
実際プッチーニが完成させたのは、第三幕リューの自殺の場面までで、初演の際、トスカニーニはこの場面でタクトを置いて、追悼の言葉を述べ幕は下ろされました。
2日後にこのアルファーノの補筆分も含めて第三幕まで上映されました。

さて、本日のオペラの方ですが、それはそれはゼッフェレッリ演出の豪華絢爛な舞台で楽しませてくれました。
以前に何度かこのオペラを観ていますが、これほど細部にわたって綿密に細工が創られているのは初めてでした。
トゥーランドット役はドラマティックな高音の連続で体力的にも大変な役柄です。
歴代このトゥーランドットを歌う歌手は(というより歌える歌手といった方がいいでしょう)、ビルギット・ニルソン、モンセラート・カヴァリエ、ゲーナ・ディミトローヴァといったごく少数の歌手たちしかいませんでした。
ワーグナー級の超ドラマティック・ソプラノの声が要求されるからなのです。
氷のような心の姫君ですから、誰からも同情もされず、損な役であると彼女はインタビューで語っていましたが、歌うだけでも大変な役なのです。
ゲルギーナの声がこの役柄にピッタリかどうかはわかりません。 ちょっと冒険のようにも思いますが。
この公演で彼女は若干太めの声で、それを終幕まで歌い通せたのは驚くべきことだと思いました。 
私はパリのオペラ座で彼女の『トスカ』を聴いています。 でもその時よりは少しふくよかになっているような気がします。 ですからトゥーランドットを歌えたのでしょう。
カラフ役のマルチェッロ・ジョルダーニは大柄な人で高音は「いくらでも任せなさい」というような出し方で立派でしたが、一方中低音はパサパサした響きのない声になってしまっていました。 体格からいっても日本人にはない豊かな、いいテノールです。 これだけ強靭な高音を出せるのですから。
さて皆さまも良くご存知の『誰も寝てはならぬ』は3幕で歌われます。
トリノ冬季五輪の開会式でパヴァロッティが歌い、荒川静香がこの曲を使って演技した、もう誰も知らない人はいないアリアですね。    
声は良く出ていて安定しているのですが、私はもっと心のひだ、精神を艶やかに歌って欲しいと思いました。
画面では、アップで映し出され、劇場で生で見るよりは色々なことが見えてしまいます。
リューは、拷問にあいながらもそれに耐えて、口を割らずに自殺してしまう役柄です。 この歌手ポプラフスカヤは、2007年にメトデビューしたばかりの若手です。 艶のある美しい好感の持てる声で演技もとてもよかったです。
最後、群衆の前でカラフとトゥーランドット姫は愛の二重唱を歌ってハッピーエンドになります。
このデュエットは最後ということだからでしょうか、伸びのある気持ちのこもった演奏でしたね。
新鋭指揮者のネルソンスは、1978年ラトヴィア出身の若手ですが、オーケストラをドラマティックに鳴らし、その響きが終わってからも身体を包み込んでくれているような感じで聴き応えがあり、よかったと思いました。

この『トゥーランドット』は1月16日〜22日、新演出のオッフェンバッハの『ホフマン物語』(ネトレプコ等出演)は1月23日〜29日に、リヒアルト・シュトラウスの『バラの騎士』(フレミング、グラハム等出演)1月30日〜2月5日に、とまだまだMETビューイングが続きます。
前年度はさいたま新都心のMOVIXさいたまでも見られたのですが、余りにもお客様が少なかったからか、今期は埼玉では上映されません。
ご覧になりたい方は新宿ピカデリー、東劇で観る事が出来ます。
詳しくは公式HPをご覧くださいませ。  ⇒  MET LIVE VIEWING