METビューイング ビゼー『カルメン』 (2010年2月6日)
指 揮 : ヤニック・ネゼ=セガン
演 出 : リチャード・エア
《キャスト》
カルメン : エリーナ・ガランチャ
ミカエラ : バルバラ・フリットリ
ドン・ホセ : ロベルト・アラーニャ
エスカミーリオ : テディ・タフ・ローズ(代役)
今回は、午前中行かれる日がないので新宿ピカデリーではなく東劇で観賞しました。
毎週見るためにスケジュールの調整が大変です。 19時から始まり22時半までかかります。
今までのようにシネコンではなく、昔ながらの映画館です。 細長く奥深いので画面が遠目に見えますが観賞上問題はありません。 音量がちょうどよく自然に聴くことができました。 今までで一番聴きやすかったですね。
カルメン役のガランチャは、昨年のロッシーニ『チェネンレトーラ』以来の出演です。 相変わらず素晴らしい歌唱と色っぽい演技を見せてくれます。 歌い演じている彼女が楽しみながらやっているのでカルメンの自由奔放さが最高に表現されて、見ていて気持ちいいですね!
ドン・ホセ役のアラーニャは、私が記憶している限り、フランス人のテノールでは初めてのような気がします。
フランス出身のテノールは今まで耳にすることはなかったです。 フランス人歌手といえば先月98歳で亡くなられたカミーユ・モラーヌを初めとして、シャルル・パンゼラ(厳密にはスイス出身)、ジェラール・スゼーなど名バリトン歌手が多いですものね。
今までこの役柄の歌手では、映画でも出演したプラシド・ドミンゴ、ジョン・ヴィッカース、CDではホセ・カレーラスといった声で馴染んでいますので、音楽で言えば本場ものといえるのですが、いささか異質に聞こえます。
もともとアラーニャは高音をバリバリ出す歌手ではなく、パンゼラや、スゼーのようなハイ・バリトンっぽい歌手です。 ソフトな声質でピアニッシモの高音はさすがに厳しく、気になる箇所(劇場ではさほど気にならないでしょうが)が映像ではわかってしまいますね。
相手役のガランチャが威勢のいい声で攻め立て完璧な歌唱ですから、当然ドン・ホセにも求めてしまいます。
いつの世でも世界的にこのテノール役は不足しているのではないでしょうか。 カレーラス、ドミンゴ、パバロティ級の偉大な歌手が同時にいたことが奇跡みたいなものです。 我々は幸せでしたね!
さて、このオペラで『カルメン』で忘れてならないのはミカエラです。
今回これを歌ったのは。 バルバラ・フリットリ。 昨年9月にミラノ・スカラ座来日の際来ましたね。
このミカエラはとても素晴らしいし、カルメンとの性格的な役柄の対比でもとてもよかったです。
エスカミーリオ役の テディ・タフ・ローズは、ニュージーランドのクライスト・チャーチ出身とインタビューで言ってました。 キリ・テ・カナワ以来のニュージーランド人歌手です。 今回開演3時間前にマリウーシュ・クフィエチェンの体調不良のため急遽デビューとなったのです。
エスカミーリオ役はデリケートで神経質なドン・ホセの対比からいくと、強くて怖い存在、そしてどっしりして貫禄ある役柄だと思うのですが、とても精悍な性格のよい明るい若者に見えてしまいました。
声量は充分でよい声を持っていますが、闘牛士の男気やセックスアピールが足りない気がしました。
沢山の闘牛士の中からカルメンが惚れたエスカミーリオとしてはちょっと役不足のような気がします。
いい歌手は揃っているのですが、役柄のバランスからすると女性陣が勝り、男性陣はもうちょっとといったところでしょうか。
各幕開きの間奏曲のところでバレエ・ダンサー(カルメンとドン・ホセ)の踊りを挿入してシーンを語らせていたのは素敵でした。
指揮者はMETデビューの若者でがんばっていましたが、これからの指揮者なのでしょう。 こんなすばらしい演奏者の指揮がデビューなんて幸せですね。
演出は、いくらか食傷気味のオペラを、コロッセウムのような巨大な舞台を設定し、また最終幕も闘牛場の建物の裏側でホセとカルメンを演じさせるアイディアは目新しくよかったのですが、カルメンが殺された後、舞台が裏側に移動し闘牛士(エスカミーリオ)が闘牛をしとめた場面を表示して幕を閉じたのは、クライマックスの緊張感が保てなかった気がしました。 カルメンを剣で刺すドン・ホセとの場面は床に剣を勢いよく突き刺したり迫力満点でしたのに。
演劇、映画などで活躍している演出家がオペラを演出すると、見た目より複雑かつ深く掘り下げてリアルな見せ場を沢山作り、視覚的にも演劇的にも興味あるものになっているように思います。
歌手たちも歌唱力だけでなく演技力も求められ、それに応えるために、いっそうこういった役柄は大変になってくるように思いました。
歌劇『カルメン』は、音楽が余りにも有名で世界中で頻繁に上演されるので、通常のものでは飽き足らなくなってしまっているからなのでしょうか。
次回は久しぶりにドミンゴ主演(今回はバリトンで)の『シモン・ボッカネグラ』です。