METビューイング ヴェルディ 『シモン・ボッカネグラ』(2010年2月27日)


METで2010年2月6日公演

 指揮 : ジェイムズ・レヴァイン
 演出 : ジャンカルロ・デル・モナコ

《キャスト》
 シモン・ボッカネグラ : プラシド・ドミンゴ
 アメーリア : エイドリアン・ピエチョンカ
 ガブリエーレ : マルチェッロ・ジョルダーニ
 フィエスコ : ジェイムス・モリス



前回の『カルメン』と同様、東劇で19時からの観賞となりました。
『シモン・ボッカネグラ』は日本ではあまりなじみがありませんが、欧米では人気があり比較的よく上演されているようです。
今回の指揮にあたった、レヴァインはとても気に入っているオペラだと、インタヴューで語っていましたし、テノールのドミンゴがわざわざバリトンの役であるシモン・ボッカネグラを演じたかったというのもそれなりの重要な演目であるという証しなのでしょう。
日本での初演は、NHK招聘でたびたび行なわれていたイタリアオペラ公演で、1976年9月にNHKホールで行なわれた、オリヴィエロ・デ・ ファブリティースの指揮、NHK交響楽団の演奏です。
キャストは伝説のシモン・ボッカネラ役にピエロ・カプッチェルリ、アメリア役にカーティア・リッチャレッルリ、フィエスコ役ににニコライ・ギャウロフ、ガブリエーレ役にジョルジョ・メリーギ、パオロ役にロレンツォ・サッコマーニと当時最高のキャストで行なわれ日本の聴衆に感銘を与えました。この演奏はDVDにもなっています。
また同じ頃録音されたもので、テノールのガブリエーレ役がホセ・カレーラスに入れ替わり、アバードの指揮でミラノ・スカラ座の演奏がCDであります。
終幕間際に鳴る鐘の印象がとても強く、『シモン・ボッカネグラ』と聞くとすぐにこれを思い出すほどです。

さて、何故ドミンゴが引退するまでには是非ともシモンを演じたいと思うほどのオペラなのでしょうか?
日本公演の時もそうですが、当時このシモン役はピエロ・カプッチルリという名バリトンが当たり役で演じていました。 そのバリトンの声が耳に残っているので、このドミンゴ演じるテノール声のシモンにはプロローグ、第1幕はどうも馴染めず正直違和感を憶えました。 またドミンゴも最初はやはり低めの響きにどうもしっくりいかず役柄にも今一歩踏み込めないように思われました。 
しかし名優ドミンゴは第2幕、第3幕と進行するにつれ声質に関係なく独自のシモンを演じ、終幕特にフィナーレは見事に演じきり、流石にただのオペラ歌手でないことを証明してくれました。 本当に見事に!
アメーリア役のピエチョンカはいくらかビブラートが気になりましたが、役どころを立派に歌いきりよかったです。
ガブリエーレ役のジョルダーニはこのところMETビューイング頻繁に登場しています。 『蝶々夫人』、『トゥーランドット』と立て続けの大活躍です。 ちょっと出過ぎの嫌いがなくもありませんが、今はどんな役でもこなし、より声を安定させ、一段高いテノール歌手への飛躍の時期なのかもしれませんね。 
フィエスコ役は偉大なバス・バリトンが演じる大役です。 ジェイムス・モリスはバイロイトで『ニーベルンクの指輪』でヴォータン役を演じていますし、期待していたのですが、低音部があまりよく響かず、また高音域も今一つ安定感を欠き不調でした。 この日(2月6日)は土曜公演のマチネーであったため歌手にとってはすこし厳しかったのかもしれませんね。
このオペラは父娘の劇的なストーリーですので、音楽にも自然その複雑な心理描写を表現させています。
とてもエモーションなメロディーが多く流れます。 美しく哀愁を帯びた音楽で素敵なのですが、ともすると感情過多になってしまいがちです。 そこを来年メト・デビュー40年目を迎える、百戦錬磨のレヴァインはうまくコントロールできていたと思います。 
ドミンゴは、いつも高音を朗々と鳴らすかっこいい主役を演じるのばかりではなく、このような父娘の情感をテーマにしたオペラを愛情のこもったバリトンの声で歌ってみたくなるのでしょうか。
聴いている側でも、そのドミンゴの熱意が伝わり、久しぶりに聞いた『シモン・ボッカネグラ』が好きになりました。

インタビューでまだまだテノールとしても歌うし、たとえば『タイス』のアタナエルなどバリトンの役もやっていきたいと話していました。 バリトン役は年相応の役なので、無理をしなくていいので楽だと言ってましたね。

そしてドミンゴは、メトロポリタンで2月6日にこのシモン役を演じ終え一週間後の13日、14日はテレビ東京開局45周年記念イベントのため東京国際フォーラムで『オテロ』、『シラノ・ド・ベルジュラック』、『カルメン』などの第4幕を演奏会形式で公演(13日)。14日は『アイーダ』を指揮したのでした。 S席が52500円!高すぎますね。 もちろん行きませんでした。
そして日本公演中に腹痛に襲われニューヨークの病院の緊急入院騒ぎとなったのでした。(NYタイムス2/22)) 
ゆっくり養生してくださいね。 まだまだドミンゴさん(1941年生)の歌は素晴らしい! 

次回は、4月10日〜16日にトマ『ハムレット』です。